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第2章:ルクシアの森と奴隷暗殺者編

第5話:一人での冒険

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「さてと、じゃあ次はあそこだな……」
 俺は、一言呟いて道具屋を目指す。
 今まで戦っていて、気づいたことがある。
 それは、魔物は団体で出てくることが多い。
 単体魔法である『ファイア』は、あくまでも単体に対する魔法。
 一撃で屠れるとはいえ、一匹一匹に当てていったのでは時間もMPもかかってしまう。
 そこで、全体を対象とする魔法を習得できれば、それらが短縮でき効率もグッと増す。

「いらっしゃい。何かお探しかい?」
 人の良さそうな小太りの店主が話しかけてくる。
「魔物全体を攻撃できるような魔導書はあるか?」
「魔物全体を……お兄さん、ジョブレベルと魔法適性は?」
「冒険者Lv13、魔法適性SSSだ」
「SSSかい……こりゃあたまげた。冒険者レベルも初級魔法の習得なら、まあ問題ねえな。こっちの棚のものが全体魔法だ」
 赤、青、緑、茶、水色、黄色など色とりどりの魔導書が陳列してある。
「うちは、誰でも習得できる初級魔法までしか置いてねえけど、その分、種類は豊富だぜ。お兄さん、詠唱魔法は何を使ってるんだい?」
「今のところ『ファイア』だな」
「なら、火属性の魔法が良いな。使い慣れてるだろうから、勝手が分かるんだ。逆に初めて使う属性なら、まずは単体の初級魔法を買って、ある程度様子見をした方が良い、魔法は使いようによっちゃあ、危険な代物だからな。ほれ」
 そう言って、真っ赤な魔導書を手渡してくる。
 表紙には『フレイム』と書いてあった。
「それは火属性の初級全体魔法『フレイム』だ。値段は7500G」
 予想はしていたがやはり高額だ。
「おじさん、これを買いたいが、手持ちが無い。魔物素材と交換してはくれないか?」
 庶民が魔物素材を手に入れようとすると、どうしてもギルドを通しての発注になる。
 その際、少なからずギルドの取り分である手数料が発生する。
 冒険者は時として素材や採取アイテムなどを用いて、ギルドを通さず直接店などと交渉することがあるのだ。
 それらは、こういう商品の売買においても有効なのである。
 まあ、リズやラズベリーの受け売りだが。

「うーん、そうさなあ……お兄さん、『角兎の皮』持ってるかい? 五十枚くらい。実は家内がおめでた、でよ。子供が生まれた後にお揃いで着れる、おしゃれなウサギのコートでも買ってやろうかと思ってるんだが、高くてな。素材持ち込みのオーダーメイドなら、まだ安く済みそうなんだ」
 なるほど、結構な枚数だ。
 ギルドで正式な依頼を出すとしたら『角兎の皮五十枚の納品』だ。
 発注しても、そんな面倒な依頼を受ける冒険者はルクシアの町には少ないだろう。
 だが、俺は持っている。
「カウンターを借りるぞ」
 俺は、魔法の袋から『角兎の皮』を重ねて置いていく。
 ホーンラビットは、主食にしていることもあり優先的に狩っている。
 このくらいは何ともない。
 俺が、どんどん兎皮を積み上げていくのを、店主はあんぐりした顔で見ていた。
「これで五十枚だ。確かめてくれ」
「た、たまげた……ホントに持ってるんかい…………た、確かに五十枚あるな……じゃあ、物々交換てことでいいか?」
「構わない」
 角兎の皮はギルドで換金すると一つ100G、五十枚なら5000Gだ。
 以前リズと服屋に入った時、兎皮の商品が数多く陳列されていた。
 庶民の間でかなり需要が高いものだと踏んで、保管していたのが役に立った。
『フレイム』の魔導書が7500Gだから2500Gの得だ。
 俺はこうして、難なく全体魔法『フレイム』の魔導書を手に入れたのだった。
 宿に帰り、フレイムの魔導書に目を通す。
 部屋ではリズが寝ているので、食堂で昼食をとりがてらだ。
『ファイア』の時と手順は同じだから、今回はスムーズに読めた。
 魔法を覚えて、町を出て森に向かう。
 今回は試したいことが多い。

 平原で出てくるスライム、ビッグアント、ホーンラビットに『鑑定』を使う。
 頭の中に情報が流れ込んでくる。

名前:スライム
危険度:E
説明:平原などに出てくるゲル状の魔物。スライム種の中では最弱。
素材:『スライムの粘液』
レア素材:『スライムの核』

名前:ビッグアント
危険度:E
説明:大きな蟻の魔物。堅い顎を持っており、噛みつき攻撃をしてくる。
素材:『大蟻の顎』

名前:ホーンラビット
危険度:E
説明:角を持った兎の魔物。真っ白な毛皮や、綺麗な角、淡白な肉はどれも用途が多く、需要も高い。
素材:『角兎の皮』
レア素材:『角兎の肉』

 なるほど、こんな感じか。
 試してみて感じたが『鑑定』を連発しても、たいした疲れを感じない。
 つまりMP消費が著しく低いということだ。
 加えて、魔力を練る必要もなく、連発できる。
 これは便利な魔法だ。
 ホーンラビットは今後も優先的に狩るとしよう。
 素材が二つとも需要が高く、単価も高いからな。
 レア素材は『角兎の肉』となっているが、切り取り方を知っていればほぼ100%で手に入るし。
 平原で遭遇する魔物を倒しながら、森に進んだ。
 今日の目的はイエロービーだ。
 歩いていると、すぐに発見。
 イエロービー二匹と、なんだかボールのように丸っこい豚。
 とりあえず、初めて遭遇する豚を鑑定する。

名前:サークルピッグ
危険度:E
説明:森の浅い場所に生息する豚の魔物。肉は食用として好まれている。
素材:『丸豚の肉』
レア素材:『丸豚の骨』

 なんとも美味そうな魔物だ。
 素材も肉と骨というグルメ尽くしだ。
 目当てのイエロービーがいるので早速『フレイム』を使うことにする。
 魔力を込めた手を対象に向け、呪文を唱える。
「『フレイム』!」

 ゴオオオオッ!!

 地面から炎が立ち上がりイエロービーと丸豚を飲み込む。
 思った通り、単体魔法の時のように狙いを細かく定める必要がない。
『ファイア』よりも疲れる感じはするが、許容範囲内だ。
 地面に伏して動かなくなったイエロービーと丸豚の素材を剥ぎ取っていく。
 イエロービーからは『黄色蜂の毒針』を回収。
 サークルピッグからは『丸豚の肉』と『丸豚の骨』を回収する。
『フレイム』を使ったので丸豚が焼き豚になってしまったのではないかと思ったが、そんなことは無かった。
 骨を剥ぎ取る時に、要領が分からず苦労をしたが、貰った命なので無駄なく余さずありがたく頂かなければと思い、回収した。
 剥ぎ取りなどはいつもリズが行ってくれていたから、いない分ウェイトが大きい。
 そして何より、単純に寂しい。
 やっぱりパーティを組むのは重要だと痛感した。
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