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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編
第14話:牢獄にて
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◇
キブラの館・離れの牢獄——。
「ん……んんっ……」
目が覚めると、私の手足は鎖の錠で繋がれていた。
身ぐるみを全て剥がされたらしく、粗末な毛布が体にかけられているだけだ。
乱暴された形跡が無いのは、まだ良かったのだろうか。
「気が付いたか、ハルカ。あたしたち、随分と眠っていたようだぜ」
「参りましたね……流石に……」
話しかけられて振り向くと、カリーナとケイティが動きづらそうに身じろぎしていた。
二人だけではなくて、ハクオウ山で逃げたララ以外の『赤の女王』のメンバー全員が大きな牢の中に監禁されていた。
屋敷に待機させていた残りのメンバーも、『黄金の騎士団』の急襲を受けて捕らえられたらしく、同じ牢に入れられている。
カリーナの方は、腕を上げた状態で銀色の鎖に繋がれ、直接壁に張りつけられている。
「なんでカリーナだけそんなに厳重に縛られてるの?」
「いやー……みんなより先に起きて暴れたら、十人がかりで押さえつけられてよー。普通の鎖だったら引きちぎれるんだけど、これは無理だなぁ」
困り顔で乾いた笑いを浮かべるカリーナ。
「看守らしき人は見当たらないですね。全員、縛られて動けないでいる。恐らく、外に見張りは居るでしょうけど……」
ケイティが冷静に状況を整理している。
「私たちをどうする気なのかしら……」
「ハルカさん、わたし、怖い……」
「なんとかここから出ることはできないのでしょうか?」
他のメンバーが口々に不安を吐露する。
「大丈夫よ。ちゃんと、私がいるから」
私は皆をなだめながら、何とか鎖を外そうとするも、ビクともしない。
奴らの目的はキブラの不正の証拠だろう。
あれが見つかるまでは、命は奪われないだろうけど、酷い目に遭うことは想像に難くない。
「ケイティ……これから、私たち、どうなると思う?」
「恐らく、奴らの奴隷行き。弄ばれて一生外に出られないでしょうね。奴隷商人に売るわけにもいかないでしょうし。不正の証拠が見つかるまでは殺しはしないでしょうけど」
流石のケイティも苦い顔をしている。
その時——。
牢の外にある扉が開く。
「いいか? 面会は十分だけだ。それ以上は許さん」
「分かりました」
外にいる見張りと話して、誰かが入ってくる。
あれは——。
「セーラ!!」
「ああっ、ハルカさん……みなさん、無事でよかった!! ハクオウ山で黄金の騎士団に襲われたと聞いて、心配していたのですよ!」
私が呼びかけると、セーラは目に涙を溜めて鉄格子に駆け寄ってくる。
「ここは? 一体どこ? 時間は?」
私の問いかけに、セーラは牢内にキブラの仲間がいないことを確認して小声で言う。
「エルゼリアのキブラの屋敷ですよ。あなたたちはハクオウ山で捕らえられて、戻ってきたんです。ハルカさんたちが、ここに着いてから数日経ってますわ」
「そっか……くそっ、眠らされるなんて不覚だわ。ごめんなさい、あなたを助けたかったのに……」
「ううん、平気です。その気持ちだけで充分。安心して……私があなたたちを護りますから。友達でしょう?」
優しく、何かを決意したようなセーラの笑顔。
「……!? セーラ、何をする気?」
「キブラに、あなたたちに手を出さないように頼んだの、ハルカさんたちが懇意にしている、あの魔剣士さんのパーティについても……わたしの身を捧げる代わりに」
大きな胸に手を当てて、苦い顔をするセーラ。
「そんな……ダメよ!! そんなの……!!」
セーラがキブラとの関係を拒否していたのは、密偵の情報で知っていた。
自分に手を出してくるのなら光魔法を今後一切使わないと脅しをかける形で。
私たちはその脅しが効いている内に、セーラを助けようと動いた。
だが、まさか、そんな私たちのせいでセーラがキブラに身を捧げようとするなど……。
「大丈夫ですよ。今まで自分自身を守ってきたのは、こういう時のためだと思うのです……キブラに拾われたときから、いずれこうなるのは解っていました」
