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第6章:灼炎の祠と銀狼獣人編
第12話:ルトの魔道具屋
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その日の夜、部屋で待っているとシレイドがやって来た。
「で、どうした? オルガの依頼の『おかしさ』って何だ?」
「単刀直入に言う……オルガは催眠魔法にかかっている……」
俺の問いかけに、シレイドが真剣な眼差しで応える。
「催眠魔法?」
「……そう。……最初、依頼書を受け取った時にわずかに『匂い』が残ってた……今日の事で確信した……あれはあの男の匂い……」
苦々しい顔で言葉を続けるシレイド。
「あの匂い……どっかで嗅いだことない?」
「あー、確かに覚えのある匂いだとは思ったが……どこだったかな……」
「……答えは『マンティスリリー』の匂い……」
シレイドの答えに、俺は目を見開く。
確か、『マンティスリリー』は『霧の森』で戦った蟷螂の魔物『リリーマンティス』のレア素材だ。
そうだ、あの時の匂いと同じだ。
「まさか……!?」
「……そう。『マンティスリリー』には催眠効果がある……リリーマンティスを鑑定してた時に表示されてたの覚えてる……?」
「ああ。確かにそう書いてあった」
シレイドは俺の言葉を聞いた後、目を閉じて語り出す。
「……闇ギルドにいた頃、ハニートラップが得意な仲間がいた……そいつは色んな人心掌握術に長けていた……その時、『マンティスリリー』で作った催眠香水『ドリームリリーパフューム』をずっと使っていた。一度嗅いだことがある……それと同じ匂いが、オルガの依頼書からも、あの男からもした……もっと早く気付くべきだった」
「まあ、でもその香水の匂いがしたからって、あの男が悪い奴だとは……」
「『ドリームリリーパフューム』は法律で禁止されている……それに、オルガの態度と独特の目つき……あれは他者に自分を好きにさせる『チャーム』の魔法によるもの……これも禁止魔法のひとつ」
「そんな……じゃあ、あの男は本当に……」
「……ん……オルガを催眠状態にして、素材をふんだくった悪い奴……しかも、法律を普通に破ってる……」
シレイドの言葉に、俺は声を失う。
「なるほど。リズたちの心証も、あの匂いのせいで高かったわけだ。軽い催眠にかかってたってわけだな」
「ん……でも、証拠が無い……匂いだけじゃ衛兵も動かない。……シレイドはこれから、あの男の家に忍び込もうと思う……昼の間に場所は突き止めた……」
シレイドが地図を広げる。
町の商業地帯の一角に赤いマークがしてある。
「でも、それって、シレイドが犯罪になるのでは?」
「……あの男が法を犯している証拠を掴めば、結果オーライ。シレイドは罪に問われない……でも、そうじゃなかったら、不法侵入……犯罪者……」
俺の言葉に、表情を変えずに言うシレイド。
「オルガを助けたいのは俺も同じだが、どうしてそこまでするんだ?」
「……オルガはこの服、作ってくれた……腕のいい職人。悪の道に引きずられていい人じゃない……それに、このままじゃ多分、全てを失うまであの魔導士に搾取され続ける……可哀想……」
俺の言葉に眉をハの字に曲げるシレイド。
「可哀想」か……あの感情に乏しかったシレイドがここまで言うようになったとは、主人として彼氏として嬉しい限りだ。
「……でも、シレイド……ご主人様の奴隷……ご主人様が許してくれないなら……行けない……」
しょんぼりと呟く彼女の頭を撫でてやる。
「許すに決まってるだろう? というか、俺も行くぞ。オルガを助けたいのは俺もだし、第一、大事な彼女を危険なところに一人で行かせるわけないだろう?」
「……もし、シレイドが間違ってたら、ご主人様も犯罪者になるかもしれないのに……?」
不安そうな顔で俺を見上げるシレイド。
そんな彼女に俺は胸を張って応える。
「俺の可愛い彼女が、間違ってるわけない!! だろ?」
俺の言葉に顔をパァッと明るくさせるシレイド。
俺たちは早速支度を済ませて、ルトの家へと向かった。
商店が立ち並ぶ小道の一角にそれはあった。
「『ルトの魔道具屋』……ここのようだな」
どうやらルトは表向き、魔道具屋として商売しているらしい。
「ん……人の気配はしない……気をつけて侵入する」
シレイドは鍵穴に指を当てて、スキルを使って開錠を行う。
ガチャリ……。
うむ、難なく開いた。
ランプをつけて、忍び足で『ルトの魔道具屋』に入る。
並べられている品々は変なところはない。
至って普通の魔道具といったところだ。
「おかしなところは無さそうだけど……」
「ん……ここは大丈夫……作業部屋に行く……」
シレイドが先導して、奥にある従業員スペースに進んでいく。
小さな明かりを頼りに、一つ一つ部屋を確認していくがリリーパフュームは見つからない。
時間的にもロスが激しくなってきた。
そろそろ、捜索も限界かと思った時、通路の一番奥に何やら仰々しい錠前がつけられた扉が現れる。
真っ黒で、何やら魔法文字のような紋章が彫ってある。
怪しい……。
「シレイド、この鍵、開けられるか?」
「むふー♪ ジョブチェンジしたから開けられる鍵が増えた……多分、これも大丈夫……『開錠』……」
ガチャリ……。
リズがスキルを使うと、錠前はボトリと床に転がり落ちた。
