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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第11話:霧の森・ボス戦

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 ホワイトチーターとの戦闘を終え、何度か戦闘をはさみながら『霧の森・深淵』を進むこと、さらに一時間——。
「レオ、もう未踏破地域は無いわ。この先は開けた広場になってるみたい。大きな敵の反応が一匹……おそらくボスだよ」
 リズがスキルを使って、教えてくれる。
「よし。みんな、気を引き締めて向かおう」
 俺の言葉に首肯する三人。
 小道を抜けると、リズの言葉通り開けた場所に出てきた。
 うっすらと霧はあるものの、奥までなんとか見える。
 目を凝らして、最奥を見ると大きな影が見えてくる。
 体長は3mほどだろうか。
 黒に近い紫色の毛皮、長く黒い爪に真っ赤な眼、そしてアンテナのように立った鈍く黒光りするたてがみを持った熊がのっそりと座っている。
 大熊は俺たちに気が付くと、スッと静かに立ち上がり、上を向いて遠吠えする。
「ゴオオオオオオオッ!」
 すかさず鑑定を行う。

名前:ファントムベア
危険度:C+
説明:『霧の森』のボスモンスターである熊の魔物。自らを霧に溶け込ませる幻惑魔法を扱う。姿が見えなくなるので注意。
素材:『幻想熊の毛皮』
レア素材:『幻想熊のたてがみ』

「みんな! 気をつけろ! 幻惑魔法を使うらしい! 姿が見えなくなるそうだ!」
「幻惑魔法!?」
「ん……?」
「姿が……!? ど、どういうことだ……!?」
 俺の言葉に三人が戸惑う。
 当然だろう。俺も鑑定での説明だけで、あまりよく分かっていない。
 なら、戦闘を長引かせるのは悪手だろう。
「ルーンブレード!!」
 俺は、剣に青白い魔力を帯びさせて突撃していく。
 ファントムベアは真正面に立ちふさがり、大きく手を上げて威嚇してくる。
 その時——。
 ファントムベアのたてがみが白く光る。
「なんだ?」
 一瞬、戸惑ったものの、攻撃の気配が無いのでそのまま突撃を続行する。
 ファントムベアのたてがみの光は徐々に大熊の全身に伝わってゆき、そのまま身体が透き通るように消えてしまう。
「な、何!? 消えた!?」
 ファントムベアが目の前から忽然と姿を消した。
 辺りを見回しても見当たらない。
「……どこに行った?」
 キアラも戸惑っている。
 その時——何かに気づいたシレイドが、リズに飛びついていく。
「リズ!! 危ない……!!」
 リズの後ろに突然現れたファントムベアが大きな爪でリズを薙ぎ払う!
 が、間一髪——!!
 シレイドがリズを押し倒して、攻撃を回避できた。
「い、いきなり現れた!?」
「幻惑魔法とやらだろう!! おそらく、姿を自在に消したり現したりできるのだ!!」
 俺の戸惑いに、キアラが教えてくれる。
「ふっ……!!」
 シレイドがダガーでファントムベアの首元を狙う!
 ——が、腕で阻まれて攻撃は届かない。
 ファントムベアは、すぐさまたてがみを光らせて、再び姿を消す。
「こんなもの……どうすれば……!?」
 キアラが困惑した顔を浮かべる。
 だが、俺には奴の動きを見て練ることができた『ある策』があった。
「リズ! 『エネミーカウント』だ!」
「え!? あ、そうか!! 『エネミーカウント』!!」
 見えないのなら、感じるまで。
 リズのスキルで居場所を特定してやる!
「うん! 分かる!! レオ、右後ろの方向、距離は5mほどのところにいるよ!!」
 右後ろを見る!
 ちょうど誰もいない……!
 なら、少々派手なことをしても大丈夫だ!
「エルブラスト!! エルブラスト!! エルブラスト!!」
 広範囲に届く風の波で攻撃する。
 バアアアン!!
 三本の風の波がファントムベアの実体に当たり、弾け飛ぶ!
「ギャアオオ!!」
 透明だったファントムベアが姿を現す。
 ファントムベアはすぐさま態勢を立て直し、たてがみを光らせる。
「させるか!!」
 俺はルーンブレードで、アンテナのようなたてがみを斬り払う!
 透明になる前、絶対にこのたてがみから光っていたから怪しいと思っていた。
 ザン!!
 たてがみが切り落とされると、全身の光も失われ、おぼろげだった紫色の体毛がくっきりと表れる。
「やはり、そうか」
 俺の予想通り、幻想熊のたてがみは、幻惑魔法を放つ媒体になっているらしい。
「よし! キアラ! 行くぞ!」
「ああ!!」
 ルーンブレードをそのまま振り回し、相手の腹を切り裂く!
 ザアァン!!
「ギャアアア!!」
 キアラも槍を前方に突き出して突進する。
 そして、焼き切れた腹の傷口に渾身の突きをお見舞いする!
 ドシュン!!
 その突きは、ファントムベアの腹を通り背中まで貫いた。
「グ……グオァ……」
 ドシン!
 そのまま地に沈み、幻想熊は動かなくなった。
「うん! エネミーカウント、クリア! すごいよ! 倒したよ!」
 リズがシレイドを抱きしめながら、ぴょんぴょん跳びはねる。
「シレイドちゃんも、守ってくれてありがとうね!」
「むふー♪」
 撫でられているシレイドもご満悦の様子だ。
「みんな、よくやった! キアラもお疲れさま」
「ああ。姿が見えなくなる以外は普通のモンスターだったような気がするな。私の突きもちゃんと貫通したし肉質も固くない」
 うーむ。ということは……。
 リズとシレイドも近づいてきて喜びを分かち合う。
「やっぱり、レオもキアラもシレイドもすごいねー」
「いや。多分だけど、あのファントムベア、リズなら一人で倒せるぞ?」
「え?」
 少し寂しそうに言うリズに俺が返す。
「ん……場所も分かるし、あの大きさなら外さない……回るのも一瞬……余裕だと思う」
 シレイドも俺の意図が分かったようで太鼓判を押す。
「ど、どういう事だ?」
 キアラはまだ戸惑っているようだが……。
「リズ、周回しよう。言った通りに戦ってみな。危なくなったらちゃんと俺がフォローする」
「え、ええ? う、うん……」
 リズは半信半疑といったように頷いた。

