上 下
119 / 220
第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第36話:天界にて

しおりを挟む


「ふぅ……」
 今日の転生者たちとの交信を終え、一息つくメルヴィーナ。
(毎度のことながら、朝チュンに話しかけるのは若干申し訳ない気もするなぁ)
『アルティナ』を作ったのは自分とは言え、世界の成長や発展というのは女神の裁量をも超えてしまうことがある。
 魔物の出現、人々の争い、そして転生者との交信についてもそうだ。
 普通、人間が接触できない天界との交信なのだから特別な力や環境が必要という事までは理解できる。
 だが、その条件が『転生者と性的接触の無い者との初めての後』とは……自分で作った世界とはいえ少し恥ずかしい気分だ。
 しかし、疎かにすることはできない。
 魔物や賊たちの力が強まっている今、冒険者たちに対してある種の発破をかけることはとても重要だ。
 より多くの魔物を倒してもらわなければいけない。
 より多くの賊たちを懲らしめなくてはいけない。
 ましてや、世界に『種』がばら撒かれている状況だ。
『種』は魔物や賊が持つ『悪意』に寄生する。
 魔物や賊が『種』を取り込み、それを放置してしまえば、大変なことになる。

(冒険者さんたちが、できるだけ『種』に気づいて排除してくれればいいのですが……)
 女神の力を行使して、脅威を排除することはできない。
 また、天界で把握できている脅威の詳細を伝えることもご法度だ。
 世界の創造主はあくまで『観測者』という立場。
 その権限を越えてしまえば、天界からの追放……『失楽園』となる。
(はぁ……やめ、止めです! ネガティブな感情では何も生まれません……!)
 自らの頬を叩き、転がる思考を遮断する。
 その時——。

 コンコン! コンコン!

 家のドアがノックされた。
「どなたですかぁ?」
「ディアナとウルよー。巡回ついでにお茶しに来たわー」
「あ、はーい」
 メルヴィーナがドアを開けると美しい二人の女神が立っていた。

 一人はディアナミーア、通称『ディアナ』と呼ばれている。
 青色の髪と瞳に空色のドレスを纏い、身の丈ほどの大きな世界樹の杖を持っている。
 理知的で優しく、朗らかな性格の彼女はみんなの良きお姉ちゃんといった感じだ。

 もう一人はウルラウール、通称『ウル』と呼ばれている。
 褐色の肌に金色の髪、スリットの入った動きやすい黒のドレスを纏い、これまた身の丈ほどの大きな弓を持っている。

 二人とも、元は世界の創造主だったが、自分の世界が滅んでしまってから創造主を引退。
 現在は、天界兵として天界を護っている。
「わぁ! ディアナ姉さん! ウル姉さん! ようこそー! 今、紅茶入れますねー」
「ええ、お願いするわ」
「へへへ! メルヴィの入れる紅茶は美味いからな!」
 ニッコリと穏やかに微笑むディアナと、いたずらっぽい顔で笑うウル。
 対照的な二人だが、境遇が似ていることもあって今ではパートナーとして動いている。

 紅茶を入れ、三人で机を囲んで話す。
「元気そうでよかったよ。メルヴィ」
 ウルラウールが微笑みかける。
「本当です。あなたの世界に『種』が湧いたという知らせを聞いた時は随分心配していたのですよ」
 ディアナミーアも同調する。
「えへへ……正直、へこんではいますけど、ここで投げ出しちゃったら創造主として失格ですからね。世界がピンチの時こそ、創造主は強くいないと」
「へへへ、そうだな……『種』が出てきた以上、創造主にできることって言ったら最後まで見守ることぐらいだからな……大丈夫だ。メルヴィの世界の住民はそんなにヤワじゃない! 『前の世界』や、あたしらの世界みたいにはならないさ」
「ええ……私は信じてます。必ずやこの苦難をアルティナは乗り越えてくれると……」
 メルヴィーナは以前、創った世界を魔物に滅ぼされてしまったことがある。
 皆、メルヴィーナを心配していたが、彼女は見事に立ち直り、もう一度、自分の世界を創造した……それが、今の『アルティナ』だった。
「本当……偉いわね。メルヴィは……。私たちは、あの気持ちをしたくなくて、世界の創造から逃げてしまったのに……」
 慈しむようにディアナミーアがメルヴィーナを見つめる。
 滅んだ自分の世界を思い出したのか、その目にはうっすらと涙が溜っていた。
「で……! これが、くだんの世界『アルティナ』か……」
 専用の台の上で浮いている、丸い球体を見つめるウルラウール。
「確かに……いくつか『種』があるな……ん? 『女神の加護』を持ってるやつがチラホラ……それに、こいつらの生まれ……『チキュウ』って……ああっ! まさか、メルヴィーナ!」
「……そう言えば、地球の創造主が言ってましたね……自分の世界で死んだ命の数が合わない……と。まさか、こんなところにいたとは」
「え、えっと……ま、まぁ……あはは……ごめんなさい」
 二人に詰められて、しゅんと項垂れるメルヴィーナ。
「まあ、エルディーテ母様は容認しているようですし、地球の創造主も『誰の仕業かは解っている』と言って笑ってましたし……良いでしょう」
「しゃーない妹だなー、もう。まあ、規範を気にしすぎて何もしなかったあたしらよりはマシかー……」
「ほっ……」
 天界兵である二人に赦されて、胸を撫で下ろすメルヴィーナ。
「しかし、こうも『種』が湧くモノかね……? あたしの世界も、ディアナ姉さんの世界も『種』が原因で滅んだ……そして、大した時間も経たずに今度はメルヴィの世界に種が湧いた……これって偶然か?」
 ウルラウールが首をかしげる。
「確かに変ね……通常、よっぽど悪辣とした環境でないと『種』は発生しないのに……。私の世界もそうだったけど、メルヴィの世界も魔物たちがちょっと多いくらいで、許容範囲だと思うけど」
 紅茶をすすりながらディアナミーアも頷く。
 何とも言えない微妙な空気が流れる。
「まあ、湧いちゃったモノは仕方ないですからねぇ……頑張って見守りますよ!」
「ええ。『転生作業』は、ほどほどに……ね」
 気合を入れているところに、ディアナミーアから鋭い釘を刺されるメルヴィーナ。
 そんな二人を見てウルラウールはゲラゲラと笑う。
 僅かな疑念を孕みながらも、天界は今日も穏やかに時が流れていったのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...