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第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第12話:ラック・ステラ【☆】

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 町の中心を目指して歩くこと十分。
 木彫りの看板の大きな宿屋の前に立つ。
「ここが『ラック・ステラ』だな……」
 エルゼリアでしばらく拠点とする予定の宿屋だ。
 年季は入っているはずだが、観光冊子に書いてあった通り、外観はかなり綺麗である。
 その上、立地もいい。
 ここは馬車乗り場があった第一層ではなく、ひとつ上の第二層。
 ちょっとだけリッチな人たちが住む場所だ。
 大きな階段と塀で隔てられている第三層は第一層・第二層とは桁違いの、べらぼうな金持ち貴族や超一流の冒険者が住むという。
 異世界で贅沢な生活をしたいという目標がある俺としては、第三層はなかなかに憧れではあるのだが、道は遠いようだ。
「レオ、早く入ろう?」
 キラキラした目でリズがせかしてくる。
「ああ」
 俺は返事をして、ラック・ステラの扉を開けた。
 宿は味のある木造だが、天窓からの明かりが壁に反射して間接照明のようになっており明るい。
 インテリアもかなり凝っているようで、石畳の床に高そうな赤い絨毯が敷いてある。
 一流ホテルの中世版のような感じだ。
「高級そうだな……エルフの王宮に負けないくらい綺麗な宿だ」
 初めての都会で少し気遅れ気味のキアラが息を飲むように呟く。
「おかえりなさいませー……って、ありゃ、新顔さんか。いらっしゃい! ご宿泊で?」
「ああ。新しくこの町に来た冒険者だ。ここを拠点に活動したいと思っている。長期宿泊は可能か?」
「おお! もちろんだよ! 毎度、ありがとうございまーす! あたしはボニー! この宿で従業員兼給仕をしてるの! 待っててね、店主を呼んでくるから!」
 金髪ポニーテールの元気のいい女の子が出迎えてくれた。
 年は俺と同じくらい、雰囲気も言動もサバサバしていて気持ちのいい女性だ。
 学生時代、クラスの中心にいるような明るい女の子だ。
 動きやすそうな給仕服姿が実に快活そうで似合っている。
 そうこうしていると、奥から店主らしき赤髪の女性が出てくる。
「長期宿泊がしたいんだってね? 私はここの店主のジュリア。宿泊料は一番安い部屋で一人一泊二食付き1万G。良い部屋なら3万から10万Gだよ。さあ、どうする?」
 毛先が無造作に巻かれている妙にセクシーな長髪の女店主ジュリアが尋ねてくる。
 美人で服装もラフで緩い感じなのに眼光はキラリと鋭く隙が無い。
 伊達に様々な冒険者が集う町の宿屋を経営しているわけじゃないらしい。
「みんな、一番安い部屋でいいか?」
「ええ」
「ん……」
「ああ」
「じゃあ、一番安い1万Gの部屋を」
 パーティの承諾を得て部屋を取る。
 俺は夜のローテーションのために二人部屋、リズたちは三人部屋が空いて無かったので、とりあえず四人部屋へ。
 どちらも1万Gというのが、店主や従業員の雰囲気の通り、思い切りが良くていい。
 ルクシアにいた頃の一泊300Gほどの宿から一気に宿泊料が跳ね上がったが、都会の値段はこんなものなのだろう。
「シレイドとキアラの分はどうせ払わないといけないから、宿代は全員分、俺が出すよ」
「そ、そんな! 悪いよ! 冒険者は自分でできることは自分でしなきゃ!」
「いいから、出させてくれ。彼氏としてカッコつけたいんだ」
「う……そ、そっか……分かったわ」
 俺の言葉にリズが戸惑うが、彼氏だからという言葉に顔を赤くして承諾してくれる。
 男として、これくらいの見栄は張っておきたかった。
 経済的には苦しくないし、パーティのリーダーでもあるし。
 他のパーティはどういう風にしているのか知らないが。
「はーい! それじゃあ、四名様ご案内しますねー!」
 ボニーがキラキラした笑顔で部屋に案内してくれる。

 リズたち女性部屋に案内され、扉を開けると四人部屋だが十分すぎるほどに広かった。
「ふぇえー、すごい部屋ー」
「ん……広いし、いい部屋。ベッドも大きい……ふかふか」
 リズは感嘆し、シレイドは早速ベッドにダイブしていた。
「る、ルーティア女王の部屋のように豪華だ……」
 キアラに至っては目が点になっていた。
 やはりこの宿にして正解だったようだな、かなりいい部屋だ。
 まあ、値段的にルクシアの宿の約三百倍になるわけだから、妥当と言えば妥当なのかもしれない。
 1万でこれだと3万や10万の部屋だとどうなってしまうんだろうか。
 使いこなせないのが目に見えてるな。
 身の丈に合わないことはしないに限る。
 やりたければ、まず自分の器の大きさを広げてからだ。
 冒険者として大きくなってから、胸を張っていい部屋に泊まるか。
「さあさあ、お兄さん。もう一つの部屋に案内するよー」
 ボニーがにっこり笑って案内してくれる。
 俺は広い部屋に感激している三人を置いて、自分が泊まる部屋に向かった。
「あの子たち、お兄さんの彼女たち?」
「ん、んん? あ、ああ。まあ、そうだな」
 友達に話しかけるような軽い感覚で尋ねてくるボニー。
「そっかぁ。みんな、幸せそうで何よりだよー。お兄さん、イイ男なんだね♪」
 可愛くウインクされる。
「は、はは……どうだろうな」
 都会の女性はみんなこんな感じなのか?
 ノリが軽いというか……いや、この子が特別なんだろう。
「ここに泊まりに来る冒険者で時々女の子連れてるお客さんとかいるんだけど、けっこう女の子が哀しそうな顔してたりするからさ。まあ、奴隷とか契約とか色々あるんだろうけど……あんまりああいうのは見ていて気持ちいいもんじゃないからねえ」
「同感だな」
「ふふふ、『女神の加護』持ちの異界人のお兄さんならそう言うと思ったよ。見たところ、冒険者としても素質ありそうだし、今のうちにあたしも唾つけとこうかなぁ……なんてね♪」
 ぺろりと舌を出して、お茶目に俺をからかおうとするボニー。
 なるほど、どうやら鑑定を使えるらしい。
 普通の町人ではないようだ。
 やはり、この宿はただの宿じゃないな。
「さあさあ、ここだよー」
 案内された部屋に入ると四人部屋とまではいかないものの、二人部屋にしては十分すぎるほどの部屋に通される。
 リズたちの部屋とは同じ階にあり、廊下を歩けばすぐだ。
「パーティで何か話したければ、一階に談話室もあるから使って。朝夕の食事は食堂で頼めば出てくるから。あ、あんまり早すぎても遅すぎてもダメだからね! あとは……部屋にもお風呂は一応ついてるけど、宿を東に進めば天然のテルマエがあるから湯浴みしたい時はそこでするのがオススメよ♪」
 何?
 天然のテルマエ……?
 大衆浴場ってことだよな……?
 天然ってことは、つまり、温泉!? 温泉があるのか!?
 日本人の俺にとって、これ以上ない朗報だった。

ボニー


ジュリア
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