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第3章:エルフの国と優しい女王編

閑話:サマンサと出稼ぎ彼氏

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 これは、俺がエルフの国ガラテアでレッドオークを打ち倒した後、護衛をしていた一週間半の間の話。
 俺とリズ、シレイド、キアラの四人は、日課であるガラテア周辺の魔物を狩りながら警護をしていた。
「うむ、森の様子も特に問題はない。レッドオークに荒らされた生態系も少しずつ元に戻ってきているみたいだな」
 キアラは羊皮紙に記録をしながら、森の動物たちを観測し、魔物を狩っていた。
「ご主人様……シレイド、行きたいところがある……」
「ん? 行きたいところ? いいぞ。どこだ?」
「こっちこっち……」
 シレイドが俺の手を引いて、森の中を歩いていく。
 リズとキアラも、不思議そうについてきた。
 森をしばらく進むと、大きな影が蠢いている。
 が、それはこちらに襲い掛かってくることなく、その場でジタバタしているだけだった。
「なんだ? あれ?」
「むふー……♪ かかってる、かかってる……」
 俺のつぶやきを意に介さずにシレイドが笑みを浮かべる。
 見てみると、蔦に絡まってピンク色の羊が二匹、もがいていた。
「わぁ! 綺麗な羊!」
「……残念。猪じゃなかった」
 感激するリズに、ガックリと肩を落とすシレイド。
「猪って……キングボアのことか?」
「んーん……普通のボアのこと……キングボアは肉が硬くて食用に向かない……ボアは肉が柔らかくて食べれる……臆病だから、人前にあまり出てこない……シレイド、前にご主人様に予約されたお祝いにローガンに一度だけ食べさせてもらった……その味を思い出して食べたかった」
 なるほど、食用の猪ってことか。
 だが、罠にかかっているのはピンク色の羊だ。
 シレイドが、アイビーデビルの蔦が欲しいとせがんできたのは、この罠を作るためだったのか。
「羊じゃダメなのか?」
「んー……」
 俺の問いかけに考え込むシレイド。
「止めておけ。それはカラフルシープという魔物だ。肉は獣臭くて食べられたものではない。もっとも、四季でいろんな色に生え変わる毛は人気で、大きな牧場なんかで飼われているがな」
 食べようとしている俺たちを、キアラが制止してくる。
 俺は静かに鑑定してみた。

名前:カラフルシープ
危険度:E
説明:静かな森の中で暮らしている臆病な羊の魔物。四季によって色が変化するカラフルな毛におおわれており、季節の移り変わりにごっそり毛が抜け落ちる。毛は衣類に使われ高値で売買される。一部の牧場では家畜として飼育している。
素材:『カラフルシープの毛』

 ほう、牧場……。
「にしても、カラフルシープとは珍しい……。森が荒れだした時からとんと見なくなっていたが。こうして現れたということはいい兆候だ、うんうん」
「なあ、キアラ。さっき、牧場で飼われているといったな。この羊、危険ではないのか? それか、飼うのが大変だとか」
「カラフルシープはボアと同様に憶病で大人しい魔物だ。草食だから、普通の干し草を食べるらしいぞ」
 なら、決まりだな。
「シレイド、この羊二匹、俺にくれないか?」
「シレイドの物はご主人様の物……ご主人様が欲しいなら……この羊、ご主人様の好きにしていい」
「ありがとうな。代わりにルクシアの町でボアの肉を買ってきてやる」
「ホント……?」
「ああ」
「むふー♪」
 シレイドは俺の提案に満足そうに笑った。
「でも、どうするの? こんな羊」
「サマンサにあげようと思う。この頃、牧場に行けてなかったから、ワープで様子を見に行きがてら」
「そっか。まあ、サマンサもレオに会いたいでしょうしね。レオも久しぶりにサマンサに会いたいだろうし……♪」
 俺の答えに、リズがフフッと笑う。
 嫉妬しているのかいないのか。図れないリズの微笑みは少し心臓に悪い。
 ハーレムは大変だ。

