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嫌な予感ほどよく的中する件
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注意※序盤はサーシャの前世の記憶で残酷な表現があります。
苦手な方は※のある中程まで飛ばしてお読みいただくことをお勧めします。
※※※
前世、私は幼い頃飢えを経験している。
私が生まれて6歳くらいまでは普通の暮らしだったのだが、母は病気を患って他界してから全てが一変した。
父は母の死を受け入れられず、まともに仕事をする事もできなくなり生活保護を受けていた。
私が生まれた後3歳違いの弟が生まれ、子供が2人いたにも関わらずだ。
ついにはお酒に溺れるようになり、生活保護で支給されていたお金はほぼお酒へと姿を変えていた。
当然私と弟は常に飢えていたわけで。
幸い私は小学校に上がっており、弟のために自分の分の給食を食べずにコッソリ持ち帰り、2人で分け飢えを凌いでいた。
弟は保育園にも幼稚園にも入れなかったためだ。
貧乏と虐められても、私は弟のために耐えた。
そんな生活が2年も続いたある日、父が家に帰ってこなくなった。
何日も帰ってこないことなど珍しいことでもないので、私達は気にもとめていなかった。
だが突然知らない大人がやってきて、お父さんは死んだのだと言った。
酔って川に落ち、そのまま溺死したのだそうだ。
その後私達は施設に保護された。
保護当時は栄養失調も酷く、2人して骨と皮だけのガリガリ体型だった。
保護されてから最初に食べたのは、胃に負担のかからない温かなスープだった。
温かい食事など何年も食べてなかった。
私達兄弟は世の中にこんなに美味しいものがあったのだと、泣いて感動したことを覚えている。
きっとそれが私の食の原点。
転生した今現在も、私の根底にあるのは飢えに対する恐怖なのかもしれない。
※※※
昼食ラッシュが終わると、午後のお茶会ラッシュが始まる。
食後にとプリンを作ったのがキッカケだった。
さほど時間もかからないのでもう一品とお出ししたところ、瞬く間に大人気になった。
そして家族にも食べさせたいと皆様から要望をもらい持ち帰り用のプリンを提供したところ、これまた貴婦人、ご令嬢方に絶賛され、爆発的なヒット商品にのし上がったのだ。
王宮勤めの貴族達が仕事に戻った後、この食堂にはプリン目当ての淑女達が集い、あちらこちらで茶会が始まるのである。
亭主の持ち帰り待ちでは、茶会の時間に間に合わないんだって。
「プリン、わたくし初めて食べましたけど、不思議な食感ですのね!
クセになりますわ!」
そうでしょう、そうでしょう?
甘くてプルプルの幸せおやつでしょ?
プリンは簡単なようで難しい料理なのだ。
ゼラチンを使えば割と簡単につくれるのだが、どうにも材料が手に入らなかったのである。
卵の分量が少なくても、加熱の温度が低すぎても、ちゃんと固まらないので要注意だ。
甘さ控えめで、食べるとほんのりバニラビーンズの香りが口の中に広がる。
なめらかプリンは私の自慢の一品で、皆を幸せな気持ちにしてくれる。
あとは豆腐を作ったあまりで出来るおからを使ったクッキーも作る。
おからはモソモソするのであまり好まれない食材なのだか、クッキーにするとなかなか美味しいのだ。
こちらも好評をいただいている。
が、せっかくの茶会ならもう何品か用意したい。
怒涛の昼食後の一息ついた時間に提供するので、二品用意するのがやっとだ。
どうせなら三段トレイの本格的なアフタヌーンティーを用意したい。
いつかチャレンジしてやる!
「えっ!!?」
美しい淑女達が楽しそうにプリンに舌鼓をうつ姿をニヤニヤ眺めていたら、やたらと可愛らしいご令嬢が私を穴が開くほどガン見していた。
知り合い?
