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第6章:灼炎の祠と銀狼獣人編

第1話:商人ヴィヴィ【☆】

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 朝食を食べた後、ジュリアに渡された住所の紙を頼りにエルゼリアの町を歩く。
 目的はもちろん、エルゼリア一の商人と言われるアイテム仲介人に会うためだ。
 手持ちの魔物素材もかなり多くなっているし、何より奴隷商館で仲間を買おうと思っているので、この辺でがっぽり稼いでおかなければと思っている。
「どんな人なんだろうねー」
「セーラは知らないのか?」
「はい……エルゼリアには数えきれないくらい店がたくさんあって、すべて把握している冒険者は少ないと思います。命を預ける冒険道具の事ですから、どうしても信頼できる馴染みの店というのができてしまいますし」
 リズとキアラとセーラが喋りながら少し後ろを歩いている。
 シレイドは俺の隣に位置取りしつつ、三人の話に耳を傾けているようだ。
 エルゼリアの町、第二層北西の商店街。
 その一番奥に、目的の店はあった。
「あった。ここだな『白兎の福耳』」
「ん……なんか、縁起のよさそうな名前」
『白兎の福耳』は三階建ての大きな商店だった。
 金色を基調とした豪奢な店構えで、商店街の一番奥にあるというのに、かなり目立っている。
 何というか……言い方は悪いが、成金の家みたいだな。
 入口の二枚扉を開けると、来客を知らせる鐘の音が「ゴーン、ゴーン」と店内に響き渡る。
 心の中で、思わず「神社か!?」と突っ込んでしまう。
「ふぇ~、色んなアイテムが一杯並んでる……」
「ん……レアアイテムもいっぱいある」
「店内看板によれば、一階はポーションや調味料などの一般道具から魔道具、二階は武器や防具、三階には様々な素材があるらしい。興味深いな」
「店中が金ぴかですねー、あまり『金』にはいい思い出は無いのですが、それでも綺麗です」
 リズたちが感想を口にしていると、二階からドタドタと誰かが階段を下りてくる。
「やあやあ、いらっしゃい! 何かお探しかなー?」
 階段を下りながら、俺たちに声をかけてくる身長130㎝ほどの女の子。
 その頭には白く長い耳がひょこんと付いている。
 これは、獣人だ。ウサギの獣人だ。
 街で見かけることはあるものの、こんな近くで獣人を見たことなどないので、内心、興奮している。
「あのー……もしもーし、大丈夫ですかぁ?」
「ん? あ、ああ……すまない、ちょっと考え事を……ジュリアからの紹介で来た、冒険者のレオだ」
「リズです♪」
「ん……シレイド」
「キアラだ」
「セーラです」
 後ろの四人もそれぞれ自分の名前を述べる。
「なるほど。キミたちがジュリア姉さんの贔屓の冒険者だね♪ ボクはヴィヴィ。この店を経営している商人さ♪」
 ウインクして応じる兎の獣人ヴィヴィ。
 桃色のボブカットに赤眼が明るい雰囲気とマッチして実にいい。
 ツルペタストンのスタイルだが、アラビアンチックな肌色の多い服を着ている。
 いかんいかん、思わず見とれてしまう。
 早速本題に入ろう。
「それで、ここで買取をしてくれると聞いたんだが」
「ああ、魔物素材の買取だったねー。もちろん、やってるよ♪ ジュリア姉さんから大体の話は聞いてるから。ささ、こちらへどうぞー」
 そう言って招かれたのは、奥にある大きな応接室。
 普通に学校の教室四つ分くらいの広さがある。
 ここなら、大きな素材でも確認できるだろう。
 部屋にあるテーブルにつくと、タキシードに身を包んだライオンの獣人が紅茶を出してくれる。店員なんだろう。
 たてがみがカッコよかった。
「じゃあまぁ、早速見せてもらえるかな?」
「ああ。とりあえず、ここに全部広げるぞ」
 俺とリズとキアラは、それぞれスペースを取りつつ、買取り希望の素材アイテムを出す。
 エルゼリア平原、いざないの洞窟、霧の森、ささやきの洞窟分なので大量だ。
 ちなみにシレイドは報酬自体を基本受け取っていないし、セーラも仲間になったばかりで素材の手持ちが無いので見学だ。
 ヴィヴィは「ほぉ♪」と嬉しそうな声を上げて、素材の確認をしていく。
「ロズベル、君はそっちの女の子たちの素材鑑定を頼むよ」
「はい」
 ヴィヴィが先ほどのライオンの獣人に指示を飛ばす。
 倒した魔物の素材に関しては平等に分けているものの、シレイドの分を主人の俺が受け取っているため、リズやキアラよりもどうしても量が多くなる。
 ギルドで貢献度稼ぎも兼ねて少しずつ換金もしているが、それでも倒す数の方が多いので貯まりまくっている。
 そのため、ヴィヴィが俺の素材を鑑定、ロズベルがリズとキアラの素材を鑑定するようだ。

