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第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第22話:キアラの武具新調

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 宿に戻った俺たちは、いったん部屋に戻り食堂に集まった。
 ラック・ステラの食事は朝と夕だけなので、昼はリズが町の屋台で買って来たチキンサンドを皆で食べる。
 皆、冒険着から私服に着替えてリラックスしている。
「はぁ……お気に入りの防具だったんだがな……あの鎧……」
 キアラが大きなため息をつく。
「そう言えば、出会った時からずっと着ていたな、あの鎧」
「ああ。エルフの騎士として働いて稼いだ初の賃金で買った『騎士の鎧』だったんだ。もう数年着ていたな。今まで、小さな破損はパーツを縫ったりして直していたんだが、あそこまでザックリやられてしまうと修復は不可能だろう」
 俺の言葉に気落ちした声で答えるキアラ。
「それなら、この後、新しい装備を一緒に買いに行こう。ちょうど前線に出てくれるキアラの装備を整えないとって思っていたし」
「う、うむ。気持ちはありがたいが……お金が……」
「言っただろう? しばらく面倒は俺が見るって。それぐらい買わせてくれ。俺は彼氏なんだから」
「うぐ……む、むぅ……そ、そうだな、じゃ、じゃあ……お言葉に甘えるか……」
『彼氏』という言葉に顔を赤くするキアラ。
「決まりだな」
 俺が笑いかけてやると、さらに顔を赤くしてキアラは俯いた。

 昼飯を食べて、キアラと二人で町を歩く。
 午後は自由時間という取り決めにしたので、リズとシレイドもそれぞれ町に繰り出している。
 何でも、今日はシレイドがいいスイーツ屋を見かけたとのことで、二人で食べに行っているようだ。
 俺の奴隷であるシレイドには、気になる物を自分で買ったりできるように、ちゃんとお小遣いをあげている。
 そう言えば、シレイドはお小遣いがもらえたことに「おぉっー♪」と声を上げて感激していたな。
 俺の奴隷に対する扱いは、この世界の一般的な奴隷の扱いとはかなり違うようだが『よそはよそ、うちはうち』だ。
 ふと、隣を見るとキアラが手をもじもじさせながら、視線をこちらに向けては逸らすのを繰り返している。
 まあ、そうだよな。彼氏彼女の二人が歩いているんだから、誰がどう考えても、これはデートだ。
 恋愛経験の少ない初心なキアラは緊張するのだろう。
 彼女とアバンチュールしたのは数えるほどしかないが、いつもガチガチに緊張している感じだし。
 俺も転生したての頃なら、この状況にドギマギしていただろう。
 今は女性と接する機会もかなり増えたため、緊張も無くなっているが。
 ならば、ここは、俺がリードするしかない。
「あっ……!」
 もじもじしている彼女の手をそっと取って、恋人繋ぎで握ると驚いたような声を上げる。
「俺たちは恋人同士だろう? そんなに硬くならなくていいし、遠慮は無用だ」
 俺が微笑んでやるとキアラは目を丸くするも、すぐに微笑み、握り返してくれる。
 そして、幸せそうに身体を寄せてきた。
 形のいい胸が、腕にむにっと当たって気持ちいい。
 エルフ族のキアラの照れている表情は、通り過ぎる男たちも振り返るほど綺麗だ。
 そして、その隣にいる俺の顔を見て、何とも羨まし気な顔をする。
 性格が悪いとは思うが、軽い優越感に浸ってしまった。

 そのまま防具屋に着くと、店主が声をかけてくる。
「おや! カップルさんかい? 何か御用で?」
 店主の『カップル』という言葉に、キアラの顔が緩んでいる。
「彼女の防具を新調したくてな」
「そうかい。こちらの棚が布製の防具、こちらが鎧の棚になる。向こうは魔法使いや聖職者用だ。決まったら言ってくれ」
「分かった。ありがとう」
 ずけずけと突っ込んでこない店主のお陰で、じっくり選べそうだ。
「レオ、予算はいくらだ?」
「特に決めてないさ。前衛に出てくれるなら、なるべくいい防具を装備していた方が良いだろうしな。気に入ったものがあれば、どんどん手に取りな」
 俺が言うと「本当か!?」と顔を明るくするキアラ。
 クソ可愛い。
 しばらく店の棚を見て、色んな防具を手に取り、吟味する。
 そして、二つまで候補を絞った。

 一つは『木守りの服』という布製の動きやすそうな服。
 軽くて丈夫、初心者用装備である冒険者の服の上位防具らしい。
 値段は1万G。冒険者の服が500Gらしいから、かなりお高めだ。
 その分、防御力が段違いに高いらしい。
 田舎と都会では価格や品質が違うということもあるのだろうか。
 リズには新緑のマントがあるが、シレイドの防具もそろそろ変えてあげた方がいいかもしれないな。

 もう一つは『セイントメイル』という軽い鎧だ。
 籠手、脛当て、腰当て、胸当てで構成されている。
 なんでも、光の魔法で祝福を受けた銀の鎧らしい。
 腹の部分と足の絶対領域の部分のカバーは無く、セクシーな着こなしも可能だ。
 値段は5万Gと高い……が、その分、防御力や耐久力は凄まじいらしい。

「予算を考えなくていいと言われたから、気になる物を選んでみたが……やっぱり、もっと安い物に変えた方が――」
 気まずそうなキアラが言い切る前に手で制止する。
「言っただろう? なるべく良い防具を着けた方がいいって。俺にとっては、お金よりキアラの安全の方が遥かに大事だ」
「れ、レオ……あ、ありがと」
 顔を赤らめて、俯くキアラ。
「さて、問題はどちらにするかだが……」
 その時、店主がそっと近づいて言ってくる。
「それなら、どちらも買って重ね着してはどうでしょう? どちらも防御力は織り込み済みですし、両方装備すれば、この辺りの魔物の攻撃ではまず傷つくことは無いと思いますが」
 何とも商売上手だ。
 俺が彼女のためならお金を惜しまないと解りきっている顔だ。
「え、えっと……その……」
 決めかねて、たじろぐキアラ。
 だが、俺の答えは決まっていた。
「よし、どっちも買おう。店主の言う通り、服の上に鎧を着ればいい」
「本当にいいのか?」
「もちろんだ。キアラを守るための物だからな」
 俺がそう言うと、キアラは再び顔を赤らめて、静かに頷いた。
 ついでに、俺の『サンドボアコート』の値段も見ておこう。
 大体、どれくらいのレベルの防具かも分かるし……。
 剣士用のコートの棚を見ていく。
 あった。
「え……!?」
 …………10万G。
 そ、そんなに高価な防具だったのか? あれ。
 適当に受けた納品クエストで貰うには高価すぎやしないか?
 依頼書に書いてあった説明だと、廃棄予定の皮で作成したものだという事だったが。
 依頼主である研究者たちにとっては単なる素材であり、それ以上の価値は見込んでいないということだろうか。
 人によってアイテムの価値が違うというのは、シャロンの店で体感していたが……。
 ま、まあ、得したということにしておこう。
 俺は、心の中で依頼主に手を合わせて感謝をした。
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