哀しそうな私の頬を指先でそっと撫でて微笑むセーラ。
「私を助けようとしてくれてありがとう……その気持ちだけで充分嬉しかった。お礼に、必ず、みんな、私が護りますね」
セーラは静かに涙を流して尚も、私たちに微笑みかける。
牢の中にいる皆も、歯嚙みし、言葉を失っている。
その時、牢の外の扉が開く。
「時間だ。セーラ、出ろ」
「はい……」
外の見張りに促され、セーラは俯きながら去ろうとする。
「セーラ……!? 待って!! ダメ!! 行かないで!!」
私の制止も届くことなく、セーラは地下牢を後にした。
ほぼ入れ替わりに、黄金騎士たちが牢に入ってくる。
「あなたたち! 何しに来たの!?」
「何しにって、そりゃあお前、決まってるよなぁ? ようやくお目覚めのようだから、お前らで遊んでやろうと思ってよ」
男たちは顔を見合わせて下卑た笑みを浮かべている。
「そ、そんな!? セーラの気持ちを踏みにじる気!?」
「あの女の要求は、『キブラ様』が『あの女が身を捧げている間』お前たちに手を出さないってことだろ? 俺たちには関係ないな!! キブラ様も『今日は』あの女を相手するだろうが、明日になったら分からねえなぁ! もちろん、あのレオとかいうガキどもの事も、許さねえだろうしなぁ!!」
「最低……!!」
ハルカは心の底から男たちを軽蔑した。
鉄格子を開けて、牢の中に入ってくる男たち。
「くそおっ!! どっかいきやがれえ!!」
手足を繋ぐ鎖を千切ろうとカリーナはジタバタしている。
「みんな、私の後ろに……」
ケイティはこのような状況でも、冷静に判断して幹部として赤の女王のメンバーを庇おうとする。
「げひゃひゃひゃ、何したって無駄無駄! 今夜から、お前らは全員、俺たちの○奴隷になるんだよ! そうだ、キブラ様の不正の証拠とやらを差し出すなら、優しくしてやってもいいぜ!? 装備にも屋敷の方にも無かったみたいだから、キブラ様も困ってるんだよ!」
下卑た笑みを浮かべて、黄金騎士たちが近づいてくる。
この瞬間、私は悟った……。
『黄金の騎士団』に私たち『赤の女王』は負けたのだ……。
自らの肢体に伸ばされる手を振り払うこともできず、覚悟したように目をつぶった、その瞬間——!!
「緊急招集だ!! 兵士は全員正門に集合しろ!! 侵入者だ!!」
屋敷の外から、慌てた声が響き渡った。
◇
キブラの館・離れの牢獄——。
「ん……んんっ……」
目が覚めると、私の手足は鎖の錠で繋がれていた。
身ぐるみを全て剥がされたらしく、粗末な毛布が体にかけられているだけだ。
乱暴された形跡が無いのは、まだ良かったのだろうか。
「気が付いたか、ハルカ。あたしたち、随分と眠っていたようだぜ」
「参りましたね……流石に……」
話しかけられて振り向くと、カリーナとケイティが動きづらそうに身じろぎしていた。
二人だけではなくて、ハクオウ山で逃げたララ以外の『赤の女王』のメンバー全員が大きな牢の中に監禁されていた。
屋敷に待機させていた残りのメンバーも、『黄金の騎士団』の急襲を受けて捕らえられたらしく、同じ牢に入れられている。
カリーナの方は、腕を上げた状態で銀色の鎖に繋がれ、直接壁に張りつけられている。
「なんでカリーナだけそんなに厳重に縛られてるの?」
「いやー……みんなより先に起きて暴れたら、十人がかりで押さえつけられてよー。普通の鎖だったら引きちぎれるんだけど、これは無理だなぁ」
困り顔で乾いた笑いを浮かべるカリーナ。
「看守らしき人は見当たらないですね。全員、縛られて動けないでいる。恐らく、外に見張りは居るでしょうけど……」
ケイティが冷静に状況を整理している。
「私たちをどうする気なのかしら……」
「ハルカさん、わたし、怖い……」
「なんとかここから出ることはできないのでしょうか?」
他のメンバーが口々に不安を吐露する。
「大丈夫よ。ちゃんと、私がいるから」
私は皆をなだめながら、何とか鎖を外そうとするも、ビクともしない。
奴らの目的はキブラの不正の証拠だろう。
あれが見つかるまでは、命は奪われないだろうけど、酷い目に遭うことは想像に難くない。
「ケイティ……これから、私たち、どうなると思う?」
「恐らく、奴らの奴隷行き。弄ばれて一生外に出られないでしょうね。奴隷商人に売るわけにもいかないでしょうし。不正の証拠が見つかるまでは殺しはしないでしょうけど」
