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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第21話:ささやきの洞窟・弔い

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 しばらく進むと今度は、茶色くて小さな狼が数匹ウロウロと通路を徘徊している。
 こちらも、鑑定を行う。

名前:ホールウルフ
危険度:D+
説明:仄暗い場所に棲む狼の魔物。茶色く、暗闇で目立たない保護色の毛を持つ。素早く、爪なども鋭いが、目が退化しているため、細かく動きを読まれることは少ない。
素材:『穴狼の毛皮』
レア素材:『穴狼の鋭爪』

「数が多いな。魔法で一撃とはいかなそうだ」
「なら、私たちの出番だな」
「ん……!!」
「準備できてるよ!」
 俺の言葉にリズやキアラたちが意気込んでいる。
 俺も剣を抜いて、機を窺う。
「私は後方から援護いたします」
 セーラも戦闘準備をする。
「よし! 行くぞ!!」
 俺が号令をかけると、シレイドとキアラがホールウルフに突撃していく。
 キアラが薙ぎ払いで数匹を吹っ飛ばし、まだ息のある穴狼をシレイドがダガーで仕留めていく。
 遠くにいる個体は、リズのクロスボウが射抜いていく。
「エルシャイン!!」
「ギャイン!!」
 セーラが唱えると、光の矢がホールウルフを貫く。
 あれが、光の攻撃魔法か……。
 穴狼二匹を相手にしながら、セーラの戦いぶりを見る。
 これならば、充分パーティでやっていけそうだな。
「おっと……ふんっ! エルファイア!!」
 斬り払いで動きがのろくなったホールウルフからの攻撃を避ける。
 そして、その首元を掴み、火属性魔法を発射。
「グルウゥ……」
 ホールウルフは力なく倒れる。
「あと一匹……!」
 ホールウルフと対峙した瞬間、真横からざっと影が飛び出してくる。
 シレイドだ。
 防具が新しくなって上機嫌で張り切っているらしく、残り一匹のホールウルフを瞬時に切り裂いて倒す。
「むふー♪ 新しくなったシレイドは無敵……! ご主人様……褒めて褒めてー!」
「おう、ありがとな。シレイドは偉いぞー」
 ひしっとズボンにしがみついてくる彼女の頭を撫でてやると、満足げに微笑む。
「シレイドさんは随分とレオ様に懐いているようですね」
「レオは奴隷でも、ちゃんと一人の女の子として接してくれるからね」
「うむ。頼りになるリーダーであり、みんなの恋人だ」
 セーラの言葉に、リズとキアラが笑って応える。
「……皆さんの恋人……ですか……」
 その言葉を聞いて、セーラは頬を緩ませる。
 何はともあれ戦闘終了だ。
 ホールウルフの素材を回収して先に進む。

 その後も、何度か戦闘を繰り返して洞窟の奥へと進んでいく。
『いざないの洞窟』で一度戦っていた『インプ』はもちろん、『リトルゴーレム』『ホールウルフ』も俺たちの敵ではなかった。
 まあ、ダンジョンにおいては余裕を持ちながら攻略するようにしているしな。
 セーラの話から、危険度は『いざないの洞窟』の少し上だと推測出来ていた。
 彼女が仲間に加わったことで、単純に戦力もアップしたので、案の定、気が緩みそうになるくらい簡単に攻略できている。
 そうして、探索を開始して二時間ほど経った頃だろうか。
「そろそろ、私の仲間が眠る場所です」
 沈痛な面持ちを少しばかり浮かべて、セーラが教えてくれる。
 狭い通路を抜けると、少し広い小部屋のような空間に出る。
「ここか……」
 前方に人骨が三体ほど見える。
 そばには剣や盾、ボロボロになった鎧などが散乱していた。
「ここで……私がいたパーティは、見たことも無い魔物の軍団に襲われました……。どの魔物も危険度が高く、中級冒険者の私たちでは歯が立たない強さでした。リーダーは勇敢な青年だったのですが、仲間を逃がそうと盾になって一番最初に犠牲に……次々に襲われ倒れていく仲間たちに何もできず、私も手傷を負わされて気を失いました」
 仲間の亡骸の前で跪き、祈りを捧げるセーラは、苦しそうな顔で言葉を続ける。
「目を覚ますと魔物の姿はなく、黄金の騎士団とキブラが立っていました。『自分たちの仲間になれ。そうすれば助けてやる』と言われて、藁にも縋る思いで首を縦に振りました……それが、全部キブラの策略とも知らずに……」
 罪の意識で押しつぶされそうなのであろう彼女の肩にそっと手を置く。
 リズとキアラも優しく彼女に寄り添う。
 シレイドは近くにあった平べったい石を使い、器用に骨を埋める為の穴を掘っていた。
「君のせいじゃない」
 俺が一言だけ彼女に言葉を投げかけると、決壊したように涙を流すセーラ。
 そんな彼女をしばらく慰める。

 どのくらい経っただろうか、シレイドが全員分の穴を掘り終わり、駆け寄ってくる。
「死んだ人は……ちゃんと弔う……そうすれば、また世界を回す歯車に加われる……。その歯車がセーラと噛み合えば、生まれ変わりだろうが何だろうが、いずれ……また会える」
「うふふ……そうですね、シレイドさん」
 シレイドの言葉に、セーラが頬を濡らし優しく笑う。
 傍にあった大きな石を墓石にして、三人をそれぞれの穴に納骨した。
 リズが採集していたフィールドアイテムの花を捧げる。
「装備品はどうする?」
「ギルドを通して、家族の元に届けてもらおうと思います。亡くなったという事実は知らされているでしょうが、遺品は持っていないでしょうから」
 セーラは三人の装備などを丁重に袋の中に入れる。
 俺たち五人は、墓の前で手を合わせる。
「セーラのことは、俺たちが引き受けます……だから、安らかにお眠りください」
 俺の言葉を聞いて、セーラはまた、一筋の涙を流す。

 セーラのパーティの仲間だった三人の弔いが終わる。
「ありがとうございます。皆さん。ここまでついて来てくださって」
 深々と頭を下げるセーラ。
「いいって、そんな畏まらなくても。俺たちは仲間だ。当然のことをしただけだよ」
 リズたちも、うんうんと頷いている。
「さーて、帰るか」
 俺の言葉に、みんなも賛成し、ささやきの洞窟を後にするのだった。
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