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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第15話:キブラの館

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 キブラの屋敷に向かうと、武装した『黄金の騎士団』たちが警備をしていた。
「へへへ、何の用だ?」
 黄金鎧の冒険者たちが下品な笑いを浮かべる。
「ハルカたちを捕えているらしいな。返しにもらいに来たぞ」
「はぁ? 『赤の女王』はハクオウ山で全滅したはずだろう? ここにいる訳ねえじゃねえか」
 俺の言葉に、とぼける冒険者たち。
「そんなの嘘っす!! 白々しいっす!! あたしの能力で、ハルカさんたちのオーラがこの屋敷からバチバチ感じるんすから!!」
「はぁ……何を言い出すかと思えば、仲間が死んで頭がおかしくなったのか?」
 連中がララを指さしゲラゲラと笑う。
「お前らが嘘をついていると確定した。悪いが屋敷を調べさせてもらうぞ」
「何言ってんだ? お前?」
「それはこっちのセリフだ。どうしてハルカたちが『ハクオウ山で全滅した』と知っている?」
「なっ……そ、それは!?」
 そう。ギルドでさえ、さっきララが報告した時に知った情報のはずだ。
 ハルカがどんな依頼を受けていたかも、彼女たちしか知らない。
 ギルドマスターと繋がっているとしても、何もないのにピンポイントでハルカたちの依頼場所を言い当てて、どうなったのか知っているのは不自然だ。
「問答は無用だ。突破させてもらうぞ!」
 俺は、魔力をしこたま溜め込んでいた手を冒険者たちに向けて、そのまま爆風として放出する。
 風属性の単純魔法だ。
 相手を傷つける目的じゃない。
 あくまでもひるませる目的だ。
 ——が。
 ブワアアアアアアアアン!! ガラガラガラ!!
「「「「ギャアアアアアアアアアア!!」」」」
 俺の手から放たれた爆風の波は、立ちふさがる黄金の騎士団を鉄の門やレンガの塀もろとも一気に吹き飛ばしてしまう。
 転生当初よりも遥かに練度の増した単純魔法。
 風を受けた冒険者たちはあまりの衝撃で尻もちをついて震えていた。
 泡を吹いて気を失っている者もいた。
 大した怪我こそしていないみたいだが、戦意を欠くには充分だったようだ。
 自分でも思った以上の効果だ。
 コスパの悪い単純魔法らしく、MPもごっそり減った気がするが……まあいい。
 とにかく先に進ませてもらおう。
「す、すご……」
「あたしはレオの単純魔法見るの二回目だけど、相変わらずめちゃくちゃね……」
 ララは言葉を失い、リズは苦笑いしている。
 俺たちは、震える兵たちを尻目に、吹き飛んで意味をなさなくなった門からキブラの屋敷に侵入する。
「まずはハルカたちを解放する!! ララ、ハルカたちのオーラが強く出ているところを教えてくれ! そこが恐らく彼女たちが捕らわれている場所だ!!」
「了解っす!! こっちっす!!」
 ララを先導に、俺たちは屋敷のハルカたちの場所を目指す。
「いたぞ!! 行かせるな!!」
 黄金の騎士団が行く手を阻む——が。
「邪魔だあ!!」
「フンッ……」
 キアラとシレイドが露ばらいをしてくれる。
 そのまましばらく進むと、屋敷とは別の場所にある石の建物が見えてくる。
「あそこっす!! あそこから、ハルカさんたちの色が見えるっす!!」
 ララが指差して叫ぶ。
 建物の前には見張りが二人立っている。
「な、何!? 迷うことなくここに来る!?」
「何故だ!? この離れは本館と離れた辺鄙な建物だぞ?」
 戸惑う見張りたちを、シレイドとキアラがこれまた組み合い、気絶させる。
「どうする? この扉、鍵がかかっていそうだぞ?」
「見張りが鍵束を持っているが……どれが牢屋の鍵か分からんな……」
「この中にハルカさんたちがいるっす!! 急がないと……!! ハルカさんたち以外の気配もするっす!!」
 俺とキアラがあたふたと手間取っていると、ララが心配そうに言う。
「ご主人様……シレイドにお任せ……」
 不安を口にする俺たちとは対照的に、やけに自信満々のシレイド。
 彼女は扉の鍵穴に手を当てて唱える。
「『開錠』……」
 ガチャリ!!
 鍵が開く。
「鍵が開いた?」
「シレイドのスキル……『鍵開け』……これくらい簡単な鍵なら魔力で開けられる」
 あー、鑑定した時にあったな……そんなスキル。
 俺の寝室に初めて侵入してきた時もそれを使ったって言ってたし。
「よし。よくやった。早速、入るぞ!」
 シレイドの頭を撫でながら、扉を開く。
 そこには、あられもない姿になったハルカたちが鎖で繋がれていた。
 その真ん前には裸になって粗末なものをぶら下げた冒険者らしき者たち。
 タイミングが良かったのか、牢の扉は開いていた。
「ハルカさん!!」
「ララ!!」
 ララの呼びかけに、ハルカたちの声が一気に色めく。
「なにっ!? どうして、ここに囚われていると分かった!? 館とはかなり離れているのに!? それに鍵は!? 外の門番は無数の鍵を持ってたはずじゃ……!?」
 辺りに脱ぎ散らかされた黄金の武具から剣を取って、裸で構えてくる冒険者たち。
 俺は怒りに任せて、瞬時に冒険者たちの剣を風霊の剣で叩き折り、殴り倒した。
「レオくん……」
 ハルカやカリーナ、ケイティたちがぽかんとした顔で俺を見る。
「ハルカさんたちの装備! ここにあったっす!」
 ララが牢屋の奥の部屋に山積みにされたハルカたちの装備を見つける。
 装備品を物色したのだろうか、魔法の袋の中身が散乱していた。
 シレイドが『鍵開け』スキルでハルカたちの鎖の錠を外していく。
「ありがとう、えっと……シレイドちゃん、だったわね」
「むふー♪ 問題ない……ご主人様の助けになりたいだけ」
 ハルカに頭を撫でられて、満足げなシレイド。
 鎖が外れた『赤の女王』全員が、すぐに装備を整える。
「レオくん、セーラが……私たちを庇って、キブラと関係を持ちに行ってしまったの……何としてでも阻止したい。協力してくれる?」
 ハルカたちが真剣な眼差しで俺たちを見る。
「もちろんだ。ハルカたちの友達なんだろう? 望んでもいない相手に身を捧げさせるなんて可哀そうな事、絶対に阻止してやる」
 俺の言葉にリズ、シレイド、キアラも大きく頷く。
 ハルカたちは顔を見合わせて笑った。
「うふふ、ありがとう! 一緒に、キブラをぶっ飛ばしましょう!」
 牢屋の中に歓声が響いた。
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