上 下
148 / 220
第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第24話:女神との交信・セーラ編

しおりを挟む
 チュンチュンチュン……。
 心地よい朝が来る。
 窓から漏れる太陽、充実感のある気だるさが、昨日の愛あるアバンチュールを思い出させる。
 隣では、セーラが静かな寝息を立てて眠っている。
「また、新しい彼女を作ってしまったか……」
『何ですか? そのどっかのサムライみたいなセリフ』
「そんなつもりは無かったんだがな」
 いつも通り、女神メルヴィーナの声が響いてくる。
 もう、カーニバル後の登場にも慣れてしまった。
『いやいやー、今回も大活躍でしたね! レオさん! すごいですよぉ!』
 メルヴィーナがパチパチと拍手で称えてくれる。
 見えないが……。
「いやいや……今回はほとんどハルカたちの力だったんじゃないか? キブラと対立していたのだって俺たちと言うよりはハルカたちの方だったし」
『何言ってんですか! 捕らえられてるハルカさんたちを救ったのはレオさんでしょうが。ララさんがギルドに駆け込んだ時、エルゼリア追放覚悟でレオさんたちが助けに行かなければ、悪徳貴族キブラは野放し、ハルカさんたちやセーラさんは黄金の騎士団にたくさん酷いコトされてましたよ?』
「そういうものか、大したことしたつもりじゃないんだがな」
『そういうもんです。レオさんは、自分がされた行動を、いつも過小評価しすぎです』
 メルヴィーナは一つため息をして、言葉を続ける。
『……ひとつ、実際に起きたお話をしましょう。あるところに、一人の青年がいました。青年はいつも、村の近くの森で魔物を狩って、素材を売り、肉を食べて生活していました。ギルドにも所属せず、そんなことを続ける彼を、村の人は偏屈な人だと思っていました。彼自身も、自分が食べるためにしている事なので、村の人に偏屈と思われようがどうでもよかったのです』
「ふむ」
 俺の相槌を聞いて、メルヴィーナが続ける。
『ある日、青年が熱を出して寝込んでしまいました。するとどうでしょう。森の中の魔物が一日、二日、三日と経つごとに多くなり、遂には村にまで押し寄せてくるようになりました。そう、青年が魔物を狩らなくなったことで、飽和した魔物が村に押し寄せてしまったのです。青年が狩る魔物はせいぜい一日五匹程度。彼にとっても村人にとっても『些細なこと』でしたが、そんな少ない魔物を狩るだけでも、間接的に彼は村を救っていたのです。つまり!! 何が言いたいかと言いますと——』
 メルヴィーナが話を締めるように続ける。
『どんなに小さな言動でも、『他人』や『世界』に大きな影響をもたらすものなのですよ。良い方向にも、悪い方向にもね』
 なるほど。バタフライエフェクトというやつか。
 ともすれば、俺が冒険者として行ってきた一つ一つの行動が、俺の仲間や彼女、ひいては世界に影響をもたらしていると言っても過言ではない。
 事実、今の俺の周りの環境なんかは、その賜物だとも言えるのだから。
「ありがとう、メルヴィーナ。よく分かったよ」
 大切なことに気づかせてもらったお礼を、メルヴィーナに述べる。
『いえいえ、たまには女神らしいコトしませんと! そうだ! これからのご予定はどうするのですか?』
「うーん、とりあえず一流冒険者になりたいな。当面の目標は適当なダンジョンを攻略しつつ、前にボニーが言っていた四属性ダンジョンを踏破することだろう」
『うんうん! 次なる目標がちゃんと定まっているレオさんは偉いです!』
 女神に褒められる、なんだか、むず痒いが。
『とりあえず今は一流冒険者への道、突っ走っちゃってくださいな! まあ、その前に何度か朝チュンがある気がしないでもないですが……ではでは、ハブ・ア・ナイスライフ!!』
 女神の声が途切れる。
「一流冒険者か……」
 ルクシアでは初級冒険者の道を歩み、今はエルゼリアで一般冒険者となり活動している。
 この世界へ転生した目的は、人生を楽しむこと、つまり、自分がどれだけ大きな存在になれるかにかかっている。
「頑張らないとな……」
 ポツリと呟いた俺の背中をふわりと温かいものが包む。
「何を頑張るのですかぁ? レオ様ぁ……?」
 今さっき起きたのか、後ろからまだ眠気を帯びた声で抱きついてくるセーラ。
「セーラも彼女に加わったし、より一層、彼氏として冒険者として頑張らないとなって思ったんだよ」
 俺が答えると、セーラはニマーッと嬉しそうに顔を緩めて、頬に口づけてくれる。
「私も、レオ様のお役に立てるように頑張ります。だから、彼女としても仲間としても、たくさん頼ってくださいませ」
「ありがとう」
 彼女の言葉に嬉しくなって抱きしめ合う。
 そうして、セーラとの初めての朝が過ぎていくのだった。

 しばらく、セーラとゆったりと過ごした後、食堂に降りるとリズたちが談笑していた。
「お! お目覚めだね、お二人さん」
「昨夜はお楽しみだったようだな」
 リズとキアラが、笑ってからかってくる。
 セーラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 シレイドは、フレンチトーストらしき食べ物を、パクパクと食べるのに夢中だ。
「三人とも、もう起きていたんだな。セーラも正式に仲間に加わったことだし、これからのことについて少し話しておきたい」
 同じテーブルにつき、先ほど考えていたことを話すことにする。
「これから俺たちは、付近のダンジョンで活動しつつ、準備を整えて、四属性ダンジョンを目指すことにする」
「四属性ダンジョン……一流冒険者への登竜門と呼ばれる四つのダンジョンだな」
 俺の言葉を聞いたキアラが呟く。
「ああ。だが、さっきも言った通り、ちゃんと準備を整えてからだ」
「ん……賛成……。セーラも加わって、後衛が三人になった……前衛がご主人様とキアラの二人……前にも話したけど、もう一人前衛を探すべき」
「ああ。それについては考えがある。ルクシアの奴隷商館にもう一度、出向くことにする」
「それが手っ取り早いかもねー。仲間といっても、その辺の冒険者をホイホイ入れる訳にもいかないし、館主のローガンとは見知っていて実績がある分、安心できるしね」
「うむ、私も賛成だ。セーラはハルカの紹介だったからな。間接的にも、あの馬鹿貴族から私たちを守ろうとしてくれていたというのもあって、信用にたる人物だったが……他の冒険者だと、そう簡単には信用できまい」
 シレイドの提案に応えてやると、リズやキアラも賛同の色を見せる。
「奴隷を仲間にするとなれば、先立つものが必要だろう? 魔物素材も貯まりに貯まっている。どうする? ルクシアにあるシャロンの魔道具屋に卸すか? それとも、ギルドで換金してしまうか?」
「それについても考えていることがある。ジュリアから良い仲介人を紹介してもらえる手筈になっている」
 キアラの言葉に俺が答えると、ジュリアがレモン水を俺とセーラに差出しがてら、ニッコリと笑う。
「エルゼリア一の商人さ。ボウヤたちのことを伝えると『喜んでお会いしたい』って返事が来たよ。これ、店の場所だから、行ってみな」
「ありがとう。ジュリア」
 俺が礼を言うと、ウインクと住所を記した小さな羊皮紙を残して、去っていく。
「うふふ、順風満帆ですね」
 セーラが一連のやり取りを見て微笑む。
「よし、これからやることも決まったし、一流冒険者になるため、より良い生活のために頑張るぞ!」
「「「「おー!!」」」」
 俺の号令に、四人は大きく返事したのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...