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第5章:傲慢貴族と白衣の聖女編

第7話:ホワイトチーター

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『霧の森』攻略二日目——。
 俺たちは前回中断したポイントである大樹の下に『ワープ』で移動した。
「やっぱり便利だねー、『ワープ』の魔法はー」
「ん……」
「こういうフィールド系のダンジョンでは非常に有用性があるな」
 三人とも、ダンジョンを攻略しつつ町にも帰れるということに何とも言えないありがたみを感じているようだ。
「よし、じゃあ……今日も『霧の森』踏破に向けて進もう!」
「「「おー!」」」
 俺の号令にみんなも返事する。

 森を進み、進み、二時間ほどだろうか。
 その間、何度か魔物との戦闘になったが、難なく倒して進めていた。
「お、ここから少し森の雰囲気が変わってるな」
「ん……木々が増えて、ちょっと薄暗くなってる……」
「う~、なんか怖い感じがする~」
 鬱蒼とした木々が立ち並び薄暗くなった道にたどり着く。
 シレイドとリズは少なからず警戒しているようだ。
「レオ……おそらく、ここからが『霧の森』の深淵のようだ」
 キアラが教えてくれる。
 霧の影響に加えて薄暗さもあって、先がさらに見にくくなっている。
「よし、みんな。一丸になって離れずに進もう。迷ったら大変だからな。リズ、『マッピング』をしっかり頼む」
「うん!」
 慎重に『霧の森』の深淵をひたすら進んでいく。
 魔物とも何度か遭遇するも、浅場と種類はそんなに変わらないようで、初見の魔物には遭っていない。
 そして、そのまま、再び二時間ほど経った頃。
「そろそろ、昼頃だな」
「ん……お腹すいた」
「レオ、今日はこのくらいにしないか?」
「未踏部分は残りわずかだね、明日には踏破できるんじゃないかな」
 みんなでそんな話をしていた頃だった。
 ズボッ!
「ひゃい!?」
 リズが、ぬかるみにはまってしまった。
「ほら、リズ……しっかり捕まるんだ」
「ごめんごめん」
 俺がリズに手を伸ばそうとした瞬間、ぬかるみがプクーッと膨れ上がり青色に変わる!
 そしてそのままリズを飲み込んでしまった。
「じゃ、ジャンボスライム!?」
「ん……水たまりに擬態してた!! ……リズを助けないと!!」
「あ、ああ!!」
 突然のことに戸惑う俺に、シレイドが言う。
 そうだ、しっかりしろ……俺!!
「がぼぼ……!!」
 苦しそうにもがくリズ!
「待ってろ!! 今、助ける!!」
 俺はすぐにジャンボスライムに手を差し込み、彼女の腕を掴む。
「キアラ、シレイド、引っ張ってくれ!!」
 半分、スライムの中に身体が入ってしまっている俺は身動きができないので、外にいるキアラたちに託す。
「承知した!! 行くぞ、レオを引っ張るんだ!! シレイド!」
「ん……!!」
 キアラとシレイドは俺のもう片方の腕を掴んで、力いっぱい引っ張る。
「くぬぬぬぬぬぬっ!!」
「ふにーーーーーー!!」
 ズズ……ズズズズズ……!!
 徐々にスライムの中から引きずり出される俺とリズ。
 スライムも、負けじと抵抗を強くするが——。
 ズポオオオン!!
 コルクが飛ぶように勢いよくスライムから抜ける俺とリズ。
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ!!」
 リズが大きくせき込む。
「『エルファイア』!!」
 俺が手を向けて唱えると、鋭く巨大な火球が飛んでいく。
 直撃したジャンボスライムが燃えさかり、動かなくなった。
「うわーーん! 死ぬかと、死ぬかと思ったよぉ!!」
 俺の胸に顔を押し付けてワンワンと泣くリズ。
「よしよし、怖かったな」
「ん……いい子いい子」
「よく耐えたぞ、リズ」
 みんなでリズの頭を撫でて慰める。
 歩いているだけで、次の瞬間、死の恐怖だもんな……そりゃあ、参るか。
「しかし、あんなことをしてくるとはな……」
「身体を縮こまらせて、目立たないようにしてたんだろうな。そして、冒険者が通ったところをパクリだ」
 キアラが説明してくれる。
 キングボアと同じ危険度D+は伊達じゃないということか。油断禁物。
 ソロ冒険者とかなら、助からなかっただろうな。
「ご主人様……!! まだ……何かくる……!!」
 シレイドが見つめる道の先に目をやる。
「グルルルル!!」
 白くしなやかな体躯の豹が二匹現れる。
『鑑定』——!!

名前:ホワイトチーター
危険度:C
説明:『霧の森』に生息する白い豹の魔物。凄まじいスピードで獲物に食らいつく。常人の足では逃げることはほぼ不可能。出現率は低い。
素材:『白猟豹の毛皮』
レア素材:『白猟豹の鉤爪』

 こんな時に、危険度Cの魔物か……!!
「俺が出る! シレイド、援護を頼む! キアラはリズの介抱と護衛を!」
「ん……!!」
「承知した!!」
 俺はみんなを守るように前に出て、魔法を放つ。
「『エルウインド』!! 『エルウインド』!!」
 凄まじい速度の風の弾丸がホワイトチーター二匹に飛んでいく——だが!
 ヒュン!! ヒュン!!
 軽い身のこなしで、それを避けてくる。
 なんて速さだ。
「ガアアアアアア!!」
 一匹が、猛スピードで飛びかかってくる。
 速い……だが!!
「『ルーンブレード』ォォォ!!」
 横なぎで一閃、一匹を真っ二つに掻っ捌く。
 もう一匹が、シレイドに向かっていく。
「ふっ……! ふん……!! ふっ……!!」
 ガキィン! キィン!! キィーン!!
 振り下ろされる爪を、ダガーで打ち払いながら回避するシレイド。
 次の『ルーンブレード』を放つにはまだ少し時間がかかる。
「ガアアアッ!!」
 ホワイトチーターの牙がシレイドに向かってくる!
「くっ……!!」
 白猟豹の牙をダガーで受け止め、鍔競り合いになるシレイド。
 万事休すか——!
 その時——!!
 ズドン! ズドン! ズドン!
 数本の矢が、ホワイトチーターを撃ち抜く!
「キャウン!! キャイン!!」
 思わず仰け反るホワイトチーター。
 その隙を、シレイドは逃さなかった。
「フンッ……!!」
 ダガーを逆手に持ち換え、白猟豹の喉笛を掻き切る!
 ホワイトチーターはドシリと音を立てて倒れた。
 後ろを見ると、リズがキアラに肩を支えられてクロスボウを構えていた。
「リズ……」
「あたしだって……冒険者なんだから……!」
 燃えるような青い瞳には、揺るぎない誇りが宿っていた。
「リズー……シレイド、助かった……!! ありがと……!!」
 シレイドがリズに抱きつく。
 どうやら乗り切れたようだな。
 はしゃぐ三人を見て、俺はホッと胸をなでおろす。
 今日の冒険はここまでにして、宿でゆっくり休むことになった。
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