 今日は早々に狩りを切り上げて、カラフルシープ二匹を縄で引き連れて、サマンサの牧場を訪れる。
「久しぶりだな……この牧場も」
 シレイドを買うために夜の冒険に泊まった時以来だろうか。
 最近ドタバタしていたのもあって、かつ、町から離れているから、なかなか来れないでいた。
「おおーい!! レオー!!」
 俺の姿を見つけたサマンサが、牧場から大きく手を振って駆け寄ってくる。
「ダーイブ!!」
「おふぉう!?」
 そのままの勢いで俺に飛びかかってくるサマンサ。
 危うく、縄を離しそうになった。
「久しぶりー♪ さみしかったよぉー♪ 彼氏なんだからもっと会いに来てよぉー♪」
 すりすりと俺の胸板に頬ずりするサマンサ。
「悪いな。立て込んでいてなかなか来れなかった」
「えへへー♪ 許す!!」
 俺が謝ると、清々しいくらいすぐに許してくれた。
「ところで、その羊……何? え……? カラフルシープじゃない!? すっごーい!」
「ああ。冒険先で捕まえてな。サマンサにあげようと思って持ってきた」
 サマンサはウルウルした瞳で俺を見つめた後、また飛びかかってくる。
「ううー♪ さっすが、私の彼氏様!! 大好き!! 大好きだー!!」
 平原の中心で愛を叫ばれた。
 まあ、誰もいないから全然いいが。

 カラフルシープを小屋に入れると、二匹は大人しく干し草を食べだした。
 この様子なら、牧場にもすぐ慣れるだろう。
 サマンサの家に招かれ、机をはさんで談笑する。
「まさか、カラフルシープを貰えるとは思えなかったよ。はい、これ」
 サマンサがウェルカムドリンクの牛乳を手渡してくれる。
「普通の牛や羊とは違うのか?」
「そりゃあ、魔物だからね。動物より手に入りにくいから、いざ買おうとしても高いんだよ。まあ、その分、動物より採れる畜産物は価値が高いけどね。私も飼いたかったけど、高くて買えなくて、諦めてたんだ」
「そうか、なら、今日持ってきてよかったよ」
「うん♪ すっごく嬉しいよ! これで、火の車の牧場も少しは安定するかな……」
 俺の問いに答えたサマンサが、ポツリと呟く。
「今日はカラフルシープだけじゃないんだ」
「え?」
「これ、受け取ってくれ」
 シルバーウルフの毛皮を数十枚、まとめてサマンサに渡す。
「こ、これ……毛皮……? 銀色で綺麗……」
「前にサマンサの依頼でも戦った、シルバーウルフの毛皮だよ。戦って大量に手に入ったから、受け取ってくれ。町に持っていけば高く売れると思う」
「うぅっ……レオぉ、どれだけ私を感激させるのぉ……」
 泣きそうになっているサマンサ。
 ウルフの依頼の時は、あんなにも苦戦したシルバーウルフ。
 今じゃ獲物として普通に狩って、こうして重宝させてもらっている。
 自分自身の大きな成長に、誇らしい気分になった。
「サマンサは俺の大切な彼女だからな。普段会えない分、こうして彼氏らしい事はするさ。まあ、さしずめ、出稼ぎ彼氏ってとこだな」
「ぷっ……ふふふ、なにそれ……♪」
 目じりの涙を拭いながら、サマンサが吹き出して笑う。
「まだ、もうしばらく居られる?」
「ああ、今日一日はサマンサと過ごすって決めたからな」
「なら、たっくさんおもてなししてあげる♪ 久しぶりにたっぷり仲良くして……その後、美味しいごはん、一緒に食べよう?」
 顔を赤らめて上目遣いで言うサマンサ。
 俺は首肯して、サマンサを抱きあげてベッドに連れて行った。
 その日一日、濃厚なミルクのように甘い一日を過ごしたのだった。
 ちなみに、翌日、町でボアの肉を買ってガラテアに戻った。
 シレイドは「むふー♪」と満足そうに頬張ってボア肉料理を食べていた。
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