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第二十一章 望まれない子供
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「相手は貴族の令嬢だったり、どこそこの王国の姫だったりするだろう?」
「うん」
「一般の女性はいない。違うか?」
「そうだけど」
納得しない弟を誤魔化そうと、アスベルは「それより子供の名前知りたくないか?」と子供の話題を振った。
「知りたいっ! アキラの子だもんねっ!」
「ルートヴィッとっていうんだよ、ルーイ」
兄に言われてルーイがきょとんと赤ん坊の顔をみた。
「ルートヴィッヒ? それって」
そんなルーイに暁が無理に取り繕った笑顔をみせる。
「うん。ルーイからもらって兄さんが名付けてくれたんだ。ボクも知ったときは嬉しかったよ。ルーイのことは大事な友達だから」
「兄上が名付けたって。どうして? 名前もなかったの、この子?」
ルーイは不思議そうな顔をしている。
「産まれて間もないんだ。どうしても兄さんに名付けてほしかったから、わざと名付けないま
まここまで戻ってきたんだよ。それでよかったと思ってる。ルーイからいい名前もらったから」
「アキラ」
ルーイは複雑そうな顔をしていた。
それはなにかを悟ったような顔だった。
暁は困り果てて笑う。
笑うしかなかった。
ルーイを友達だと思えばこそ、悲惨な目に遭ったことは言えなくて。
それを悟ったのか、ルーイは急に笑顔になった。
「アキラの子ならぼく可愛がるね!」
「ルーイ」
「アキラ?」
抱きつかれたルーイが驚いた顔になる。
すっかりやつれてしまった暁を受け止めて、ルーイは今更のように思う。友達だから騙されていようと。
こんなにやつれてこんなに弱って、そしてこんなに傷ついた眼をして、それで愛し合って子供を得たなんて言われても、信じられるほどルーイももう幼くない。
でも、友達だから言えないと暁が言うのなら、ルーイは嘘を暴こうとは思わない。
騙されることが望みなら騙されるつもりだった。
なによりも気遣って嘘をついてくる気持ちが理解できないほど、ルーイは愚かではなかった。
暁が傷ついたのなら、ルーイは彼を支えよう。
そう思う。
「なに泣いてるの? おかしいよ、アキラ」
「ルーイ。ありがとう。ルーイが友達でボク、本当によかった」
「ぼくもだよ。もっと頼ってくれていいからね? ぼくは全力でアキラの力になるから。アキラの支えになるからね」
呆気らかんとわざと指摘されて、アキラは泣き笑いの顔になる。
そんなふたりをみてルーイも大人になったなと、ランドールも感慨深かった。
これが自分には真実を言えないという暁の心情を読み取った息子のとった行動だと気付いて
ルーイは用意された嘘を見残った。
見破ったのに騙されたフリをしている。
それはルーイの優しさだ。
そんな息子の成長がランドールには嬉しかった。
そうして翌月。
言われていた通り隆の子が産まれた。
産まれたのはやはり男の子だった。
水無瀬の血筋は男系らしい。
産まれたのは助取りの暁だったし、分家も跡取りの隆だったからだ。
そういえば親戚に女の子って、そんなにいなかったなと透は思う。
女の子だったらどうしようというのは、だれの胸にもあった不安だった。
やはりの男より女の方が、色んな意味で問題は大きい。
なによりもヴァルドに狙われやすい身なのだ。
女の子だったら最悪、ヴァルドに無理に成長させられて犯される、という危惧も捨てられないので、男ならまだ無理に身籠もるような、そういう心配はいらない。
それがわかってホッとした。
透は産まれてきた男の子には隆の名からとって、シエルと名付けた。
タカシのシをとって名付けたのだ。
暁の場合は基準となる友達のルーイという名があったが、隆の場合、こちらに特に親しい人はいない。
