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第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第7話:女神との交信・キアラ編

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 チュンチュンチュン……。
 いつもの朝チュンだ。
 転生前は考えられなかったくらい、数えきれないアバンチュールをしてきた。
 懐かしさと共に、何もなかった頃とは違う充実感が俺の胸を包み込んでいる。
 転生は半ば、女神が強引に進めたみたいなところはあったが、人間万事塞翁が馬。
 今は、こんな充実した人生をくれた女神に感謝している。
『何を考えこんでいるんですか?』
 いつも通り、メルヴィーナの声が聞こえてくる。
「いや、メルヴィーナに感謝していたところだ。この人生をくれたことに。こんなに充実している道を歩ませてくれていることに」
『前の人生のことを思い出していたのですね。レオさんは、律儀というか真面目というか……女神が言うなって話ですけど、もっと気楽に生きた方がいいですよ? 張り詰めた風船はすぐに割れちゃいますから』
 女神の言っていることは、解っている。
 俺は、ついつい前の人生を思い出してブルーになる。
 そして、今の人生を頑張って生きようと必死になる。痛いくらいにがむしゃらに。
 気を張らなくてもいいと言ってくれているのだ。
「肝に銘じておくよ。だけど、感謝しているのは本当だ」
『ふふふ、どこまでも真面目なんですから。じゃあ、お気持ちだけ頂いておきますね』
「真面目だったら、こんなにバカスカ遊ばないと思うけどな」
 隣で、まだ夢の中にいるキアラを見つめて呟く。
『何言ってるんですか。その世界は一夫多妻、複数彼女が普通に認められているって言ってるじゃないですか。イイ男に女性が集まるのは必然なんですってば』
「ああ、頭では解ってる……心も大分慣れてきたみたいだが、ふとした時にまだ悪いことをしている感覚が出てくるんだ。すまない」
『謝らなくてもいいですよ。まあ、全然違う文化の所から来た人に三ヵ月やそこらでいきなり染まれっていうのは難しいでしょうしね。無理に染まろうとする必要もないだろうし。慣れれるまで慣れて、それでも変わらないなら、そのままのレオさんでいいと思いますよ。彼女を作るだけ作って、まったくフォローしないクソ男もいますけど、レオさんはちゃんと皆さんを愛せてますし、上出来ですよ♪』
「そうか、ありがとう」
 女神の厳しくもあたたかいアドバイスに心が幾分か軽くなる。
『さて、レオさん! いよいよエルゼリアへの移住に取り掛かるんですね!』
 さっきまでとは明らかに違う声色だ。
「そうだが……なんだ? エルゼリアに何かあるのか?」
『ええ! それは、もう! エルゼリアは周囲を複数のダンジョンに囲まれた大都市! 思念渦巻く貴族階級も濃い場所! 冒険者にとっては格好の住処です! 私はレオさんがそこで冒険者としてもっと花開くのを楽しみにしているわけです!』
 まくしたてるように言う、メルヴィーナ。
「俺が活躍するのがメルヴィーナに何か関係があるのか?」
『直接は関係ないですが、言ったでしょう? 魔物や賊を倒すことは、ひいてはアルティナの為になるのです。転生者として送り込んだ子が頑張ってくれると嬉しいのですよ』
 本当にそれだけなのか?
 女神の言い方や、テンションがやけに気になる。
 何か本質を避けるような言い方をしていないか。
 言い換えれば、転生者が魔物や賊を倒さずして生きる道はないと言っているようなものだ。
 前にも、冒険者にならない転生者を残念な風に言っていた。
 転生させてくれた恩もあるから、そこは問題なくやるつもりだが。
「まるで俺が活躍するのを願っているような口ぶりだな」
『そりゃそうですよ! 転生させた子が頑張って世界の役に立ってくれるのは嬉しいですから! それに『開花の確率』も減るだろうし……あっ、やべ』
「『開花の確率』……? 何の話だ?」
『えっ? わ、ワタシ……ソンナコト、イッテマセン。キキチガイジャナイデスカ?』
「なんで急に片言になっているんだよ」
『…………黙秘します』
 なるほど、前に聴いた『失楽園』周りの話なのだろう。
 これ以上は言っちゃいけない決まりなのか。
 無理に聞き出そうとしても無駄なんだろう。
 なら、少しずつ情報を引き出して自分で考察して答えを導き出すしかない。
『開花の確率』という重要そうなワードを聞けたのは大きい。
「まあ、いい。エルゼリアに行くのは決定事項だからな。冒険者としてももっと高みへ行きたいし、メルヴィーナの望みに頑張って沿ってみるよ」
『うう……そうしてくれると助かります……』
 俺は、話を切り上げた。
 どじったと思っているのか、メルヴィーナのテンションは一気に低くなってしまったが。
 これ以上深堀りして、メルヴィーナが失楽園にでもなれば、この世界での俺のアドバイザーが消えてしまうことになりかねない。
 それ以上にメルヴィーナに対して、恩を仇で返すような真似をして困らせたくないし。
「それじゃあ、ここまでにしようか」
『は、はい……ハブ・ア・ナイスライフ……』
 女神のために、今日はこの辺で切り上げる。
 控えめな声で消えていくメルヴィーナに、少し可哀そうなことをしてしまっただろうかという思いが湧き上がったのだった。

「ん……レオ……?」
 目をこすりながら、隣でキアラが目を覚ます。
「おはよう。よく眠れたか?」
「ああ……まだ、その……股が変な感じはするが……」
 身体をもじもじとさせて、頬を赤らめる姿に思わずドキリと胸が高鳴ってしまう。
 いかんいかん。キアラは昨晩、初めてのカーニバルを終えたばかりだ。
 ここでがっついても、かわいそうだろう。
「無理しないでいい。何なら、もう少し寝ていてもいいぞ?」
「ああ。なら……!」
 俺が提案すると、ずいっと身体ごと布団の中に引き込まれ、首に腕を回される。
「このまま、レオと……人生で初めてできた愛しい人と……しばらく見つめ合っていたい……ダメか?」
 普段の凛々しいキアラとは違う、甘えの入った声でおねだりしてくる。
 昨日のカーニバルで、距離が一気にギュッと縮まった感じがする。
 俺は「構わないさ」と一言述べて、キアラと抱き合った。
 女神の思惑も気になるが、今はこの幸せを噛みしめていよう。
 俺にできることは、俺らしく生きることだけなのだから。
 今日から出発の日までは移住の準備をしっかりとしなければいけない。
 忙しくなるだろうが、この平穏もきっちりと護りたいと思う。
 なんとも、忙しく充実した日々が俺を包んでくれていた。
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