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第6章:灼炎の祠と銀狼獣人編

第9話:激突!ヘルズホーン

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 ダーティイーグルの群れを仕留めた俺たちは、魔獣の森の進行を再開する。
 魔物との戦闘も何度かあった。
 ブラッディウルフ、ネムボウとワイズマンボア、ポイズンリザード、マッチョバイソン、その死骸に群がるダーティイーグル。
 出現する魔物の種類が定型化してきたことから、これ以上新しい魔物は出てこないようだ。
 もちろん、油断は大敵。決めつけることはしないが。
 また、マーダーベアはあれから一度も遭遇していない。
 おそらく、霧の森でのホワイトチーターのようにレアポップの魔物なのだろう。
「レオ。探査とマッピングからして、魔獣の森も残りわずかだと思うわ。多分、もうすぐボスだよ」
「そうか。とりあえず、今日はボスエリアの前まで行きたいな」
 木々の間から差し込む僅かな光の傾きを見るに、午後二時か三時くらいだろう。
 日没にはワープで町に戻りたいから、ボス周回は明日にしよう。
 大抵は午前中で冒険を終える俺たちだが、ダンジョン探索の場合は日が暮れるまで活動することもある。
 再び進むこと一時間ほど、何度か戦闘を繰り返して、遂にボスエリアの前に到着する。
 目の前に細長い小道が続いている。
 霧の森と同じく、長い小道の先に大きな広場があり、そこに普通の魔物よりも大きい反応
があるらしい。
「ようやくここまで来たな」
「ふいー、流石に疲れたよ」
「シレイドも……へとへと……お腹すいた……」
「今日は帰ろう。満身創痍での戦いは危険だ」
「はい。私も魔力がカラカラです」
 俺の言葉にみんなも疲れ切った様子で応える。
 魔獣の森での戦いはなかなかにヘビーだったからな。
 セーラが加わって楽になったとはいえ、一筋縄ではいかない魔物が増えてきたし、エンカウント率も高くなってきた気がする。
 必然的に、疲労度に如実に表れるから何とも難儀なものだ。
 これでも、セーラの光魔法やポーションなどを使って適宜、回復には務めていたのだがな。
「よし。帰ろう」
 俺たちは、ワープを使い、エルゼリアの町に戻った。

「ふむふむ。じゃあ、お兄さん、今日はとっても疲れてるんだぁ」
 食事と風呂を終えて、深夜、バー・ラックステラで酒を傾ける。
 今日の夕食はシレイドの要望でネムボウ、マッチョバイソン、ダーティイーグルの肉フルコースだった。
 みんな、顔をゆるゆるにしながら「たまらない」「美味しい」と感想を述べあいながら大満足して食事を進めていた。
 帰り際に調理してくれたボニーにせがまれて、俺はこうしてバーに訪れたわけだ。
「魔獣の森は、普通冒険者にとっても難易度のそこそこ高いダンジョンだからね。五人で攻略するのは骨が折れるかもね。クランでも作って十人以上で攻略すれば楽なんだけど、報酬自体はその分減っちまうからね、一長一短だよ」
「そうだねー、五人パーティだと、あのダンジョンは少し戦力不足かも? まあ、それでも、お兄さんはまだワープが使えるから断然楽だよ。普通は野宿しながら神経ゴリゴリすり減らして攻略するんだもん。後半の疲労度は半端ないからね」
「だな……戦力不足は否めないが、森や山みたいに瘴気の薄い開けたダンジョンは、俺たちにとって攻略に適した大分有利なダンジョンなんだと思う」
 ジュリアとボニーが述べる所感に俺が応える。
「新しい仲間が加わったとはいえ、セーラは実質ヒーラー寄りの仲間だからな。戦えると言っても戦力強化の効果としては限定的だったか……」
 ささやきの洞窟攻略は余裕だったが、魔獣の森攻略でアタッカーの追加の必要性がより顕著になった。
 現在、リズとセーラは後衛として援護、シレイドは後衛を護りつつ投げナイフや近づく魔物をダガーで仕留める万能的な後衛、俺とキアラがアタッカーという形だ。
 ルクシアの彼女たちの所に行った時に、ついでに奴隷商館のローガンにも話は通して前衛の戦闘奴隷を探してもらっているが……どうなるだろうか。
「そんなに眉間にしわ寄せてシケた顔しないの♪ ほらほら、ボニーさんがおもてなししてあげるから♪」
 ギュッと腕に絡みついてくるボニー。二つの柔らかさが腕を包んで心地いい。
 彼女の屈託のなさに思わず笑みがこぼれる。
 二人の夜の蝶に心を救われながら、今日も夜が更けていった。

 翌日——。
 俺たちは朝から魔獣の森のボスエリアの前にワープする。
「今日でこの森を完全攻略する予定だ。みんな、早速ボス戦になるだろうが、心してかかってくれ」
 俺の言葉に四人が真剣な顔で頷く。
 長い小道を緊張しながら進んでいく。
 大きな広場に出ると、その魔物はいた。
 二本足で立つ、体長4mほどの黒いサイの魔物。
 凄まじい威圧感でこちらを睨んでいる。
 立派な一本角は硬化して毛皮とはまた違う黒光りをしている。
 鑑定を行う。

名前:ヘルズホーン
危険度:B
説明:二足歩行の黒いサイの魔物。瘴気を身体に大量に含んだことで、毛皮などが黒く変色した。勢いのある突進攻撃は当たれば一撃で骨がばらばらに砕けるほど。
素材:『地獄犀の毛皮』
レア素材:『地獄犀の黒角』

「みんな! あいつの攻撃は受けずに躱すんだ!」
「分かったわ!」
「……ん……了解」
「善処しよう!」
「は、はい!」
 俺の呼びかけに四人が応える。
 地獄犀はそんな俺たちを睨み続けて距離感を計っている。
 俺たちも、いつでも対応できるように武器を構える。
「……ボモオオオオオオオオオオオッ!!」
 しばらく膠着状態が続く……が、遂に耐え切れなくなったヘルズホーンがけたたましく雄たけびを上げて凄まじいスピードで突進してくる!
 狙いはシレイドだ!
 シレイドがひらりと躱して投げナイフを数本、その背中に突き立てる!
 勢いはそのままで、大木にぶつかるヘルズホーン。
 あの勢いでぶつかったら、自分にもダメージがありそうだが……。
 その時、地獄犀がぶつかった大木がミシミシと音を立てて倒れる。
 なんて威力だよ……。
「レオ……あの突進は本当に危険だ。元々身軽なシレイドや新緑のマントを装備しているリズなら躱せるかもしれんが、私やレオは紙一重……セーラは避けられないかもしれない」
 ふと見ると、セーラが息を飲んで立ち竦んでいる。
 少しばかり震えてるようだ。
「ああ。なるべく前衛である俺たちで注意を引くぞ……」
 キアラの言葉に俺は焦りを覚えながら応えた。
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