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第3章:エルフの国と優しい女王編

第15話:女王蜂蜜

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「うえー、これホントに素材なの……?」
「間違いない……鑑定でそう出た……ちゃんとした素材」
 灰熊を剥ぎ取っていたリズとシレイドがワチャワチャと何か言い合っている。
 二人は素材を剥ぎ取り終えたのか、こちらに戻ってくる。
「ご主人様……これ、グレイベアの毛皮……あと……」
「こ、これ。灰熊の手……『灰色の熊掌』よ。何に使うのかしら。こんなの」
 シレイドが毛皮を渡してくれた後、リズが苦い顔をして切り取られた灰熊の手を差し出してくる。
「その灰熊の手は、料理に使うのだ」
 キアラが微笑みながら答える。
「料理って……食べるの!? これ!?」
 リズは驚いている。
 シレイドも無言で驚いているようだ。
「熊の手料理は俺のいた世界でも聞いたことがあるな。食べたことはないけど」
「そうなの!? そんな料理、町じゃ聞いたことも見たこともないわよ!?」
 俺の言葉にリズが驚愕している。
 確か、凄まじく下処理が大変だったはずだ。
 料理といえば、焼くか煮るくらいしかしないアルティナでは、一般的には食べられないのだろう。
「エルフの間では王族が宴の時に食べる。まあ、高級料理の部類だからな。きっと人間にとっても一般人には流通しないのだろうな」
 キアラが推察する。
「じゃあ、グレイベアを今まで倒してきた冒険者は、わけも分からず換金に出してたってことだろうか」
 使い道を流布させないことで低い価格で流通させて、貴族の間だけで、ほくそ笑んでいるのかも知れないな。
「どんな味するんだろう……?」
「まずそう……シレイド、要らない……」
 不思議そうなリズと、舌を出して苦い顔をするシレイド。
「ガラテアの王宮料理人なら調理できるぞ? 後で渡して、試しに一つ食べてみればいい。案外美味いんだ。シレイドも食べてみるといい」
「そうだな。四つもあるし、一個くらい食べてみてもいいか……。残りはリズがキングトリュフでお世話になってるグルメな貴婦人にでも売ってあげればいいさ」
「そうね。あの婦人なら、きっと喜んで買い取ってくれるわ」
 とりあえず、熊の手の話が固まったところで、俺たちはガラテアに向かって再び進んでいく。

 ブーーン……ブーーン……!
 グレイベアを倒した先、しばらく進んだところで虫の羽音みたいなものが聞こえてくる。
「グレイベアがいたから、まさかとは思ったが……やはり奴らが現れたか。しかも、巣を作っているとは」
 キアラから手信号を受け、草陰に隠れて小道を見ると、先にある木に大きなハチの巣がぶら下がっている。
 イエロービーかと思ったが、飛び回っている蜂は赤くてでかい。
 黄色蜂の三倍くらいはあるだろうか。
「大きな蜂ね……」
「あれはレッドビーだ。森に棲む危険な毒蜂で、巣に気づかずに近づくと囲まれて簡単に命を落とす。グレイベアは奴らの巣が好物でな。どちらかを見つければ、どちらかがそばにいると言われている」
 ミツバチ足すスズメバチみたいなものだろうか。
 怖い。
 鑑定をしてみる。

名前:レッドビー
危険度:E+
説明:イエロービーの上位種。凶暴性と毒性が強くなっている。巣に近づく者を、団体で囲み、針で突き刺し、文字通りハチの巣にしてしまう。
素材:『赤蜂の毒針』
レア素材:『赤色蜂蜜』

「回り道をしようにも、この道は他のエルフも使う。放っておくのは危険だな……」
「なら、離れて攻撃するしかないな」
 キアラの言葉に俺は照準を合わせる。
「『フレイム』!! もう一発『フレイム』!!」
 ゴオオオオッ!! ゴオオオオッ!!
 森を焼いてしまわないように位置と威力を調整しながら、ハチの巣を燃やす。
 ポトリポトリと蜂が落ちていく。
 先ほどまでの羽音が止み、辺りは木々の葉が擦れる音と、鳥の鳴き声だけになった。
 と、その時、巣がもぞもぞと動き出す。
 小さい巣の穴から、どうやって出てきたのかというくらい大きな腹の巨大蜂が出てくる。
 先ほどのレッドビーよりさらに二回りほど大きいだろうか。
 さすがに規格外の大きさだ。
 小型犬くらいの大きさはあるんじゃないだろうか。
「クイーンビーだな……巣があるから当然いるだろうが、どうするか」
 キアラが槍を構えて悩んでいる。
 鑑定をかける。

名前:クイーンビー
危険度:E+
説明:イエロービー、レッドビーを率いる群れの女王。猛毒を含む巨大な針を持つが、身体には毒はない。巣から出てきた時は怒っているため、危険。
素材:『女王蜂の毒針』
レア素材:『女王蜂蜜』

「キアラ、接近戦はしない方がいい。リズ、いけるか?」
「任せてよ!」
 リズがクロスボウを構えて矢を放つ。
 矢は女王蜂の腹に刺さり、ポトリと落ちる。
 一撃だ。
 俺やシレイドに隠れがちだが、リズも『A』の上位適性。
 かつ、下級職にジョブチェンジしているため、攻撃自体は十分に鋭いのだ。
「『エネミーカウント』……うん、クリア! 残りの蜂はもういないよ」
「よし、素材を回収しよう」
 リズの言葉を受けて、散乱する蜂から手際よく素材をはぎ取っていく。
 キアラは目を丸くしながら、俺たちを見つめている。
「ん? どうした、キアラ?」
「い、いや。レオたちはホントにルクシアの町で活動しているのか? 初見の魔物にも恐れず、連携も十分に取れている。すでに初級冒険者の器ではないと思うのだが」
「まだ、冒険者ランクEの初級冒険者だよ。いずれはルクシアから出て、もっと大きな生活を夢見てるけどな」
 にっこり微笑んでやると、キアラも困ったように笑った。
「ねえねえ! この赤蜂と女王蜂の毒針、もらって良い? きっと加工したら、良いクロスボウの矢になりそうだからさ!」
 リズが目を輝かせて訊いてくる。
「ああ、構わないぞ。好きなだけ持っていけばいい」
「やった! じゃあ、ハイ! その代わりといってはなんだけど、あたしが仕留めたクイーンビーがお腹に貯めこんでた『女王蜂蜜』、レオにあげる!」
 自分で仕留めた獲物の素材は自分のもの。
 稼いだ金は分けているが、素材に関してのルールは変わらない。
 俺は残りの赤蜂の素材と、『女王蜂蜜』を手に入れたのだった。
 鑑定をかける。

名前:女王蜂蜜
素材ランク:A
説明:クイーンビーから、取れる栄養価の高い蜂蜜。普段、女王蜂は人前に姿を見せないことから希少性が極めて高く、王宮のスイーツや最上級のカクテルなどを作る際に用いられる。

 カクテル……出発前のラズベリーとの激しい一戦を思い出す。
「ご主人様……顔が赤い……」
「あー、他の女の子のことでも考えてたでしょう♪」
 シレイドに気づかれ、リズにからかわれる。
 まあ、その通りなんですがね。
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