いや、そんなはずない。
故郷のヴァルドネルならいざ知らず、この国ではアレクシス様以外王女としての私の顔は知らないはず。
「あ、あの。
サーシャ様……ですよね?」
…………やはり知っているらしい。
もしや私のファンがプロマイドならぬ絵姿を売り歩いている……とか?
「少しお話しさせていただけないでしょうか?」
ふむ、今日はカイルが当番だから大丈夫か。
1人は離宮で待機してないと何かあったとき対応できないので、残ってもらっている。
今日はカイルが一緒に厨房に入ってくれていた。
一応王族だから、護衛はつけないとね!
「それで話って何ですか?」
内密な話だというので、カイルには部屋の外で待機してもらってる。
ここは厨房の裏の控え室だ。
まさかとは思うけど告白?
いやー、可愛いお嬢さんは大好きだが、恋愛は男性とって決めてるんだよなぁ。
モテ期にもほどがある。
「サーシャ様は何故王宮の厨房で料理を作ってらっしゃるのですか?
王太子殿下の婚約者なのですよね?」
ナニヤツ。
何故そんな詳しい情報を知ってるんだ?
密偵か?
「あ!私怪しい者ではないんです!」
怪しい者ほど怪しくないと主張するのはなんでだろう。
というか益々怪しい。
カイルを呼ぶべき?
私が不審がってると、彼女は更に慌てた様子を見せた。
「あ、あの!私転生者なんです!
私、この世界のことをよく知っていて、だからサーシャ様のことも知っていて!」
ん?お仲間とな?
でも待って。
何故転生者でこの世界のこと知ってるの?
嫌な予感がする……。
「あ、あの……。
私も転生者なのだけど、それで何故貴女が私のことを知っているの……?」
お嬢さんはビックリしたように目を見開き、そしてホッとしたように息をついた。
「あぁ、そうなんですね!
この世界って、前世でプレイしていた乙女ゲームに酷似した世界なんですよ。
私ヒロインなんですけど、悪役令嬢に虐められるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたんです。
サーシャ様がいい人そうで良かった!」
………………………………………………………………………………………………うっそーーん。
どうやら私が知らない乙女ゲームだったらしい……。
苦手な方は※のある中程まで飛ばしてお読みいただくことをお勧めします。
※※※
前世、私は幼い頃飢えを経験している。
私が生まれて6歳くらいまでは普通の暮らしだったのだが、母は病気を患って他界してから全てが一変した。
父は母の死を受け入れられず、まともに仕事をする事もできなくなり生活保護を受けていた。
私が生まれた後3歳違いの弟が生まれ、子供が2人いたにも関わらずだ。
ついにはお酒に溺れるようになり、生活保護で支給されていたお金はほぼお酒へと姿を変えていた。
当然私と弟は常に飢えていたわけで。
幸い私は小学校に上がっており、弟のために自分の分の給食を食べずにコッソリ持ち帰り、2人で分け飢えを凌いでいた。
弟は保育園にも幼稚園にも入れなかったためだ。
貧乏と虐められても、私は弟のために耐えた。
そんな生活が2年も続いたある日、父が家に帰ってこなくなった。
何日も帰ってこないことなど珍しいことでもないので、私達は気にもとめていなかった。
だが突然知らない大人がやってきて、お父さんは死んだのだと言った。
酔って川に落ち、そのまま溺死したのだそうだ。
その後私達は施設に保護された。
保護当時は栄養失調も酷く、2人して骨と皮だけのガリガリ体型だった。
保護されてから最初に食べたのは、胃に負担のかからない温かなスープだった。
温かい食事など何年も食べてなかった。
私達兄弟は世の中にこんなに美味しいものがあったのだと、泣いて感動したことを覚えている。
きっとそれが私の食の原点。
転生した今現在も、私の根底にあるのは飢えに対する恐怖なのかもしれない。
※※※
昼食ラッシュが終わると、午後のお茶会ラッシュが始まる。
食後にとプリンを作ったのがキッカケだった。
さほど時間もかからないのでもう一品とお出ししたところ、瞬く間に大人気になった。
そして家族にも食べさせたいと皆様から要望をもらい持ち帰り用のプリンを提供したところ、これまた貴婦人、ご令嬢方に絶賛され、爆発的なヒット商品にのし上がったのだ。
王宮勤めの貴族達が仕事に戻った後、この食堂にはプリン目当ての淑女達が集い、あちらこちらで茶会が始まるのである。
亭主の持ち帰り待ちでは、茶会の時間に間に合わないんだって。
「プリン、わたくし初めて食べましたけど、不思議な食感ですのね!
