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第3章:エルフの国と優しい女王編

第21話:ゴブリンマージ

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「ナニヲシテイル!? ハヤクデテコイ! デテコナケレバ……」
 法衣を着たゴブリンは、杖を椅子にしていたエルフに向ける。
 俺は、リズに隠れているように合図して、シレイドとキアラと共に、手を上げて部屋の中に入っていく。
「お楽しみ中、悪かった。今、そっちに行くよ」
 そして、俺たちは先ほど突っ込んで倒れている、エルフの男性兵士の前に出る。
 こうすることで、いざという時、この兵士を護れる。
「サンニンカ……ケッケッケ、ウチフタリハオンナ……コレハタノシメソウダ……」
 うまくいった。
 リズのことは気づかれずに済んだようだ。
 今更必要もないと思うが、鑑定をかける。
 できる限り情報が多い方がいい。
 俺は、鑑定を行った。

名前:ゴブリンマージ
危険度:D
説明:ゴブリンが知恵をつけ魔法が使えるように変化した変異種。ずる賢く欲望や自分の気持ちに忠実で狡猾。
素材:『ゴブリンの魔石』
レア素材:『ゴブリンの紋章』

 なるほど、欲望や自分の気持ちに忠実か。
「シレイド……キアラ……これから言うことをよく聞いてくれ……」
「ん……」
「レオ……?」
 俺は小声で手早く作戦を伝える。
「ナニヲブツブツイッテル……!! ナニカタクランデルンジャ!?」
「企んでなんかないさ。帯刀している武器をあんたに差し出した方がいいと思ってな」
 俺は鋼の剣を鞘ごとベルトから抜いて、近づく。
「タクランデナイコトハワカッタ! ダカラ、チカヅクナ! ブキハソノバニオケ!」
「まあまあ、遠慮するな……投げるぞ! 受け取れ……!!」
 俺が鋼の剣を投げると、ゴブリンマージの手前に落ちる。
 念のため、剣を俺から遠ざけようとしているのか、それをとろうとするゴブリンマージ。
 やはり、危険を回避したいという気持ちに従ったか。
「オ、オモイ……」
 俺の剣は普通の剣だ、ゴブリンの体躯からしたら重いだろう。
 その直後、エルフの女性に突き付けていた杖から無意識に手を離し、ゴブリンマージは両手で鋼の剣を持ち上げる。
「今だ! シレイド!!」
「ん……ふっ!! ふっ!!」
 シレイドが投げナイフ二本を放つ!
「ゲギャ!?」
 ゴブリンマージはとっさに鋼の剣で防御姿勢をとり、それを受け止める。
「はあああああっ!!」
 直後、隙をついてキアラが一気に距離を詰め、短剣でゴブリンマージの腹を掻っ捌く!
 そう、俺が鋼の剣を投げ渡したのも、シレイドの投げナイフも囮だ。
「ゲギャアアッ!?」
 紫色の血反吐を吐くゴブリンマージ。
「クソ……!! 『ファイア』!!」
 キアラに向かい火球を放つ……が――。
「させるか!! 『ファイア』!!」
 ゴブリンマージが放った火球と俺の火球がぶつかり、相殺される!
「ナ……ナンダト!? オマエモ、マホウヲ!? クソ、コウナレバ!! ウゴクナ……!! コノオンナヲコロスゾ……!!」
 鋼の剣をたどたどしく抜き、再びエルフの女性を人質にしようとするゴブリンマージ……だが!!
「もう遅い……!!」
「ふん……」
 シレイドが『高速移動』で突っ込み、ぐったりしているエルフの女性とゴブリンマージの間に割って入る。
 突き付けられた鋼の剣を、ダガーで打ち払う。
 フラフラとよろめきながら構える剣じゃ、シレイドのダガーは捌けない。
「観念する……往生際……悪い……」
「クソガアアア!!」
 ゴブリンマージは持っていた鋼の剣を捨てて、先ほど手放した杖を手に取ろうとする。
 やはり、鋼の剣は重かったようだ。
 腕を杖に差し出した瞬間……!
 ズドン!!
 腕にクロスボウの矢が突き刺さる!
「ギャアアアアアア!?」
 リズだ。
 突然の射撃に叫び声を上げるゴブリンマージ。
「クソオオオ……ファイ――」
「悪いが、もう付き合ってられないな」
 シレイドに向かい、やけくそで魔法を放とうとするゴブリンマージの頭を、俺は背後から鷲掴みにする。
「ゲギャ!? ……オマエ、イツノマニ——」
「ファイア」
 問答無用で高火力のファイアを頭部に喰らわせた。
 頭が丸焦げになったゴブリンマージは息絶えて、バタリと倒れた。
「リズ、素材の回収を頼む。キアラはこの女性を救護してあげてくれ」
「うん!」
「分かった」
 ゴブリンがいた粗末な玉座の後ろに木でできた簡素な扉がある。
 鬼が出るか蛇が出るか。
 俺は、鋼の剣を回収し、シレイドに合図する。
 シレイドに、ダガーを構えさせた上で、そっと扉を開ける。
 すると――。
「ピギャー!」
「ギャピー!」
 多数のゴブリンの幼子がいた。
「これ……」
「ゴブリンは自分たちでは繁殖できない……他種族の女性を通して子供を産む……おそらく、捕らわれていたエルフの……」
 なんて酷いことをしやがる。
 俺は、怒りに打ち震えていた。
「ご主人様……この子たちを始末する……大きくなれば再び脅威になってしまう……」
「ああ」
 無抵抗の子供を手にかけるようで後味が悪いが、部屋の中にいるゴブリンの子供にフレイムを浴びせる。
 火柱は、ゴブリンたちを焼き尽くした。
 こうして約三十匹のゴブリンの群れは全滅。
 俺たちは無事、巣穴を制圧したのだった。
 もちろん、素材は倒した全てのゴブリンから頂く。
 狩った以上は、相応に役立ててやらなければ、それこそ浮かばれないだろう。
 それが、俺たちにできる唯一の弔いだ。
 俺たちはそうして、巣穴を後にして帰路についた。

