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第3章:エルフの国と優しい女王編

第12話:来訪者と指名依頼

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 リズが新たな武器『ロックバグクロスボウ』を手に入れてから約一週間。
 冒険の方はすこぶる順調だった。
「リズ! そっちに行ったぞ!」
「うん!」
 リズがクロスボウを放ち、ズドンとゴブリン二匹の頭を撃ち抜く。
 俺も襲い掛かってくるゴブリン三匹を瞬時に袈裟斬りにする。
 少し離れたところで、ロッククロウラー二匹と戦っていたシレイドも難なく勝利して、こちらに戻ってくる。
「『エネミーカウント』……うん! オールクリア、全部倒せたわね!」
 リズがスキルを使って、周りにもう敵がいないことを確認する。
「シレイドも怪我はないか?」
「むふー♪ ……問題ない……シレイド、あれくらい余裕」
 俺が頭を撫でながら尋ねると、シレイドが得意げに胸を張る。
 倒した魔物たちから素材を回収して、一息つく。
「森での冒険もかなり慣れてきたな」
「だね。あたしもクロスボウの使い勝手が大分、解ってきたし」
「シレイドはいつも通り……でも、ご主人様もリズも、かなり動きが良くなった……もうしっかり冒険者……」
 俺とリズも手ごたえを感じられている。
 先輩冒険者のシレイドにも褒められた。
「この分なら、この『先』も行けそうだね……」
 リズが森の小道の奥を見つめる。
 段々と数を増やす鬱蒼とした木々が、薄気味悪い仄暗さを醸し出している。
 この辺りは、森の全体像の四分の一ほどの深さの場所である。
 それより先の場所、森の半分あたりからルクシアの森の『深淵』と呼ばれる場所になる。
 魔物はより強くなり、希少な植物や鉱石が見つかることから『ルクシアの深淵を制することができれば、もはや初級冒険者ではない』と言われているようだ。
 同時に、深淵をちゃんと戦うことができれば、その冒険者はルクシアの町を出ていくタイミングだとも言われている。
 もとより、このルクシアの町は初級冒険者の町。
 数多いる冒険者にとって、単なる『最初の壁』に過ぎないのだ。
「深淵をちゃんと戦えれば、俺たちもいよいよ普通冒険者の仲間入りか」
 何とも感慨深い気持ちになる。
 異世界アルティナに来て、どれくらい経っただろうか。
 色々と密度の濃い日々を過ごしてきたから、転生した頃がずいぶんと前のように思える。
「もっとも、シレイドちゃんはもう初級冒険者ではないと思うけどね……あはは」
「ん……? そんなことない……シレイドは今まで悪い奴の警護ばかりしていた……魔物となら何度か戦ったことはあるけど、きちんとダンジョンを冒険するのは初めて……だからシレイドもちゃんと初級冒険者……」
 リズの苦笑交じりの言葉に、首をかしげて答えるシレイド。
「よし。とりあえず、森の浅い部分では問題なく戦うことができるとしっかり確認できたし、そろそろ『深淵』を視野に入れて活動するか。今日はとりあえずこのまま狩りを続けて、早めにギルドに戻ってラズベリーに相談したい」
「そうね。ギルドに所属する限り、大きな行動を起こすときは報告しておいた方が良いわね」
「ん……命は一つだけ、慎重になるのは大事」
 俺の言葉にリズとシレイドが首肯する。
 その後、俺たちは晩飯代わりのサークルピッグを中心に狩って、町に戻ったのだった。

