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第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第9話:霧の森

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「本当に真っ白だな……」
 馬車を出ると、霧で数m先も見えない状態だった。
「ドントルさん……すまない。見える範囲のミストマタンゴは何匹か倒したんだが、どうやら大元がいるらしくて、全く霧が晴れないんだ」
「そうか。いや、仕方ないさ」
 武装した騎士たち数人が、困った顔でドントルに話しかけてくる。
「ドントルさん。この霧を今から吹き飛ばすから、その隙にミストマタンゴを倒してくれ。手が足りなければ俺たちも出る」
「き、霧を? ですが、どうやって……?」
「まあ、見ていてくれ」
 俺は両手に魔力を溜めて、一気に放出する。
 イメージは俺を中心に吹きすさぶ風。
 馬車を壊さないように威力を抑えつつ、霧を飛ばせるくらいのほどよい強さ。
 風の中級全体魔法……!!
「エルブラスト!!」
 フバァァァ……ボウン!!
 辺り一帯に強い突風が吹く。
 馬車がガタガタと揺れているが、俺は魔力を調節しながら解き放っていく。
 思ったよりも、MPの消費が少ない。
 流石、戦闘用にまとめられた攻撃魔法だ。
 少ないMPで最大限の威力が出せるようになっている。
 辺りの霧が一気に薄くなってきた。
「見える!! 見えるぞ!!」
「あ! あそこにいるぞ!? あそこにも!!」
 辺りを見ると、40㎝ほどの手と足が生えたキノコがわらわらと馬車を囲んでいた。
 太い柄の部分には、おどろおどろしい顔のような三つの穴が開いており、何とも不気味だ。
 鑑定をかける。

名前:ミストマタンゴ
危険度:D
説明:霧を生み出す胞子をばら撒くキノコの魔物。毒は無く、肉は魔物料理として使われる。
素材:『霧茸の肉』
レア素材:『濃霧の胞子』