面識をもっているといえるのが、ログレスの王子エドワードで、彼の名から各付けるというのは透がやりたくなかった。
罪悪感に苛まれそうだったので。
「うん」
「一般の女性はいない。違うか?」
「そうだけど」
納得しない弟を誤魔化そうと、アスベルは「それより子供の名前知りたくないか?」と子供の話題を振った。
「知りたいっ! アキラの子だもんねっ!」
「ルートヴィッとっていうんだよ、ルーイ」
兄に言われてルーイがきょとんと赤ん坊の顔をみた。
「ルートヴィッヒ? それって」
そんなルーイに暁が無理に取り繕った笑顔をみせる。
「うん。ルーイからもらって兄さんが名付けてくれたんだ。ボクも知ったときは嬉しかったよ。ルーイのことは大事な友達だから」
「兄上が名付けたって。どうして? 名前もなかったの、この子?」
ルーイは不思議そうな顔をしている。
「産まれて間もないんだ。どうしても兄さんに名付けてほしかったから、わざと名付けないま
まここまで戻ってきたんだよ。それでよかったと思ってる。ルーイからいい名前もらったから」
「アキラ」
ルーイは複雑そうな顔をしていた。
それはなにかを悟ったような顔だった。
暁は困り果てて笑う。
笑うしかなかった。
ルーイを友達だと思えばこそ、悲惨な目に遭ったことは言えなくて。
それを悟ったのか、ルーイは急に笑顔になった。
「アキラの子ならぼく可愛がるね!」
「ルーイ」
「アキラ?」
抱きつかれたルーイが驚いた顔になる。
すっかりやつれてしまった暁を受け止めて、ルーイは今更のように思う。友達だから騙されていようと。
こんなにやつれてこんなに弱って、そしてこんなに傷ついた眼をして、それで愛し合って子供を得たなんて言われても、信じられるほどルーイももう幼くない。
でも、友達だから言えないと暁が言うのなら、ルーイは嘘を暴こうとは思わない。
騙されることが望みなら騙されるつもりだった。
なによりも気遣って嘘をついてくる気持ちが理解できないほど、ルーイは愚かではなかった。
暁が傷ついたのなら、ルーイは彼を支えよう。
そう思う。
「なに泣いてるの? おかしいよ、アキラ」
「ルーイ。ありがとう。ルーイが友達でボク、本当によかった」
「ぼくもだよ。もっと頼ってくれていいからね? ぼくは全力でアキラの力になるから。アキラの支えになるからね」
呆気らかんとわざと指摘されて、アキラは泣き笑いの顔になる。
そんなふたりをみてルーイも大人になったなと、ランドールも感慨深かった。
これが自分には真実を言えないという暁の心情を読み取った息子のとった行動だと気付いて
ルーイは用意された嘘を見残った。
見破ったのに騙されたフリをしている。
それはルーイの優しさだ。
そんな息子の成長がランドールには嬉しかった。
そうして翌月。
言われていた通り隆の子が産まれた。
産まれたのはやはり男の子だった。
水無瀬の血筋は男系らしい。
産まれたのは助取りの暁だったし、分家も跡取りの隆だったからだ。
そういえば親戚に女の子って、そんなにいなかったなと透は思う。
女の子だったらどうしようというのは、だれの胸にもあった不安だった。
やはりの男より女の方が、色んな意味で問題は大きい。
なによりもヴァルドに狙われやすい身なのだ。
女の子だったら最悪、ヴァルドに無理に成長させられて犯される、という危惧も捨てられないので、男ならまだ無理に身籠もるような、そういう心配はいらない。
それがわかってホッとした。
透は産まれてきた男の子には隆の名からとって、シエルと名付けた。
タカシのシをとって名付けたのだ。
暁の場合は基準となる友達のルーイという名があったが、隆の場合、こちらに特に親しい人はいない。
面識をもっているといえるのが、ログレスの王子エドワードで、彼の名から各付けるというのは透がやりたくなかった。
罪悪感に苛まれそうだったので。
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