クセになりますわ!」
そうでしょう、そうでしょう?
甘くてプルプルの幸せおやつでしょ?
プリンは簡単なようで難しい料理なのだ。
ゼラチンを使えば割と簡単につくれるのだが、どうにも材料が手に入らなかったのである。
卵の分量が少なくても、加熱の温度が低すぎても、ちゃんと固まらないので要注意だ。
甘さ控えめで、食べるとほんのりバニラビーンズの香りが口の中に広がる。
なめらかプリンは私の自慢の一品で、皆を幸せな気持ちにしてくれる。
あとは豆腐を作ったあまりで出来るおからを使ったクッキーも作る。
おからはモソモソするのであまり好まれない食材なのだか、クッキーにするとなかなか美味しいのだ。
こちらも好評をいただいている。
が、せっかくの茶会ならもう何品か用意したい。
怒涛の昼食後の一息ついた時間に提供するので、二品用意するのがやっとだ。
どうせなら三段トレイの本格的なアフタヌーンティーを用意したい。
いつかチャレンジしてやる!
「えっ!!?」
美しい淑女達が楽しそうにプリンに舌鼓をうつ姿をニヤニヤ眺めていたら、やたらと可愛らしいご令嬢が私を穴が開くほどガン見していた。
知り合い?
いや、そんなはずない。
故郷のヴァルドネルならいざ知らず、この国ではアレクシス様以外王女としての私の顔は知らないはず。
「あ、あの。
サーシャ様……ですよね?」
…………やはり知っているらしい。
もしや私のファンがプロマイドならぬ絵姿を売り歩いている……とか?
「少しお話しさせていただけないでしょうか?」
ふむ、今日はカイルが当番だから大丈夫か。
1人は離宮で待機してないと何かあったとき対応できないので、残ってもらっている。
今日はカイルが一緒に厨房に入ってくれていた。
一応王族だから、護衛はつけないとね!
「それで話って何ですか?」
内密な話だというので、カイルには部屋の外で待機してもらってる。
ここは厨房の裏の控え室だ。
まさかとは思うけど告白?
いやー、可愛いお嬢さんは大好きだが、恋愛は男性とって決めてるんだよなぁ。
モテ期にもほどがある。
「サーシャ様は何故王宮の厨房で料理を作ってらっしゃるのですか?
王太子殿下の婚約者なのですよね?」
ナニヤツ。
何故そんな詳しい情報を知ってるんだ?
密偵か?
「あ!私怪しい者ではないんです!」
怪しい者ほど怪しくないと主張するのはなんでだろう。
というか益々怪しい。
カイルを呼ぶべき?
私が不審がってると、彼女は更に慌てた様子を見せた。
「あ、あの!私転生者なんです!
私、この世界のことをよく知っていて、だからサーシャ様のことも知っていて!」
ん?お仲間とな?
でも待って。
何故転生者でこの世界のこと知ってるの?
嫌な予感がする……。
「あ、あの……。
私も転生者なのだけど、それで何故貴女が私のことを知っているの……?」
お嬢さんはビックリしたように目を見開き、そしてホッとしたように息をついた。
「あぁ、そうなんですね!
この世界って、前世でプレイしていた乙女ゲームに酷似した世界なんですよ。
私ヒロインなんですけど、悪役令嬢に虐められるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたんです。
サーシャ様がいい人そうで良かった!」
………………………………………………………………………………………………うっそーーん。
どうやら私が知らない乙女ゲームだったらしい……。
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