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第3章:エルフの国と優しい女王編

第33話:指名依頼の報酬

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 応接室に入った後も、ラズベリーは俺の腕に絡みつき頬ずりしている。
 以前、仕事場ではこういったことは控えてくれと言っていた彼女はどこに行ったのだろうか。
 さながら、主に久しぶりに会った飼い猫のようだ。
「ら、ラズベリー……そ、そろそろウルス副団長を呼んできてくれないか? ガラテアでの活動の報告がしたい」
「……え? ……す、すみません! そ、そうでした……私としたことが、あなたに久しぶりに会えた嬉しさで失念していました……」
「コホン」と一つ咳払いをすると、緩み切ったプライベートの顔から普段の受付嬢の顔に戻る。
「では、ウルス副団長を呼んできます……後ほど『ビーナスビア』で待っていますから、必ず来てください」
 淡々と話した後、ラズベリーは俺にずいっと顔を近づけて唇を軽く重ねてくる。
「これは、心配をかけられたお詫びとして頂いておきます」
 表情は硬いまま、頬を少し赤らめて部屋を出ていくラズベリー。
 突然のキスの柔らかい余韻に浸っていると、ウルス副団長が部屋に入ってくる。
「待たせてすまない、レオ君。では、早速報告をお願いする」
「はい」
 俺はエルフの国であったことを隅から隅まで報告した。
 ギルドを通しての指名依頼なのだから、少しでも隠すことはよくないと思ったからだ。
 流石に、ルーティアとのアバンチュールは秘密にさせてもらったが。
「うーむ……そうか。レッドオークが……」
 俺が取り出したレッドオークの毛皮を見ながら、ウルス副団長が難しい顔をする。
「何か、問題でも?」
「いや、深淵でオークを見かけることはよくあるが、レッドオークが現れることは統計的に考えられんのだ。まあ、魔物が活発化していたということから見て、レッドオークの出現で森が荒れていたことは考えられるが……そもそものレッドオークの発生原因が分からんのだよ」
 平原でシルバーウルフが現れた時も、そんなような感じだったな。
「そうですか……」
「まあ、なんにせよ無事でよかった。そして、よくやったな。やはり君たちに指名依頼を頼んで良かったよ」
 ウルス副団長はまっすぐ労ってくれた。
「それじゃあ、一応決まりだからジャイアントコブラ、ゴブリンとゴブリンマージ、キングボア討伐の証拠素材を提出してくれないか? ああ、レッドオークは今回討伐対象外だったから、素材は君がもらってくれていい」
「分かりました。こちらになります」
 俺は、ジャイアントコブラの皮、ゴブリンの爪三十個、ゴブリンマージの魔石、キングボアの皮をそれぞれ提出した。
「うむ、確かに。それではこれがガラテアからの依頼達成報酬50万Gだ」
「ご、50万!? 貰えませんよ……! さっき報告した通り、ガラテアからは褒美を頂きましたし……」
「それは、ガラテアを護った謝礼としての報酬だろう? これは、ギルドを通しての指名依頼を達成した報酬……別物だ。レオ君、冒険者として報酬を受け取るのも立派な仕事だぞ?」
 俺が戸惑っていると、ウルス副団長は優しく諭してくれた。
「で、では……頂きます」
 俺は50万Gを受け取った。
「エルフの国をあと一週間半ほど護衛する追加依頼も受けていたな? 当然、報酬は別だから一週間半後にまた取りに来なさい」
「は、はい」
 一気に大金が入ってしまった。
 まあ、俺もリズもシレイドも、大変な思いはしたのだからその分として受け取っておこう。
「それから、今回の働きを鑑みて、ギルド団長から許しが出たので、レオ君、リズ君、シレイド君全員の冒険者ランクをDに引き上げた。ランクが上がったことで、より条件の厳しい依頼も受けられるようになったというわけだ」
「ありがとうございます!」
 掲示板を見ていると、たまに「条件:冒険者ランクD以上」とかの依頼があったのでそれが受けられるようになったというわけか。
「気になっていたんですけど、ギルドの団長とは会えないんですか? お姿を見たことが無いんですが」
「ああ……実は、ルクシアのギルド団長は他の町のギルド団長をいくつも掛け持ちしていてな。ご多忙でほとんどおられないのだ……それに、何というか自由奔放で豪胆な方でな……君が適性SSSを出した時も『王都にはそんな輩ゴロゴロおるわ』と言われ、シルバーウルフを倒した際も『その程度で冒険者ランクは上げれん』と言われ、今回も『よくやったが、王都の冒険者から見ればヒヨッコだな』と言われ……私としても頭が痛いのだよ」
 ウルス副団長がため息交じりで愚痴ってくる。
 大変なんだな、中間管理職。
 その後、しばらくウルス副団長と談笑した後、ギルドを後にする。

 日が暮れだして、ミレーユの経営する酒場『ビーナスビア』に向かう。
 リズたちには悪いが、少しだけハーレムのフォローをさせてもらおう。
 酒場に入ろうとしていると、後ろから誰かが飛びついてくる。
 背中に感じるふくよかな巨乳。
 回された手の褐色具合。
 ミレーユだった。
「久しぶりね……私の可愛い彼氏クン♪ てっきり、飽きられちゃったのかと思って心配したわ……♪」
「わ、悪い。エルフの国に遠征に行ってたから」
「知ってる……ラズベリーから聞いたわ。出発前にウチに来て、二人で飲んだ後、激しい激しいコトしたのも……」
 首に回された腕の力がググッと強くなる。
 い、いかん、これは妬かれている。
 確実にやきもちを妬かれている。
「み、ミレーユはどうして、外に? てっきり酒場にいるかと……」
「料理の材料が切れたから、買い出しよ。バイトの子に店番を任せてね」
「そ、そうだったのか」
 バックハグしたまま、俺の顔に頬ずりして答えるミレーユ。
 その時——。
「何してるんですか? 店の前で……」
 振り返ると、ムスッとした顔で、仕事終わりのラズベリーが俺たちを見ている。
「あら、ラズベリー。あなたも来ちゃったの?」
「『来ちゃったの?』ではありません。今日、レオさんに飲もうと誘ったのは私です」
「そうだったの……じゃあ、久しぶりに三人で飲みましょう? おいしいカクテルとおつまみ作るから……♡」
「はぁ……仕方ないですね……行きましょう。レオさん」
「さあさあ、入って入って、レオくん」
 美女二人に腕を抱かれて、酒場の中に入っていく。
 両手に花というやつだろうが、二人の独占欲に挟まれている気もする。
 女性の強さを実感しつつ、ハーレムを維持するのは本当に大変だと思うのだった。
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