「……なるほど、深淵に、ですか……」
 ギルドに戻り、今日の依頼の完了報告と、森の深淵を冒険したいとラズベリーに相談する。
「駄目か?」
「いえ、駄目というわけではありません。とうとうこの時が来たのだなと少々感慨深くなってしまったのです」
 ラズベリーが表情を少し柔らかくして口許を緩ませる。
「レオさんのパーティは現在ルクシアギルドの中でも、一・二を争うほどの実力だと考えております。パーティ全体の適性やこれまでの功績から見ても深淵での冒険は妥当かと。ただ……」
「ただ?」
 俺が尋ね返すと、ラズベリーが少し固い表情に変わる。
「最近、深淵の魔物が活発化しているとの報告を受けているのです。深淵を中心に活動している実力派冒険者パーティも、ずいぶんと大きな怪我をして帰ってくることが多くなりました」
「受付嬢……心配しすぎ。さっき受付嬢が言った……ご主人様のパーティの実力はギルド内でも高い……ちゃんと忠告は聞く……油断はしない、大丈夫……」
 怪訝な顔をするラズベリーにシレイドが言う。
「で、ですが……その……」
 ラズベリーが俺の方を見つめる。
「し、心配なのです」
 その声色は、受付嬢の時のものではなく、一人の恋人としての発言だった。
「大丈夫だ、ラズベリー。シレイドが言うように油断はしない。必ず無事に帰ってくる」
「そう……ですか」
 俺の言葉に少し安心したように微笑む、が、すぐに咳ばらいをして表情を戻す。
「それでは、明日からレオさんのパーティは深淵で活動するということで記録しておきます」
「ああ、よろしく」
 その場から離れようとした時、突然の大声と共にギルドの扉が勢いよく開けられる。
「頼もう!!」
 あまりにも大きな音だったため、ギルドの掲示板に張りついている冒険者も、酒場でたむろしているおっさんたちも、一斉に入口を見る。
 そこには、白寄りの金の髪のポニーテールの女の子が立っていた。
 俺やリズと同じくらいの年齢だろうか、清涼感のある爽やかな風貌。
 深緑の外套の下は、銀色の軽鎧というどこかの騎士みたいな服装。
 ふとももの絶対領域が眩しい。
 何より目についたのは背中に背負われている身の丈ほどの槍と、長く尖った耳だった。
「……エルフだ」
 冒険者の一人が口に出すと、そこにいた者たちが順に騒ぎ出す。
 エルフの女の子はそんな騒めきも気にせずに、つかつかと受付に向かってくる。
「失礼、取込み中だったか?」
 黄色い宝石のような綺麗な目で俺を見つめる女の子。
「いや、話はもう終わったところだ。用があるなら、話すといい」
「分かった」
 エルフの女の子は、俺の言葉に首肯した後、ラズベリーに話しかける。
「私は、ルクシアの森の深淵からやって来た、エルフの国『ガラテア』の戦士、キアラ・ガラテアという者だ。とある頼みを聴いてもらいたく、このギルドにやって来た」
 堂々と、宣言するように言うキアラ。
 ラズベリーがどうしたものかと対処に困った顔をしていると、奥からがたいの良い男の人がやって来た。
 前に、ラズベリーがルクシアギルドの副団長と言っていた人だ。
「当ギルドの副団長、ウルス・コールダーと申す。今日は依頼の発注ということで相違ないか?」
「ああ、ガラテア王国から正式な依頼だ。ただし、種族の文化上、大勢で来られると困る。確かな実力を持った、信頼に足る少数の冒険者に依頼したい」
 キアラは依頼用紙を三枚、ウルス副団長に差し出す。
「『深淵』の魔物が活発化しているのは知っておるだろう? 本来、エルフは人の手は借りんのだが、今回ばかりはそうも言ってられなくてな。エルフの戦士が、看過できないほど、もう何人もやられている」
「なるほど、それで冒険者ギルドへの指名依頼と言うわけですな。……うむ、深淵での依頼でこの難易度……それなら、いい冒険者がいますぞ」
 ウルス副団長がラズベリーに耳打ちした後、なぜか俺の方を見る。
 ラズベリーは目を丸くして驚きつつ、俺たちに言う。
「れ、レオさん、話は聞いていらっしゃいましたよね? その、本件エルフの国『ガラテア』指名依頼を、ギルドとしてレオさんのパーティに依頼したいと思います」
「「えええええーーーー!?」」
 俺とリズは、思わず大きな声を上げた。
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