上 下
20 / 220
第1章:病弱青年とある女冒険者編

第20話:決着

しおりを挟む
「ガアアッ!?」
 思わぬ方向から、火球の直撃を受けたシルバーウルフは、怯んだように少しのけぞる。
「逃してたまるか……!!」

 一瞬のチャンス……!!
 俺は魔力を込めた手で、シルバーウルフの喉元を鷲掴みにする。
「焼き切れ……!! 『ファイア』!!」

 ゴオオオオオオオ!!

 最大出力、ありったけの魔力を凝縮した火球をゼロ距離で放つ。

「ガアアアアアアアアアアアア……!!」

 急所への一撃に、シルバーウルフは倒れ、苦しそうにのた打ち回る。
「悪いな……俺『たち』の勝ちだ……!!」
 俺は焼けただれているシルバーウルフの喉を剣で斬り裂いた。

 シルバーウルフが動かなくなる。
 緊張が解けたからか、身体から力が抜け、俺はその場に座り込む。
「死ぬかと……本当に、死ぬかと思った……!!」
 呆然としていると、後ろからリズが飛びついてくる。

「よかったぁああ!! よかったよぉお、レオおおお!!」
 涙で顔をぐしゃぐしゃにさせている。
 俺は、そんなリズを抱きしめる。
「ありがとう、リズ! リズのおかげだ! 本当に助かった……!!」
 感謝の言葉を述べると、リズはグスグスと嗚咽を漏らしながら、俺の胸板に顔を擦り付けた。

 しばらく息を整え、ようやく、俺の身体が言うことを聞き始めた。
 俺にしがみついて泣いていたリズも落ち着いてきた。
「ふう……やっと力が入るようになってきた」
 リズの支えも借りて、弱々しい勢いで立ち上がる。
 情けないことに腰を抜かしていたらしい。
「そういえば、リズ……なんで『ファイア』を使えるんだ?」
 疑問に思っていたことを尋ねる。
「レオが、あの魔導書読み終わった後、こっそり私も読んでみたの……そしたら、レオの時みたいに文字が光って……魔法適性Eだからスライムも倒せないだろうけど、使えるに越したことないかなって……レオの役に少しでも立ちたかったから……」
「偉いな……リズは……」
 リズの頭をそっと撫でた。
 適性が無いからといって投げ出さないリズの姿勢に今回は救われた。

 コロン……。

 そうこうしていると、シルバーウルフの口から水色の玉が出てきた。
「ん? なんだあれ?」
「ホントだ……何だろう……?」
 リズが吐き出された玉を持ち上げた。
「うーん……なんだ、これ? 見たことも聞いたことも無いわね……こんなアイテム……『鑑定』……だめだ、魔法を使っても分からない……」
「どれ、俺にも見せてくれ」
「あ、うん」
 リズから玉を受け取った瞬間――。

 バキイイイイン!!

 玉は粉々になって割れてしまった。
 思わず二人で「ひゃいっ!?」と変な声を上げてしまった。
 顔を見合わせて、苦笑する。
「ま、まあ、割れちゃったものはしょうがないわね……」
「だな……さて、討伐したはいいけど、これから何をすればいいんだ?」
「とりあえず、証拠である素材を剥ぎ取って、ギルドに提出して、依頼達成報告ね」
「分かった。じゃあ、早速剥ぎ取って、一旦、サマンサの家に行こう。そうそう、牛舎で倒した二匹のウルフも忘れずにな」
「うん!」
 俺たちは、ウルフたちから素材を採って、サマンサの家に向かうのだった。

「た、ただいまーぁ……!」
「つ、疲れた……」
 明け方、疲れ果てた俺とリズは倒れ込むようにして、サマンサの家に入る。
「おかえり……って、だ、大丈夫!? 二人ともボロボロだよ!?」
 リズの方は、まだ外傷は無いが、俺の恰好は酷かった。
 なにせ、シルバーウルフに皮の服をズタズタにされたのだから、上半身はほぼ裸だ。
 その上、胸には爪で引っかかれた跡がたくさんある。
 心配そうに見つめるサマンサの肩にポンと手を置く。
「安心しろ、もう大丈夫だ。悪さをするウルフは全部倒してきた」
 その言葉に驚き、涙をポロポロ流しだすサマンサ。
「諦めないでよかったね! サマンサ!」
 リズもサマンサの背中をさする。
「うん……! うん……! ありがとう……!! ホントにありがとう、二人とも……!!」
 しばらく、泣き続けるサマンサを二人で慰めるのだった。

 俺とリズは朝食をとった後、身体を拭き、夕方まで干し草ベッドで爆睡した。
 起床後、依頼達成報告のためにサマンサと一緒にルクシアの町を訪れる。
 俺の皮の服はボロボロになってしまったので、転生した時に着ていた普段着で町を歩く。
 リズとサマンサが笑顔で話しながら、隣を歩いている。
 一仕事終えた後のような、晴れやかな気分だ。
 ギルドの受付に向かうと、受付嬢がいつものクールな表情で、俺たちを出迎えてくれた。
「お久しぶりです。レオさん、リズさん、そしてサマンサ様も……依頼に進展はありましたか?」
「はい、依頼達成報告にきました。ウルフの巣穴を発見、及び、ウルフ六匹とシルバーウルフ一匹を討伐しました。証拠素材の確認をお願いします」
 俺は魔法の袋の中から、採取した『ウルフの毛皮』六枚と、『シルバーウルフの毛皮』と『シルバーウルフの鬣』を取り出して提出する。
「し、シルバーウルフが、へ、平原に……? た、確かに出たのですね……し、しかも、それを倒されたのですか……?」
「はい、倒しました。リズと『二人で』」
 俺の言葉に、遠巻きに見ていた冒険者がざわつく。
『あの平原の王女様が?』とか『あのヘンテコな依頼は本当にウルフの仕業だったのか』とか『たった二人でシルバーウルフを』とか、皆、口々に好きなことを言っている。
 ギルドの奥から、お偉いさんらしき男性も出てきて、素材に目を通す。
 がたいの良い男の人は、受付嬢に首肯したあと、奥に下がっていった。
「確認が取れました。今回は『ウルフの群れの討伐依頼』でしたので、こちらの『ウルフの毛皮』六枚は証拠として回収させていただきます。シルバーウルフの素材はご自由になさってください。それと、一応、巣穴の場所もお教えください。後で、ギルドの調査団を送りたいと思います。そして、こちら依頼主様から討伐報酬の500Gです」
 金貨一枚が差し出される。
 サマンサの方を見るとうんうんと頷いている。
「やったー!! 依頼達成よー、レオーー!!」
「ああ!! よく頑張った、ホントによく頑張った!!」
 俺とリズは互いに互いを讃え合い、抱き合って喜んだ。
 討伐報酬の500G金貨は、今まで稼いだどの金貨より輝いて見えた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...