流石のケイティも苦い顔をしている。
その時——。
牢の外にある扉が開く。
「いいか? 面会は十分だけだ。それ以上は許さん」
「分かりました」
外にいる見張りと話して、誰かが入ってくる。
あれは——。
「セーラ!!」
「ああっ、ハルカさん……みなさん、無事でよかった!! ハクオウ山で黄金の騎士団に襲われたと聞いて、心配していたのですよ!」
私が呼びかけると、セーラは目に涙を溜めて鉄格子に駆け寄ってくる。
「ここは? 一体どこ? 時間は?」
私の問いかけに、セーラは牢内にキブラの仲間がいないことを確認して小声で言う。
「エルゼリアのキブラの屋敷ですよ。あなたたちはハクオウ山で捕らえられて、戻ってきたんです。ハルカさんたちが、ここに着いてから数日経ってますわ」
「そっか……くそっ、眠らされるなんて不覚だわ。ごめんなさい、あなたを助けたかったのに……」
「ううん、平気です。その気持ちだけで充分。安心して……私があなたたちを護りますから。友達でしょう?」
優しく、何かを決意したようなセーラの笑顔。
「……!? セーラ、何をする気?」
「キブラに、あなたたちに手を出さないように頼んだの、ハルカさんたちが懇意にしている、あの魔剣士さんのパーティについても……わたしの身を捧げる代わりに」
大きな胸に手を当てて、苦い顔をするセーラ。
「そんな……ダメよ!! そんなの……!!」
セーラがキブラとの関係を拒否していたのは、密偵の情報で知っていた。
自分に手を出してくるのなら光魔法を今後一切使わないと脅しをかける形で。
私たちはその脅しが効いている内に、セーラを助けようと動いた。
だが、まさか、そんな私たちのせいでセーラがキブラに身を捧げようとするなど……。
「大丈夫ですよ。今まで自分自身を守ってきたのは、こういう時のためだと思うのです……キブラに拾われたときから、いずれこうなるのは解っていました」
哀しそうな私の頬を指先でそっと撫でて微笑むセーラ。
「私を助けようとしてくれてありがとう……その気持ちだけで充分嬉しかった。お礼に、必ず、みんな、私が護りますね」
セーラは静かに涙を流して尚も、私たちに微笑みかける。
牢の中にいる皆も、歯嚙みし、言葉を失っている。
その時、牢の外の扉が開く。
「時間だ。セーラ、出ろ」
「はい……」
外の見張りに促され、セーラは俯きながら去ろうとする。
「セーラ……!? 待って!! ダメ!! 行かないで!!」
私の制止も届くことなく、セーラは地下牢を後にした。
ほぼ入れ替わりに、黄金騎士たちが牢に入ってくる。
「あなたたち! 何しに来たの!?」
「何しにって、そりゃあお前、決まってるよなぁ? ようやくお目覚めのようだから、お前らで遊んでやろうと思ってよ」
男たちは顔を見合わせて下卑た笑みを浮かべている。
「そ、そんな!? セーラの気持ちを踏みにじる気!?」
「あの女の要求は、『キブラ様』が『あの女が身を捧げている間』お前たちに手を出さないってことだろ? 俺たちには関係ないな!! キブラ様も『今日は』あの女を相手するだろうが、明日になったら分からねえなぁ! もちろん、あのレオとかいうガキどもの事も、許さねえだろうしなぁ!!」
「最低……!!」
ハルカは心の底から男たちを軽蔑した。
鉄格子を開けて、牢の中に入ってくる男たち。
「くそおっ!! どっかいきやがれえ!!」
手足を繋ぐ鎖を千切ろうとカリーナはジタバタしている。
「みんな、私の後ろに……」
ケイティはこのような状況でも、冷静に判断して幹部として赤の女王のメンバーを庇おうとする。
「げひゃひゃひゃ、何したって無駄無駄! 今夜から、お前らは全員、俺たちの○奴隷になるんだよ! そうだ、キブラ様の不正の証拠とやらを差し出すなら、優しくしてやってもいいぜ!? 装備にも屋敷の方にも無かったみたいだから、キブラ様も困ってるんだよ!」
下卑た笑みを浮かべて、黄金騎士たちが近づいてくる。
この瞬間、私は悟った……。
『黄金の騎士団』に私たち『赤の女王』は負けたのだ……。
自らの肢体に伸ばされる手を振り払うこともできず、覚悟したように目をつぶった、その瞬間——!!
「緊急招集だ!! 兵士は全員正門に集合しろ!! 侵入者だ!!」
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