「ではでは~、まずはエルゼリア平原の魔物素材からだね」
 ヴィヴィが広げられた素材に手を伸ばす。
「ふむ……赤い溶解液は鍛冶屋に回して金属加工の際に使ってもらって……大鼠の前歯は骨董品用、レッドスライムの核は香り付きの石鹸や芳香剤用に生活用品加工屋に……魔犬の毛皮と牙、王蜥蜴の爪はあの鍛冶屋に売ろうか、材料不足してたって言ってたし。王蜥蜴の尻尾の方は食材屋へと……悪魔花の蔦は、うん、木工屋に売ろう……悪魔花のはなびらは断然、魔道具屋だね。ポーション系の材料にするのが一番お得だし」
 ぶつぶつと言いながらメモを取り、素材の数を数え、振り分けていくヴィヴィ。
 ロズベルの方も黙々と仕分け作業をしている。
 かなりの量があるのに、あっという間に平原の分が終わった。
 続いて、霧の森の分に移る。
「霧茸の肉は食材屋……ジャンボスライムの溶解液は鍛冶屋行きだね……核の方は貴族向け石鹸用に生活用品加工屋へっと……百合蟷螂の鎌、白猟豹の毛皮と鉤爪、幻想熊の毛皮とたてがみは各鍛冶屋に回そうか、後で仕入れ値調べてっと……濃霧の胞子とマンティスリリーは魔道具屋へっと……」
 問題なく霧の森の分も終わる。
 次は、洞窟関連。
 いざないの洞窟とささやきの洞窟分を鑑定計上する。
「小悪魔の尻尾、リザードマンの爪、トロールの爪、穴狼の毛皮と鋭爪は言わずもがな鍛冶屋へ……土人形の塊、小岩兵の欠片は石材屋に卸すか……マッドアンバー、トロール石、ゴーレム石は宝石屋の方がいいよね……よし、これで終わりかな!」
 確認と鑑定は十五分ほどで終わった。
 ロズベルの方も、問題なく終わったようだ。
 流石、エルゼリア一の商人と言われるだけあって、動きや決断に迷いがなく慣れている。

 値段が確定するまで、さらに十分。
 再びテーブルにつき、ヴィヴィが買い取り額の書いた紙をそれぞれ差し出してくれる。
「お待たせ! こっちがギルドで換金してもらった場合の金額で、こっちはボクが買取した場合の金額ね♪」
 なんと……!
 額面を見て驚いた。
 ギルドで買取してもらった場合、約50万Gのところをヴィヴィの所では200万Gとなっている。
 約四倍だ。シャロンの所でも四倍の値段は出なかった。
 リズとキアラの方もかなりの額を提示されているようで、目が点になっている。
「あ、あのー……一応聞きますけど、どうしてこんなに増額されているんですか?」
 俺の質問に、リズとキアラも首を思いっきり縦に振っている。
「ボクはこう見えてもエルゼリア商会の会長だからね。一番高く売れるルートでアイテムを売っているだけさ。ボクとお客さん、そして卸売した商店との結びつきも深くなるからね。WinWinWin! ってやつだよ。 対して、ギルドはただまとめて市場に流すだけ、手数料も組織維持費の為の差引も高いからどうしても換金額は少なくなる。その分、冒険者ランクや貢献度という形で冒険者たちに還元している感じだね」
 なるほど。経済面での値段や絆を重視するか、あくまで冒険者としてギルドとの結びつきや実績を重視するかの違いってことだな。
「あとは、キミ達は『あの』ジュリア姉さんの紹介だからねー。素材の数も大口で持ってきてくれたし、多少の色は付けないとね♪」
 可愛くウインクしてくるヴィヴィ。
「さて、それじゃあどうする? ボクに買い取らせてもらえるかな?」
 そう尋ねられた俺たちの答えは決まっていた。
「「「よろしくお願いします!!」」」
 俺とリズ、キアラは深く頭を下げたのだった。

ヴィヴィ
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