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第2章:ルクシアの森と奴隷暗殺者編

第6話:黄色蜂蜜【☆】

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 さらに森を散策すると、魔物の団体と遭遇する。
 イエロービー四匹だ。
 ブンブンと木の周りを飛んでいる。
 近くに巣でもあるのだろうか。
 だが、好都合。飛んで火にいる夏の虫だ。
 俺は魔力を込めた手を団体に向けて、呪文を唱える。
「『フレイム』」
 ゴオオオオォッ! 
 激しい炎が立ち上り、瞬く間にイエロービーを飲み込む。
 炎が引くと、地面にイエロービーが散乱している。
 ありがたく素材を回収していく。
 回収する時に確認したが、やはり素材部分には炎の影響は無いようだ。
 詠唱魔法は、素材を傷つけないようにできているのかもしれない。
 最後のイエロービーから剥ぎ取りを行おうとした時、イエロービーの足にベットリとした黄色い液体がついているのが分かった。
 甘い匂いだ。
 黄色い液体をそっと採取用の小瓶に入れ『鑑定』を行う。

名前:黄色蜂蜜
素材ランク:C
説明:イエロービーが花から採取した蜜。希少な素材で、発見できるのは稀。スイーツや上質なカクテルなどに用いられる。

 昨日リズがイエロービーを鑑定した時に『レア素材』の欄に出ていたアイテムだ。
 カクテルなどに用いられるということは、ラズベリーあたりが喜ぶのではないか。
 ふと彼女の顔を思い出す。
 よし。貴重な素材みたいだし『黄色蜂蜜』をあと二つほど回収するか。

 続いての団体はゴブリン二匹とイエロービー二匹。
 リズが出会った当初に言っていた通り、森ではゴブリンが出てくるらしい。
 念のため鑑定をかけてみる。

名前:ゴブリン
危険度:E
説明:全身緑色の小人の魔物。知能が高く、道具を使い、人の言葉を話す。群れで行動し、巣穴には数十匹のゴブリンがいる場合もあるため注意。
素材:『ゴブリンの爪』
レア素材:『ゴブリンの布』

 なるほど、ゴブリンがたまに持っているとリズが言っていた『ゴブリンの布』はレア素材だったのか。
 それをリズが知っていたのは、見かけたことがあり鑑定をしたのか、はたまた、本か噂で伝聞されたのか。
 なんにせよ、今後、入用があれば狙ってみるのもいいかもしれない。
『フレイム』を唱え、難なく倒す。
『ゴブリンの布』は出なかった。

 その後も、イエロービーを狙って、森の中を歩き回り魔物を倒していく。
『フレイム』があるので、戦闘はあって無いようなものだ。
 自分の魔法適性の高さに感謝しながら討伐を行った。
「ふぅ……やっと出たか……」
 イエロービーを二十五匹ほど倒したところで、やっと三つ目の『黄色蜂蜜』が出た。
 確率にして約8分の1。
 レア素材は、やはり相応に手に入りにくいようだ。
 だが、スライムやホーンラビットのレア素材はほぼ確実に手に入っている。
 持っている魔物によってドロップ確率が違うのかは分からないが、『ゴブリンの布』や『黄色蜂蜜』は狙って手に入れるのは、それなりに骨が折れるようだ。

 日がしっかり傾いてきたので、ルクシアの町に戻る。
 ギルドで『黄色蜂の毒針』を証拠素材と提出する。
「今日一日でもう十匹討伐されたのですか。さすが、お早いですね」
 受付嬢ラズベリーが淡々と褒めてくれる。
「こちら報酬金の1500Gです」
「ありがとう。疑問に思ったんだが、討伐依頼で証拠素材として提出する素材を不正した場合、見抜けるのか?」
「といいますと?」
「例えば、依頼を受ける前から何らかの方法で素材を集めて貯めておく。討伐依頼が掲示板に貼られた後、それを受注して貯めていた素材を提出。これで対象を討伐せずとも依頼を達成できるんじゃないか?」
「大丈夫です。素材を確認する時に『いつ』『どこで』『どのように』手に入れたのかを詠唱不要の事務魔法で確認しておりますので。レオさんが述べられたような方法や、素材を誰かから盗んだうえで提出をしたら、すぐに見抜ける仕組みになっております」
 なるほど、討伐依頼を受けるより前の素材や手に入れた経緯は筒抜けというわけか。
 ちゃんと依頼を受けた上で倒さないと承認されないとは。
 この世界は日本みたいにセキュリティが厳しくないのではと思っていたが、案外、魔法で悪いことはしにくいのかもしれないな。
 もちろん、単なる納品依頼なら、貯めている素材を放出しても問題は無いんだろうが。
「今回、換金は致しますか?」
「いや、充分報酬が手に入ったし、今日はやめておこう」
「そ、そうですか」
 何か言いたげな顔をした受付嬢だったが、すぐに表情を戻す。

