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第3章:エルフの国と優しい女王編

第13話:危険な指名依頼

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「ふむ……そなたらが適任と言う冒険者か」
 キアラは凛とした眼差しで俺たちを見る。
「名前は何という?」
「レオだ」
「り、リズです」
「シレイド……」
「ふむ、私はキアラだ。依頼では私も共に戦うことになる。よろしく頼む」
 話がトントン拍子に進む――が。
「ちょっと待ったあああ!! なんで、冒険者になって一月二月のルーキーに依頼するんだよ!?」
「エルフの国からの依頼だろ!? 報酬も馬鹿でかいはずだ!! その依頼は俺たちが受けるぜ!!」
「ウルス副団長!! おかしいだろうが!! 深淵なら俺たちの方が慣れているだろ!!」
 冒険者たちがブーブーと不満を叫んでいる。
 おそらく、ルクシアギルドの実力派と言われる冒険者たちだ。
 キアラの美貌に当てられたか、はたまたエルフの国の褒美に目がくらんだか。
「では、お前ら。この三つの依頼を、自分たちのパーティだけでこなせるということだな?」
 ウルス副団長が、依頼用紙三枚を高く掲げる。
 冒険者たちは、その内容を、目を凝らして見る。
 当然、俺たちもどんな依頼か注目して見てみた。

依頼1:キングボア一匹の狩猟。(注意:シルバーウルフ二匹を引き連れているのを確認)
依頼2:ゴブリンの巣穴にて約三十匹のゴブリンの狩猟。(注意:群れのリーダーにゴブリンマージを確認、及び複数人の人質解放を含む)
依頼3:ジャイアントコブラ一匹の狩猟。(注意:ポイズンスネークを群れの仲間として多数匹確認)

 シン……。
 騒ぎ立てていた冒険者たちが、一斉に黙り込む。
「ん……? なんだ、みんな一斉に黙ったぞ? そんなにヤバいのか? まあ、シルバーウルフ二匹はヤバいとは思うが、戦うとしても今度は四人はいるわけだし……」
「あたしもそう思う。でも、最近まで平原から出たことなかったから、森のことはあまり知らないわね。ゴブリンは知ってるけど、少なくとも大半は聞いたことのない魔物ばかりだわ」
「シレイドも……魔物、詳しくない……ただ、ポイズンスネークの毒は、暗殺でよく使ってた」
 リズたちに訊くも、あまりピンと来ていないみたいだ。
 シレイドは、なんか怖い情報をぶち込んできたが。
 冒険者たちが徐々にどよめき出す。
「ルクシアの森の生態系の頂点、キングボアに……シルバーウルフ二匹のおまけ……だと?」
「ゴブリンマージがいるゴブリンの巣穴には、初級冒険者は入るなっていうのが常識だろ? ここ、始まりの町だぜ? 無理に決まってる……!」
「ジャイアントコブラ……深淵で出会ったら逃げろっていう人食い大蛇の討伐かよ……!」
 戦々恐々とした声があちこちから聞こえる。
「副団長!! 彼らは、まだ深淵に入ったこともありません! この依頼を指名するのは無謀だと思います!!」
 驚いたことに声を張り上げたのはラズベリーだった。
「お、落ち着けラズベリー。今、このギルドでこれらのクエストを受けられるとしたら彼らしかいない」
「ですが、シルバーウルフもゴブリンマージもジャイアントコブラも危険度D……! キングボアに至っては危険度D+と言われるほどの大物じゃないですか!」
 ラズベリーのあまりの剣幕にウルス副団長がたじろいでいる。
「そ、そう大声を出すな。エルフの国も何もしないわけではないだろう?」
「無論、最大限のバックアップはさせてもらう」
「ですが!」
 ウルス副団長が手でラズベリーを制止する。
「キアラ殿。今回の依頼、エルフの他民族を領地に入れないという慣習を破ってまで遂行したいほど緊急の案件というわけだな?」
「そうだ。このまま行けばガラテアは住処を魔物どもに奪われ滅んでしまう。何としてでもそれは避けたい」
「だそうだ。魔物退治専門の王宮騎士団へ援軍要請を出すのが一番いいが、この辺境の町では少なくとも二週間はかかる。そこでだ、倒すまではいかなくてもいい。彼らに騎士団が来るまでガラテアを護ってもらおうという寸法だ」
 ウルス副団長が顎を撫でながら、俺たちをじっと見る。
「どうだね……やってくれるか? レオ君、リズ君、シレイド君?」
「……分かりました。とにかく、騎士団が来るまで持たせればいいんですね」
「あたしも、異論はないよ。冒険者だもん、指名依頼なら受けなきゃ」
「シレイド……ご主人様に従うだけ……ご主人様が戦うなら、シレイドも戦うのみ……」
 俺たちはまっすぐウルス副団長に答えた。
「うむ。恩に着るぞ、レオ、リズ、シレイド」
 キアラが俺たちに頭を下げる。
 ラズベリーは最後まで渋った顔をしていたが、大きく息を吐き、いつもの硬い表情に戻った。
「分かりました……では、レオさんのパーティはこの指名依頼を受けるということで、受理させていただきます。ですが、決して無理はなさらぬように。あくまでも足止めでいいので、危険を感じたら逃げてください」
 ラズベリーは淡々と言った。
 少し怒っているようだ。
 これは、ちゃんと後でフォローしておいた方がいいな。
 今日は、ラズベリーの家に行こう。
「騎士団は遅くとも三週間後には着いているはずだ。三週間後、もう一度ギルドに訪ねてきてほしい」
「承知した。それではそれまでの間、レオたちを借りていくぞ」
 ウルス副団長の言葉にキアラは首肯して答えた。
「では、レオ、リズ、シレイド。ガラテア王国への出立は真夜中の鐘の音から二つ目の音、明朝六時ということで。待ち合わせ場所は町の北門。あまり大荷物は持たなくても構わない。ガラテアでしばらく寝泊まりしてもらう予定だ。生活に必要なものなどはこちらで準備する」
「了解した」
 キアラは俺の言葉に大きくうなずくと、ギルドを出て行った。
「あはは……まさか、深淵探索する前にこんな大きなことになっちゃうなんてね」
 リズが苦笑いしている。
「シレイド……ワクワクしてる……どんな強い魔物が出てくるのか……」
 シレイドは場数を踏んでいるからか、遊園地にでも行く感覚のようだ。
「よし、じゃあ宿に帰ろう。今日は明日に備えて早く休まないとな」
「そうね」
「りょーかい……」
 リズとシレイドが入口に向かう。
 俺は、カウンターにしれっと戻り、ラズベリーに耳打ちする。
「今日の夜、いつものバーで待っている。ちゃんと謝りたい」
 そう告げると、ラズベリーは顔を真っ赤に上気させ、ぷくっと頬を膨らませて呟く。
「……このまま、何もフォローがなかったら、本気で拗ねるところでした……今日は寝かせませんので、そのつもりで……」
 ラズベリーの目は、無理をする俺への憤りと、ちゃんとフォローしてくれたという嬉しさが入り混じった何とも言えない、いじらしい目だった。
 その後、うまく宿を抜け出し、ラズベリーと合流。
 こってり飲まされた後、からからになるまで絞られ(色んな意味で)、何とか許してもらえたのだった。
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