「よっしゃー! マタンゴ狩りだー!!」
 視界を取り戻した騎士たちが意気揚々とミストマタンゴたちを狩っていく。
「……ですが、本当に数が多いですね。どのくらいかかるでしょうか」
 ドントルが呟く。
「なら、俺たちも手伝おう」
「いいんですか?」
「ああ。移動中あまり動いてなくて、仲間たちも身体が鈍っているだろう。魔物素材も欲しいしな」
「では、よろしくお願いします」
 俺が進言すると、ドントルが頭を下げる。
 俺は、リズたちを呼び、ミストマタンゴを狩ることにする。
「んー!! 身体を目一杯動かせそうだね!! いいよ、やろう!」
「シレイドも……頑張る」
「何もせず待っているだけなど、性に合わないからな」
 みんな乗り気だ。
 俺たちは馬車を中心にして、森を散策してマタンゴを倒していくことにした。
 道に迷わないようにリズのスキル『マッピング』でしっかりと馬車の位置と自分たちの位置を記録して進んでいく。
 ミストマタンゴの攻撃は大した攻撃ではなく、突進してくるだけなので気を付けていれば避けられし、肉も柔らかいので攻撃も普通に通る。
 サクサクとミストマタンゴを狩っていく。
「これで危険度Dっていうのは、なぜなんだろうな」
 俺がリズたちに問いかけると、後方から答えが返ってくる。
「霧を生み出す魔物だからだよ。他の魔物と団体で出てこられたら、一気にこちらが不利になるからね」
 振り返ると、茶色いロングヘアーの女騎士が立っていた。
 銀色の鎧を着ているが、それでも締まるところは締り、スタイルがいいのが分かる。
「君は?」
「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったね。私はエルゼリアのギルド冒険者、ハルカだよ。遠征で町を離れていて、帰ってくる途中だったんだけど、あなたたちと同じく霧で立ち往生しちゃって……って、同じ馬車列にいたと思うから解ってるよね。あなたが風魔法で霧を払ってくれたんでしょう? ありがとうね。私の仲間の魔導士、あの威力の魔法は火属性しか使えないからさ」
 苦笑いしながら、俺の問いに答えるハルカ。
 にしても、ハルカ……?
 妙に日本人っぽい名前だな。
「ハルカって名前……東国出身っぽいわね」
「ああ。確か国の名前は『和国《わこく》』と言ったか……」
 リズとキアラが後ろで話している。
 なるほど。貨幣文化と同じように、国のでき方もある程度地球と似ているのかもしれない。
 どうやら、日本と同じような国が、この世界にもあるようだ。
「あら、ごめんなさいね。火属性しか使えなくて。森ごと燃やしても良かったんだけど?」
 ハルカの後ろから出てきたのは赤髪のボブカットの魔法使いの女の子。
 紫色のローブにインテリ眼鏡をかけている。
 普通に立っているだけなのにオーラがすごい。
 二人ともかなりの腕の冒険者なのだろう。
「大体、いくら魔法適性が高くても、自分の魔力と、属性の相性が合わなければ、等級の低い魔法しか撃てないのは常識なんだから、仕方ないじゃない」
「そ、そんな怒らないでよ、ケイティ。ごめんなさいって」
 ハルカが苦笑いをしながら手を合わせて、頬を膨らませる魔導士に謝っている。
 魔力と属性の相性?
 普通に魔導書を読めば、誰でも全属性、全等級の魔法が扱えると思っていたのだが、そうではないのか?
「自己紹介がまだだったわね。私はケイティ。ハルカの仲間の魔導士よ……えっと、あなたたちは?」
「あ、ああ。俺はレオ」
「あたしはリズよ」
「ん……シレイド」
「私はキアラ。エルフの騎士だ」
 俺たちはハルカとケイティにここまでの経緯を説明した。
「そうなのね。ルクシアからエルゼリアに……それはようこそ! 新しい同業者が増えるとワクワクするねー」
「お気楽ね、ハルカは。競合相手が増えるじゃないの……」
 ハルカの言葉にケイティがため息をつく。
「すまない、まだ駆け出しの冒険者だから知らないんだが、自分の魔力と使用する魔法の属性の相性が合わないと本当に魔法が使えないのか?」
 俺は、先ほど感じた質問を話の合間にぶつけてみる。
「ええ、そうよ。私の魔法適性はS、上級職でジョブの力も十分ある。でも、相性は火属性としか合わないの。だから、他の属性の魔法の使用は相性補正が低い初級魔法までが限界ね。まあ、補正のない鑑定や空間魔法みたいな無属性魔法なら問題なく使えるけど」
 ケイティがさらりと答える。
 なるほど、大体の意味が分かった。
 口ぶりだと初級魔法、無属性魔法の場合は、魔法適性が低くても、自分の魔力との相性が悪くても全属性使うことが可能ということらしい。
 以前、サマンサの依頼でシルバーウルフと戦った時、リズが初級魔法であるファイアを覚えて使ったこともあるしな。
 そうなると、シャロンが全属性の中級魔法までの魔導書を渡してきた行動は不自然だ。
 でも、渡されて読んだ魔導書の文字は全部光ったし、脳内にも会得のイメージは焼き付いていた。
 実際、先ほどの中級風魔法は問題なく発動した。
 ということは、シャロンには俺の魔力の相性が分かっていたのだろうか?
「おーい! こっちのマタンゴ共は片付けたぞ!」
 あれこれ考えていると、ハルカたちの後ろから身長190㎝はあるだろう褐色肌の大きな女の子が大剣を担いで現れた。
「あ! カリーナ! ありがとね! そうそう、こちら、霧払いしてくれたレオくん、リズちゃん、シレイドちゃん、キアラちゃんよ」
「そうかい。いやー、助かったよ! おかげでキノコ共を叩き切れるようになった! あたしはカリーナ。ハルカの仲間の大剣使いさ!」
 屈託のない明るい笑顔で話しかけてくるカリーナ。
 褐色肌に、白の長髪が眩しい。
 露出度の高いビキニアーマーを着けており、溢れんばかりの巨乳と色香の漂うムチムチの肢体は目のやり場に困る。
「い、いや、大したことはしていないから」
「ん? どうした? 目を逸らして。お姉さんの魅力にやられたかぁ?」
 豊満な身体から思わず目を逸らすと、カリーナが肘で俺の腹を突いてくる。
「す、すまない……」
「へ? ホントに? ま、参ったなあ! もう!」
 カリーナは照れた顔でバシバシ背中を叩いてくる。
 なんとも豪快な女の子だ。
「カリーナ。その辺にしておきなさい。マタンゴはまだ残っているでしょう?」
「レオも! そんなにデレデレしないの!」
 ケイティとリズに注意されてしまった。
「じゃあ、私たちは西側をせん滅していくから、レオくんたちは東側をお願いできる? 北側は護衛の騎士たちが倒してくれていると思うから」
「分かった」
 そうして、ハルカたちは台風のように去って行った。
「な、なんか、変わった人たちだったね」
「ん……でも、あの人たち、かなり強い……」
「流石、エルゼリアで活動する冒険者と言ったところか。私たちも早く追いつけるようにならなくてはいけないな」
 リズたちも嵐が去った後のごとく、ポツリと言葉をこぼした。
「よし。話も終わったし、気を引き締めて討伐していこう」
 俺の言葉にみんなが首肯する。
 俺たちは森の東側に向かい、マタンゴ狩りを続けた。
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