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第2章:ルクシアの森と奴隷暗殺者編

第3話:ラズベリー【☆】

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「お邪魔だったかな?」
「い、いえ。邪魔というわけでは」
 俺の言葉に、受付嬢さんが慌てたように否定する。
 褐色肌のお姉さんが葡萄酒の瓶と、木のコップ二つを持って来てくれた。
 俺とリズは葡萄酒を注ぎ、一口飲む。
 甘い……が、アルコールを強く感じる。
 酒を初めて飲む俺は、あまり飲み過ぎない方が良いだろう。
 この世界じゃ16歳で成人らしいから、いくら飲んでも法律上は問題ないらしいが。
 リズは、何も考えてないようでごくごく飲んでいる。
「そうだ、受付嬢さん」
「今はプライベートです。ラズベリーと呼んで頂いて構いません」
 ピシャリと言われたので、甘んじて受け入れる。
「ラズベリーにいくつか訊きたいことがあるんだ。仕事っぽい内容になっちゃうけどいいか?」
「なんでしょうか」
 顔を赤らめながら、ラズベリーがじっと見つめてくる。
 いつもの鋭い視線ではない、艶めかしい色香に思わず惑わされそうになる。
 いかんいかん、質問しているのはこっちだ。
「ジョブについてだ。今、俺は冒険者のジョブについているが上のジョブに就くにはどうすればいい?」
 前々から思っていた事を訊く。
 ジョブという概念がある以上、強くなるにはこれを利用するのも重要だろう。
 危険度が上の方の魔物と戦うためには適性に頼るだけではなく、ちゃんと経験値を積んで確実な『能力』を身に付ける必要がある。
「冒険者Lvを20まで上げてください。その上でギルドに来ていただければ、初級職の冒険者から下級職にジョブチェンジできます」
「下級職ってことは、もっと上のジョブもあるのか?」
「はい。低い順に初級職、下級職、中級職、上級職、最上級職まであります。上のジョブに就くための必要レベルも段階的に上がっていきます。もっともルクシア地方は魔物が弱い地域。経験値自体も溜まりにくいですから、上の方のジョブを目指すのは骨が折れるでしょうね」
「そうなのか、それだけジョブにも種類があるなら、もっと簡単に上がってもよさそうだが、そうでもないんだな」
「はい。実際ギルドにいる冒険者のほぼ全員が初級職か下級職です。この地域の領主でさえ中級職止まりと聞きます。王都の方に行けば、最上級職の冒険者もお目にかかれるかもしれませんが」
 淡々と、しかし、丁寧に答えてくれるラズベリー。
「なるほど、なんとなく疑問に思っていたんだが、冒険者以外の普通の一般市民、農家や漁師の人のジョブってどうなってるんだ?」
「一般的に『村人』と表示されます。農業や漁業をしてもジョブは変わりません。冒険者にならない者は一生そのままの方も多いです。ジョブを変えたい場合は、ちゃんとした場所でジョブ変更の魔法をかけてもらう必要があります」
「なるほど、例えば?」
「一番簡単なのはギルドを訪れて初級職に就くことですね。その他、騎士団に入り騎士系のジョブに就くか、商会に入り商人系のジョブに就くか、あとは財産と功績を築いた上で、国に申請すれば貴族系のジョブに就くことも可能です。そうそう、罪を犯して捕まれば、問答無用で悪人系のジョブに変更させられますのでご注意ください」
 かなり酔いも回っているはずなのに丁寧で明瞭な説明だ。
 リズは早くも葡萄酒にやられたのか、机に突っ伏している。
「リズ? 大丈夫か?」
「らいじょうぶ、らいじょうぶー。ちょっと、ねむいらけー……ぐー……」
「お酒に弱いみたいですねリズさん」
 ラズベリーが苦笑している。
 初めて、ちゃんと微笑む顔を見た気がする。
 元々クールビューティだが、笑うとギャップがあってすごく良い。
「ん? なにか?」
「いや、初めてラズベリーが笑うのを見たと思ってな。思っていた以上に綺麗でビックリした」
 ラズベリーの問いかけに答えると、ラズベリーが顔を真っ赤にして慌てる。
「な、ななな、なにを馬鹿なことを言ってるんですか……」
 照れ隠しの不機嫌そうな顔も美人だった。

 そうこうしていると、ラズベリーが二本目の葡萄酒の瓶を開ける。
「お酒、好きなんだな」
「ええ。私の唯一の趣味と言っても過言ではありません。友達も少ないですし、恋人ももう長い間いませんし……あっ」
 しまったという顔で俺を見る。
 つい愚痴ってしまったようだ。
「す、すみません。私ったら、気を抜きすぎてしまっているようで」
「いや、構わない。プライベートなんだろ? しかし、ラズベリーほどの美人を放っておくなんて、周りの男たちの目は節穴だな」
「な、ななな、なにを素っ頓狂なことを言ってるんですか……!?」
 今度は少し狙ってみた。
 案の定、慌てふためき顔を伏せるラズベリー。
 嘘はついていない。
 俺から見てもラズベリーは充分魅力的だ。
 酒場のカウンターで作業している褐色肌のお姉さんが、計画通りといった笑みを浮かべているのは放っておこう。
「れ、レオさん……その、そういった発言は気のない女性にするものではないと思いますよ……」
「なら大丈夫だな。俺はラズベリーに気があるから」
 いかんいかん、気が大きくなっている。
 毎日リズとしっぽり過ごしていて、サマンサという美少女ともフィーバーしたら、さすがの俺でも女性に対してある程度免疫はできている。
 俺も酔いが回ってきているらしい。
 そう思い、ふとラズベリーを見ると、沸騰したような顔で俺を見つめる。
 あまりの真剣な形相に、思わず俺もビビる。
「…………い、いま、なんと?」
「い、いや。俺はラズベリーと、もっと親密になれたらいいなと思っているからな」
 ええい、こういうのは勢いだ。
 言ってしまったものは覆せない。
 ちゃんと肯定しておこう。
 リズは、グースカ寝ていることだし。
「そ、そう……ですか……」
 ラズベリーは耐え切れなくなったように俯いてしまった。

 その後、しばらくラズベリーと話すも『……ええ』『……はい』という一言でしか返してくれない。
 このままここにいても、ラズベリーは俯いたままだろう。
 今日のところは退散するとしよう。
「さて、リズも寝ちゃってるし、今日はそろそろ帰るよ」
「は、はい。お気をつけて」
 二人分のお代を机に置き、リズをおぶって、宿に戻ろうとするとラズベリーが少し大きな声で呼び止めてくる。
「あ、あの……!」
「ん? なんだ?」
「私は、たいてい毎日この店で飲んでいます。じ、時間が合えば、また、ご一緒……しま、しょう……」
 消え入りそうな声で、誘ってくれるラズベリー。
 酔いのせいか、照れているのか、その顔は相変わらず赤く火照っている。
「ああ、もちろんだ」
 俺は、快く了承してその場を後にするのだった。

ラズベリー
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