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第2章:ルクシアの森と奴隷暗殺者編

第11話:レオの負傷とリズの決意

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 隕石のように大樹から降ってくるロッククロウラーを、リズを抱えながら避ける。
 地面には爆弾でも落ちたような跡がいくつも残っている。
「キシャアアアア!!」
 ドスンドスンとロッククロウラーが降り注いでくる上に、落ちてきたロッククロウラーも再び体を丸めて突進してくる。
「レオ! あたしは大丈夫だから下ろして! このままじゃ、戦えないわよ!」
「そんなわけにいかないだろ……!? 今ここでリズを下ろして、狙われでもしたらリズが大怪我するぞ!!」
「で、でもぉ……」
 困った顔で泣きそうになるリズ。
 グルグルと回転しながらこちらに向かってくるロッククロウラー。
「仕方ない!! とりあえず一撃だ!! 『フレイム』!!」
 右手でリズを抱えているので、剣を振れない。
 俺は左手に魔力を溜めて『フレイム』を浴びせる。
 相手は虫ということもあり、弱点属性らしく、勢いよく燃え上がる。
 だが、全部を倒すことは叶わない。
 炎の中から生き残ったロッククロウラー数匹が身体を丸め、ホッピングしながら突っ込んでくる。
「くそ!! すまん、リズ!! じっとしてろよ!!」
「きゃあああっ!?」
 苦渋の策でリズを後ろの草陰に放り投げる。
 怪我してないといいが。
 俺は、リズがいる草陰をかばうように立って、剣を抜く。
 そして、突進してくるロッククロウラーを斬り弾いていく。

 ガキィン!! ガキィン!! ガキィン!!

 剣の打ち合いのような鋭い金属音が響く。
 避けるわけにはいかない、後ろにはリズがいる。
 俺は、再びフレイムを唱える。

 ゴオオオッ!!

 火柱が立ち上がり、付近のロッククロウラーを巻き込む。
 その時――!!

「キシャアアアア!!」

 殲滅し切ってなかったロッククロウラーが突進してきて、前に出している左腕に直撃する。
 鈍い痛みが腕に走る。
「ぐぅっ!! くそおおおお!!」
 俺は突っ込んできたロッククロウラーの甲殻の隙間に剣を突き入れる!
「キシャアア……」
 致命傷になったようで、ロッククロウラーは、ぐったりと地に伏した。
 もう突っ込んでくる芋虫はいないみたいだ。
 どうやら、全部倒せたらしい。

「レオおおおおぉっ!!」
 左腕を押さえてしゃがみこむ俺に、心配そうに駆け寄ってくるリズ。
「リズ……無事か?」
「うん、うん! でも、レオの腕が!!」
「ははは……大丈夫、とは言えないかな……」
 強がりもできないくらいに痛い。
 周りを見ると二十匹ほどのロッククロウラーの死骸が散乱している。
「あたし、すぐに素材回収してくるから! 今日はもう帰ろう!!」
 有無を言わさず、リズが手早くロッククロウラーの素材を剥ぎ取っていく。
 俺たちは、その後、すぐに町へと帰るのだった。