 俺はギルドを後にして、宿に戻った。
「おや、おかえり! レオ!」
 女将さんが出迎えてくれる。
「ただいま、あの、リズの具合は?」
「だいぶん、良くなってきたみたいさ。明日にはピンピンしてるだろう」
「そうですか、じゃあ……」
「おっと、今は部屋には入らない方が良いさ。リズちゃん、ぐっすり眠っているからね」
 俺が階段を上ろうとすると、女将さんが言う。
「そうですか。じゃあ、夕食は外で食べてきます」
「悪いね。夕食の分は宿代から割引いておくからね」
「いえいえ、リズのこと、お願いします」
 宿を出ると、太陽はもうすっかり沈み、辺りは夜だ。
 この時間なら、もうギルドは閉まっている。
 彼女があそこにいるはずだ。

 町の西側にある酒場に向かう。
 今日はテラス席ではなく、中のカウンターに座っていた。
「ラズベリー」
 俺が声をかけると、さっきまで応対してくれていたクールな受付嬢がパッと振り向き、顔を赤らめる。
 隣の席に座ると、ラズベリーは目を逸らしながら言う。
「き、昨日の今日で、来ていただけるとは思ってませんでした」
 ラズベリーが淡々と言う。
「そんなぶっきらぼうな態度取っちゃって、素直に嬉しいって言えばどうなのよ♪」
 褐色肌のお姉さんが、ラズベリーを小突く。
「お姉さん、こんばんは」
「お姉さんだなんて言わないで、私はミレーユっていうの。この酒場の女店主。キミは……レオくん、よね?」
「ああ。あの、どうして俺の名前を?」
「そりゃあ、ラズベリーに色々聞かされてるからねぇ」
 ミレーユがラズベリーを見ると、顔を真っ赤にして葡萄酒を飲んでいる。
 相変わらず、こちらを見てくれない。
「そうだ。ミレーユ、これで何かカクテルを作れるか?」
 俺は今日手に入れた『黄色蜂蜜』を取り出す。
「そ、それは……!?」
 隣にいるラズベリーの目が輝く。
 やはり、好物のようだ。
 依頼を受けた時も、報酬を受け取る時も妙な反応をしていたから、予想はしていたが。
「もちろん。作れるわよ」
「じゃあ、おすすめのカクテルを二杯。一杯は隣のクールビューティさんに」
「く、くーるびゅ、びゅーてぃ……」
「かしこまりました」
 本人は、かなり戸惑っているが、その反応が見たかったのだ。
 ミレーユはすぐにカクテルを作り、ラズベリーに差し出す。
「蜂蜜のカクテル『ハニーサックル』です。隣の席の方からよ……♪」
 まさか19歳で『あちらの席からです』的なことをすることになるとは思ってもみなかった。
 自分自身、キザだとは思うが、ラズベリーは間違いなく俺に好意を持ってくれている。
 となれば、男としてアタックするしかないのだよ。
 もちろん、ここが元の世界で非モテ童貞の俺なら、こんな勇気は出なかっただろう。
 この異世界に来て、冒険や様々な出会いから自信が育った結果だ。
「はい、おませな冒険者さん。あなたの分の『ハニーサックル』よ」
 一口飲んでみる。
 ハチミツとレモンの甘酸っぱさとラムのコクがたまらない。
 まあ、今日のリズを見て深酒しようとは思わないが。
「……美味しい」
 ラズベリーも目を見開いて、感激している。
「あなた……やっぱりすごいですね」
 こちらを向いて、にっこりと微笑んでくれた。

飲んでいるラズベリー
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