「レオ、はい。これ、ゴブリンマージの素材」
 夜、野営しているところで、受け取りそびれていた素材をリズから受け取る。
 紫色の小さな石ころと、木板に掘られたなんだかよく分からない紋章。
 これが、鑑定したときに出ていた『ゴブリンの魔石』と『ゴブリンの紋章』だろう。

「ねえ……レオ……冒険しててさ、時々怖くなることない?」
 リズが俯いて言う。
「どういうことだ?」
「今日助けた、エルフの女の子たち……ずっとゴブリンに捕らえられて、酷いことされて……かわいそうだったし、なんていうか……自分もこんな目に遭っても不思議じゃないんだなって……ちょっと、身に染みて感じたというか……」
 捕らえられていた女の子たちのことか。
 確かに、あれはショッキングだったな。
 キアラたちは、少し後方で同じように野営を張っている。
 彼女たちは、しっかりと服を着せてもらい、毛布を掛けてもらっていた。
 だが、心の傷はなかなか癒えないだろう。
 リズは、そんな彼女たちに心を寄せていた。
「そうだな……俺も冒険は怖いさ。今まで平和な世界にいたからな。だが、きっと大丈夫だ。俺には仲間がいる。リズも俺が必ず護ってやるから」
 震えるリズの肩をそっと抱いてやる。
「うん……ありがと、ちょっと落ち着いた」
 リズが静かに微笑む。
「ご主人様……シレイドもー……」
 シレイドはそんな、何とも言えない空気を知ってか知らずか、無邪気にもう片方の腕にくるまってくる。
「ああ、もちろんシレイドも護ってやる」
「やったー……」
 万歳をするシレイド。
 護ってやるさ。護りたいものは全部。
 これまで作った彼女たちもひっくるめて全部だ。
 あんな酷い目には絶対に遭わせたくない、いや、遭わせない。
 いかんな、俺も幾分かやり場のない怒りで感情的になっているようだ。
「もう寝よう……あと二日以上、歩かなきゃいけないからな」
「ええ……」
「ん……」
 俺たちは心に負った傷を埋めるように、三人仲良く抱き合って眠った。
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