「この部屋が白だったら、さっさとずらかろう。ただの不法侵入になってしまう」
「ん……了解」
俺たちは、意を決して奥の部屋に足を踏み入れた。
「で、どうした? オルガの依頼の『おかしさ』って何だ?」
「単刀直入に言う……オルガは催眠魔法にかかっている……」
俺の問いかけに、シレイドが真剣な眼差しで応える。
「催眠魔法?」
「……そう。……最初、依頼書を受け取った時にわずかに『匂い』が残ってた……今日の事で確信した……あれはあの男の匂い……」
苦々しい顔で言葉を続けるシレイド。
「あの匂い……どっかで嗅いだことない?」
「あー、確かに覚えのある匂いだとは思ったが……どこだったかな……」
「……答えは『マンティスリリー』の匂い……」
シレイドの答えに、俺は目を見開く。
確か、『マンティスリリー』は『霧の森』で戦った蟷螂の魔物『リリーマンティス』のレア素材だ。
そうだ、あの時の匂いと同じだ。
「まさか……!?」
「……そう。『マンティスリリー』には催眠効果がある……リリーマンティスを鑑定してた時に表示されてたの覚えてる……?」
「ああ。確かにそう書いてあった」
シレイドは俺の言葉を聞いた後、目を閉じて語り出す。
「……闇ギルドにいた頃、ハニートラップが得意な仲間がいた……そいつは色んな人心掌握術に長けていた……その時、『マンティスリリー』で作った催眠香水『ドリームリリーパフューム』をずっと使っていた。一度嗅いだことがある……それと同じ匂いが、オルガの依頼書からも、あの男からもした……もっと早く気付くべきだった」
「まあ、でもその香水の匂いがしたからって、あの男が悪い奴だとは……」
「『ドリームリリーパフューム』は法律で禁止されている……それに、オルガの態度と独特の目つき……あれは他者に自分を好きにさせる『チャーム』の魔法によるもの……これも禁止魔法のひとつ」
「そんな……じゃあ、あの男は本当に……」
「……ん……オルガを催眠状態にして、素材をふんだくった悪い奴……しかも、法律を普通に破ってる……」
シレイドの言葉に、俺は声を失う。
「なるほど。リズたちの心証も、あの匂いのせいで高かったわけだ。軽い催眠にかかってたってわけだな」
「ん……でも、証拠が無い……匂いだけじゃ衛兵も動かない。……シレイドはこれから、あの男の家に忍び込もうと思う……昼の間に場所は突き止めた……」
シレイドが地図を広げる。
町の商業地帯の一角に赤いマークがしてある。
「でも、それって、シレイドが犯罪になるのでは?」
「……あの男が法を犯している証拠を掴めば、結果オーライ。シレイドは罪に問われない……でも、そうじゃなかったら、不法侵入……犯罪者……」
俺の言葉に、表情を変えずに言うシレイド。
「オルガを助けたいのは俺も同じだが、どうしてそこまでするんだ?」
「……オルガはこの服、作ってくれた……腕のいい職人。悪の道に引きずられていい人じゃない……それに、このままじゃ多分、全てを失うまであの魔導士に搾取され続ける……可哀想……」
俺の言葉に眉をハの字に曲げるシレイド。
「可哀想」か……あの感情に乏しかったシレイドがここまで言うようになったとは、主人として彼氏として嬉しい限りだ。
「……でも、シレイド……ご主人様の奴隷……ご主人様が許してくれないなら……行けない……」
しょんぼりと呟く彼女の頭を撫でてやる。
「許すに決まってるだろう? というか、俺も行くぞ。オルガを助けたいのは俺もだし、第一、大事な彼女を危険なところに一人で行かせるわけないだろう?」
「……もし、シレイドが間違ってたら、ご主人様も犯罪者になるかもしれないのに……?」
不安そうな顔で俺を見上げるシレイド。
そんな彼女に俺は胸を張って応える。
「俺の可愛い彼女が、間違ってるわけない!! だろ?」
俺の言葉に顔をパァッと明るくさせるシレイド。
俺たちは早速支度を済ませて、ルトの家へと向かった。
商店が立ち並ぶ小道の一角にそれはあった。
「『ルトの魔道具屋』……ここのようだな」
どうやらルトは表向き、魔道具屋として商売しているらしい。
「ん……人の気配はしない……気をつけて侵入する」
シレイドは鍵穴に指を当てて、スキルを使って開錠を行う。
ガチャリ……。
うむ、難なく開いた。
ランプをつけて、忍び足で『ルトの魔道具屋』に入る。
並べられている品々は変なところはない。
至って普通の魔道具といったところだ。
「おかしなところは無さそうだけど……」
「ん……ここは大丈夫……作業部屋に行く……」
シレイドが先導して、奥にある従業員スペースに進んでいく。
小さな明かりを頼りに、一つ一つ部屋を確認していくがリリーパフュームは見つからない。
時間的にもロスが激しくなってきた。
そろそろ、捜索も限界かと思った時、通路の一番奥に何やら仰々しい錠前がつけられた扉が現れる。
真っ黒で、何やら魔法文字のような紋章が彫ってある。
怪しい……。
「シレイド、この鍵、開けられるか?」
「むふー♪ ジョブチェンジしたから開けられる鍵が増えた……多分、これも大丈夫……『開錠』……」
ガチャリ……。
リズがスキルを使うと、錠前はボトリと床に転がり落ちた。
「この部屋が白だったら、さっさとずらかろう。ただの不法侵入になってしまう」
「ん……了解」
俺たちは、意を決して奥の部屋に足を踏み入れた。
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