上 下
87 / 220
第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編

第4話:キアラの金銭感覚

しおりを挟む
 換金を終えて、充分な資金が作れたので宿に戻る。
 食堂で、少し早い夕食をみんなで取っていた。
「かなり所持金が潤ったね!」
「だな。こんなに稼げるとは思わなかったよ」
 ホクホク顔のリズに同調する。
 なにせ、俺の方も所持金が約110万Gに膨れ上がったのだ。
 ギルドで納品依頼を受ける手もあったが、残念なことに深淵の魔物素材で大口の納品依頼は無かった。
 なぜなら、ルクシアでそこまで多くの深淵の魔物を狩れる冒険者がいないからだ。
 ここでも、俺たちのレベルがもはやルクシアでは過剰になっていることを示していた。
「良かったな、みんな上手く金策ができて」
「ああ。これで十日後のエルゼリアへの諸々の経費も捻出できただろう」
 キアラがニコニコしながら言う。
 とりあえず、金銭的な心配をしなくてよくなったので、かなり気分的に楽だ。
「えっと……エルゼリアへの交通費が2万G、途中の食費とかエルゼリアに着いた後の宿代とかを考えたら一人10万Gは欲しいよね」
 リズが言うとキアラの目が急に点になる。
「じ、10万……? そ、そんなに要るのか!?」
 キアラが急に慌てたように言う。
「うん。エルゼリアはここより都会だからね。宿代とか食費も高いのよ。旅行ツアーのパンフレット見てても、結構値が張ってたし。なんといっても、ルクシアは辺境のど田舎だからね。多分、行ったらビックリするよ?」
 何も感づいていないリズの言葉に、どんどんと表情が曇りだすキアラ。
 冷や汗までかいている。
 まさかとは思うが……。
「キアラ? キアラの今の所持金はいくらだ?」
 失礼かもしれないが確認のために訊いてみる。
 キアラは目を伏せて、指をモジモジさせながら小さく呟いた。
「ご、5万G……」
 やはりか。
「ええっ!? それじゃあ全然足りないよ!? これから長い旅をするっていうのに、5万Gしか持ってこなかったの!?」
「し、仕方ないだろう!? これが私の全財産なのだ!! そ、それに、前にルクシアに来たときは1万Gもあれば充分足りたぞ!? ど、どうしよう!? い、今からガラテアに戻り、女王様に頼み込むか? いや、それは恰好悪すぎる」
 リズの言葉に、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言い返すキアラ。
 そうか、失念していた。
 エルフは基本的に自給自足をしている、いわば質素倹約な種族。
 お金の面に対してもかなり疎いのだったな。
 リズとキアラがあたふたと慌てているのをむしゃむしゃとミートパイを頬張りながら眺めているシレイド。
 すると、突然シレイドが言い放つ。
「問題ない……キアラもご主人様の奴隷になればいい……!!」
 俺もリズもキアラもその言葉に固まる。
 当の本人は「むふー……♪」と胸を張って得意げだ。
「ど、どういう……ことだ?」
 キアラが耐えきれなくなったのか聞き返す。
「冒険者は基本、自分のことは自分でするのが決まり……だけど、奴隷になれば、ご主人様に養ってもらえる……すごく経済的……」
 呆気に取られる俺たち三人。
 シレイドは言うだけ言うと、またミートパイに夢中になっている。
「き、キアラ……とりあえず、心配するな。当分の間はかかるお金は全部、俺が出すから」
「ほ、本当にいいのか……?」
「ああ、構わない。冒険する間に、きちんとした金銭感覚を身につけていこう」
「あ、ああ。ありがとう、レオ」
 奴隷になればいいというぶっ飛び発言を聴いた後だからか、キアラが俯いたままで申し訳なさそうに言う。
 まあ、仕方ないだろう。
 当面は俺が面倒を見よう。
 食事が終わり、それぞれの部屋に戻る。
 今日の相部屋はシレイドだ。
 と思ったら、シレイドと何かを話していたキアラが俺の元に来る。
「今日は私と相部屋だ……。よろしく頼む……」
「え?」
 頬を染めて目を逸らすキアラ。
 な、なんだ? なんなんだ、この空気……?
 俺が戸惑っていると、キアラが俺の手を引いて部屋の中に入っていく。
「ど、どういうことだ? キアラが相部屋って」
 俺が尋ねると、キアラは少し息を吐いて答える。
「シレイドに変わってもらったのだ……ちょうど、話したいこともあったしな、あ、あと、私も経験は無いが作法も知っているから安心しろ」
 キアラは何か、重大な勘違いをしていると思う。
「さ、作法って、何を言って……むぐっ!?」
 いきなり唇を奪われる。
 いや、顔面を顔面で激突されたと言った方が正しいか。
 少し痛いが、すぐに柔らかくほのかに甘い香りのキアラの唇が感じられた。
 唇をついばむように吸ってくるキアラ。
 そのまま流されていたい気持ちを押し殺し、俺はキアラを離した。
「ど、どういうことだ?」
「はぁっ、はぁっ、こ、こうするのが、人間の作法ではないのか?」
 キアラは荒い息をあげながら、じっと俺を見つめる。
「人間というのは、男が女を助けた時に、その、こういった色事的な施しを受けると本で読んだのだ……それも、女も頬を赤らめて乗り気になって……」
 どんな本だよ、と思いながらキアラに尋ねる。
「な、なんて名前の本だ?」
「『イケメン英雄の世直し道中』という本だ。冒険活劇だ」
 なるほど、話がうっすら読めてきた。
 おそらく、イケメンの英雄が女の子を冒険の途中で助けて惚れられる、もしくは見返りにイチャコラするという本だろう。
「キアラ、残念なお知らせだ。その物語の女は多分、お礼とは関係なく、その英雄に惚れている。何か理由をつけて、そういう行為をしたかっただけだ」
 俺が言うと、キョトンとした表情を浮かべるキアラだったが、すぐに表情を戻して言う。
「な、ならば問題はない。どうやら、本の女と私は同じ気持ちのようだからな」
 え? どういうことだ?
 聞き返す前に、俺はベッドに押し倒される。
「き、キアラ!?」
「冒険を通じて散々強さと誠実さを見せつけられ、レッドオークに襲われそうになっていたのを助けられ、挙げ句、途方に暮れていると『俺が面倒を見る』と言われる。これで、君に惹かれない理由はないだろう?」
 顔を赤く上気させて、覆いかぶさったまま潤んだ瞳で見つめてくるキアラ。
 渾身の勇気を込めた言葉だったのだろう、キアラの肩は少し震えていた。
 俺は、何も言わずにそっとキアラを引き寄せた。 
「無理しなくていい。慣れてないんだろう? こういった事に」
 俺は、キアラをなだめるように頭を撫でる。
 キアラは、俺の腕の中で小さくコクリと頷いた。
「本当は……知識も少ない……だから、レオが教えてくれ……優しく、ゆっくりと」
 俺はキアラの頭を撫でて、優しく抱きしめた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...