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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第8話:赤の女王へ指名依頼

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 レオたちが『霧の森』を攻略していたその頃——。
 エルゼリアの町、第三層冒険者居住街——『赤の女王』の屋敷。
「これで、キブラを失脚させられる……セーラたちを救える……!」
 ハルカはこれまで集めたキブラの不正の証拠をまとめ上げていた。
 契約不履行、奴隷契約強制、拉致、監禁、脅迫、傷害、賄賂……果ては闇ギルドと結託しての気に入らない者の暗殺。
「はぁ……」
 よくもまあ、これだけの犯罪を重ねられたものだとハルカは思う。
 貴族の息子としての権力や、有力クランの団長としての権限が無ければ、これらの行為を隠蔽するのは不可能だっただろう。
 呆れを通り越して、感心してしまうほどだ。
(だが、それももう終わり……)
 これらの証拠を、王都にある中央ギルドと司法機関である査問騎士団に送れば、キブラはすぐに捕らえられるだろう。
「よし……やるか!」
 気を引き締めなおして、行動に移ろうとする——その時!

 コン! コン! コン!

 ハルカの部屋のドアがノックされる。
「ハルカさーん! お客さんっすー! エルゼリアのギルドマスターが依頼したいことがあるって言ってるっすー!」
 この声は、クランの新入りのララだ。
 冒険初心者ながら、なかなか見どころのある女の子で、ハルカたち幹部からも一目置かれている存在。
 ある特殊な能力を持っており、稀有な存在でもある。
 ちなみに、クランのメンバーに対して、キブラのことは危険な連中だということは話してある。
 だが、ギルドマスターとの賄賂関係など犯罪の詳細を知るのは幹部たちだけだ。
 前者のララは、ギルドマスターを追い返さずに客として迎え入れてしまったらしい。
 行動は早めに起こしておきたかったが、仕方がない。
 ハルカはギルドマスターが待つ客間へ向かった。

 客間にはギルドマスターがふてぶてしい笑みを浮かべて座っていた。
「やあ。ハルカ君、いつもエルゼリアギルドへの貢献、感謝しておるよ」
「いえ、冒険者として普通に活動しているだけですから」
 ハルカの素っ気ない返答に、少し眉をひそめて反応するギルドマスター。
「それで、御用は何かしら? 急いでいるので手短にお願いしますね」
 キブラと通じるギルドマスターと、長く接触することは悪手だ。
 早々に引き取って頂くために、ハルカは手早く用件を聞く。
「そう気持ちのない言葉をかけてくれるなよ。私は君達を評価しているのだよ」
 ギルドマスターはやれやれという感じで言う。
 そして、一枚の依頼用紙を差し出してくる。
「君達『赤の女王』に指名依頼だ。エルゼリア地方の領主から……ね。北にあるダンジョン『ハクオウ山』にいるボスモンスター『ホワイトガルーダ』が暴れまわっているらしい。ふもとの村まで被害が及んでいるそうだ」
 領主直々の指名依頼、断ることはできないだろう。
「分かりました。それでは明日、現地に……」
「いや、今すぐ向かってくれ」
「今すぐ?」
 ハルカは思わず聞き返した。
「ああ、すぐにだ。なにやら、ホワイトガルーダは山の魔物を集め始めているらしい……魔物が徒党を組んで村を襲ったら大変だ。外に馬車を待たせてある。それで向かってくれ」
(何か、きな臭い……キブラと繋がっているギルドマスターからの依頼だし、怪しい……)
 ハルカは依頼書をもう一度読み返す。
 不審な点は無い。何より、領主の家の紋章が記されている。
 領主からの依頼に間違いはないだろう。
「分かりました……今から向かいます」
 エルゼリアギルドに所属するクランという立場から、領主とギルドマスターを介しての指名依頼は受ける他ない。
 ここまで大きな依頼となると、断ってしまえば評価が下がり、三大クランから陥落ということも考えられる。
 もし万が一、キブラのクラン『黄金の騎士団』よりも貢献度順位が下になれば、どんな事をされるか、想像するのもおぞましい。
 ハルカは幹部たちを招集し、『ハクオウ山』へと馬車で向かった。
 その姿を見て、ギルドマスターは何とも気持ちの悪い下卑た笑みを浮かべるのだった。

 翌日、『ハクオウ山』ふもとの村『コボ村』——。
「おお! 冒険者様たちが来てくださった!」
 村長が手厚くハルカたちを村に迎え入れる。
「歓迎してくださり感謝します。それで、早速ですが状況の方は?」
「『ハクオウ山』の頂上付近に山中の魔物が集まっているそうです。魔物を率いるホワイトガルーダを仕留められれば、散開するとは思うのですが……なにせ、今までこんなことは無かったものですから」
「そうなのね……ケイティ、どう? 見た感じ」
「確かに頂上付近に瘴気の塊が溜っているみたい……魔物たちが集まっているのは本当みたいよ」
 ケイティは、鋭い目で山頂を見つめて呟く。
「カリーナ、みんなの状況は?」
「ああ、いつでも行けるぜ。馬車移動での気だるさも無くなってきた頃だ」
 今回の部隊の指揮を執っているカリーナが力強く頷く。
 クランのメンバーの内、半数はここに連れてきた。
 ホワイトガルーダに対しては戦力過多な気もしたが、早々に依頼を終わらしてキブラ関連の書簡を王都に送らなければならない。
 残りの半数のメンバーはエルゼリアの屋敷に置いてきた。
 屋敷の警備もあるし、キブラたちがいつ変な行動を起こすか分からないから。
「よし、じゃあ行きましょう。もたもたしてたら、村に攻め込んできちゃうかもしれないからね。今日中に終わらせるわよ」
 ハルカたちは、準備を整えて『ハクオウ山』へと向かった。
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