 リズに肩を抱かれ、ギルドに入る。
 痛みをかばうように、腕を押さえながら進む。
 冒険者にとっては怪我人など珍しくないようで、一瞥して通り過ぎていく。
 その時、受付に座っていたラズベリーが飛び出してきた。
「どうされたんですか!? その腕! 見せてください!」
 いつもの冷静なラズベリーが、なりを潜めて慌てている。
 腕まくりをすると、ロッククロウラーがぶつかった部分が腫れていた。
 リズに貰った打ち身用の薬草を貼っていたが、効きが悪い。
「レオが、あたしをかばって……」
 リズが泣きそうになりながら、説明する。
「そうでしたか。こちらへ、回復魔法をかけます」
 医務室らしきところに通されると、白いひげを蓄えた老人が椅子に座っている。
「ふぉっふぉっふぉ、どうされたのかな?」
「アーロン先生、怪我人です! 回復魔法をお願いします!」
 まくし立てるようにラズベリーが言う。
「落ち着くのじゃ、ラズベリー。見たところ、大した怪我ではない。骨にヒビは入ってそうじゃがの」
 この爺さん、この一瞬で俺の怪我を診察したのか?
「回復魔法をかけるから、そこに座ってくれい」
「は、はい……」
 爺さんが、俺の腕に手を翳す。
 緑色のキラキラした光が腫れた部分を覆うと、痛みが引いていく。
「ほれ、治ったぞ。まだ動かしづらいじゃろうが、二日もすれば元通りになる。ああ……そうじゃ、冒険はしなさんなよ? 治りが悪くなったり、痛みがぶり返したら困るからの。何より、その腕で魔物と戦うのは危険すぎる、ちゃんと治ってから冒険に復帰するのじゃ」
「分かりました。ありがとうございます。お代は?」
「1000G……と言いたいところじゃが、ラズベリーが慌てるという珍しいものも見れたしの。今回はタダということにしておこう」
「「ありがとうございます」」
 俺とリズは頭を下げた。
 ラズベリーは、表情はそのままに咳払いをして、顔を赤らめるのだった。

 宿に戻って、湯浴みをする。
 今日はリズが全て丁寧に拭いてくれた。
 ギルドで受けていた『丸豚の肉五個の納品』はリズとラズベリーが上手く対応してくれて無事に完了した。
「ねえ……」
 食事をとっていると、リズが深刻そうに話し出す。
「奴隷商館……行ってみよう?」
 あまり乗り気でなかったリズが、決心したかのように言う。
「いいのか?」
「うん……シルバーウルフの時も、今日のロッククロウラーとの戦いも、やっぱりレオ一人で戦うのは危なすぎるわよ……。たとえ奴隷でも、ちゃんと戦える仲間を増やした方が良いと思い直したの」
 俺も同じことを考えていた。
 これから先、行動範囲をもっと広げていくとなると、今よりももっと強い魔物や環境が待ち構えているはずだ。
 そうなった時、俺とリズの二人だけじゃ、やはり無理がある。
「ごめんね、あたしが戦えればいいのに、戦えないから、迷惑ばっかりかけちゃって……ほんと、ごめん」
「謝る必要は無いさ。リズは充分よくやってくれてる。得意なことを得意な人がやって、助け合えばいいんだよ。それがパーティだろ?」
「うん」
 俺の言葉に、静かに首肯するリズ。
 リズが戦えないことを気に病んで、余ったお金で色々な武器に挑戦しているのは知っている。
 だが、どの武器も高い適性は出ず、現状は手詰まり状態だ。
「よし、じゃあ明日、早速、奴隷商館に行ってみよう」
「そうだね、先生に休めって言われたし。レオもその腕じゃ満足に戦えないもんね」
 話はまとまり、次の日、俺たちはルクシアの町の奴隷商館を訪れるのだった。

 町の西側にある飲食街を抜け、さらに西に進むと、それはあった。
「ルクシア奴隷商館……ここだな」
「う、うん……」
 思ったよりも豪華な建物だ。
 高級ブランド店みたいだな。
 リズは、気圧されているようで、少し緊張していた。
「あ、あたし、やっぱり、もっとおしゃれな服を着てくればよかったよ」
「いや、服装はこれでいい。俺たちはあくまで一緒に戦ってくれる奴隷を探しに来たんだからな」
 冒険者だということを示すため、俺は騎士のマント、リズは皮の服をあえて着用している。
 扉にはドアマンが立っていた。
「いらっしゃいませ、中へどうぞ」
 中に入ると、豪華な装飾を施された置物がずらりと立ち並び、床全面にはフカフカの絨毯が敷いてある。
「な、なんか、すごいところに来ちゃったな……」
「そ、そうだね……」
 都会に来たばかりの、おのぼりさんのような俺とリズ。
 呆気に取られていると、奥から豪奢な燕尾服を来た壮年の男が歩いてくる。
「いらっしゃいませ、当奴隷商館の館主ローガンと申します」
 鷹の目のような鋭い眼光の館主が、深くお辞儀をした。
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