 広場の前にワープすると、案の定エネミーカウントにファントムベアが引っかかる。
「よし。今、教えたように戦ってみるんだ」
「う、うん!」
 リズが前に出ながら、広場に進む。
 一回戦目と同じように、ファントムベアは俺たちを見つけるとたてがみを光らせて幻惑魔法を放った。
 身体が輝き、透けていき、透明になる幻想熊。
「エネミーカウント!!」
 リズがスキルを展開して、ファントムベアの姿を追う。
「動きが止まった!! そこだぁ!!」
 放った三発の赤い矢の内、二発がファントムベアに命中する!
「ギャアアアス!!」
 まさか、姿を悟られるとは思っていなかったのであろう幻想熊が驚いたように悲鳴を上げる。
「グ……? グググルルル……!? グガァアッ!?」
 そして、動きが瞬時に鈍くなり、そのままドシンと倒れる。
 そう。『レッドビーアロー』の毒が回ったようだ。
「は、反応、オールクリア……え、嘘、倒した?」
 リズは確認しながらも、自分で戸惑っている。
「よくやったぞ! リズ!」
「ん……すごい!」
「今回の敵と相性が良かったんだな。うむ、すごいぞ!」
 三人で褒めちぎると、まんざらでもない顔をして笑う。
 なるほど。やはり、戦い方によって、戦闘はいくらでも楽になるようだ。
 今回は、リズのジョブと遠距離武器のクロスボウ、さらに高威力の毒矢が見事にかみ合った結果だ。
 俺たちは味を占めて、この後、同じ戦法で何回かボスを周った後、エルゼリアの町に戻った。
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