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第二十一章 望まれない子供
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「なに?」
「実はさ、来月、おれにも子供が産まれるんだ」
「隆」
降に子供が産まれると聞いて透は青ざめた。
暁に次いで隆まで?
それはあまりに奇妙すぎた。
これで納得しろと言われても。
「結婚はしないけど子供は引き取るつもり。だから、晩に引き続きで悪いけど、おれの子も名付けてくれないか?」
「降」
ふたりの瞳には傷ついた色が揺れている。
なのにふたりは笑うのだ。
透に心配をかけたくなくて笑うのだ。
透は泣きたくなって俯いた。
「透。そんな顔するなよ。どんな事情があれ、生命の誕生だぞ? 祝わなくてどうする!」
「だって」
「ほら。兄さん。赤ちゃんが泣くよ?」
言われて顔を覗き込めば、場の雰囲気を察したのか、赤ん坊がグズりはじめていた。
「どうしよう。俺、まだ赤ちゃんあやせないよ?」
「ボクもだよ。どうしようか?」
三人でバタバタしていると乳母の女性がやってきて、怒りながら赤ん坊を奪っていった。
それを見送って三人は顔を見合わせる。
「なんか赤ちゃんの世話って大変なんだな」
透がそういえば隆が呆れ顔で言い返してきた。
「お前ランドール王と結婚するんだろ? そういうこと言っててどうするんだ?」
「そんな予定俺にはないよ。誰に聞いたんだ?」
「ボクはヴァルドの元に捕まってるときに聞いたよ。結構有名みたいだよ? その事実。敵味方なく噂されるくらい」
「おれは暁から聞いた」
「ふうん。俺って結構有名人?」
透が惚ける。
ふたりとも苦笑いするしかなかった。
ランドールやアスベルとも相談して、ルートヴィッヒのことは早めにルーイに設明しようということで落ちついた。
やはり同志と自他ともに認める関係だったのだ。
長く隠すのはよくないという判断だったのである。
暁が寝込んでいることも隠したままだし、帰還していなかったことも隠したまま。
このままはやはりよくないだろう。
というわけでルーイは子供の名付けが決まった翌日には暁に引き合わされることとなった。
暁が実は帰っていなかったと知って、ルーイは喜んで逢いにきた。
その場にはマリンを含む主要人物が勢揃いしている。
やはり問題が問題なのでスムーズに運ぶためだ。
「アキラ!」
ルーイが部屋に飛び込んでくるなり、暁の腕に抱きつく。
しがみつかれて暁も嬉しそうな笑顔になった。
「ルーイ」
「今まで何処にいたのっ? 帰っていなかったのなら、どうしてももっと早くに戻ってきてく
れなかったのっ?」
「ごめん。色々と事情があったんだ。飛ばされたところが何処かわからなかったし。結果的にイーグルまで戻ってくるのに一年以上かかっちゃった」
「弱ってるって聞いたよ。平気なの?」
「平気だよ。戻ってくるために無理をしすぎて衰弱してるだけだから、安静にしていればその内治るし」
「よかったぁ」
ホッとしてからルーイは部屋に赤ん坊がいることに気づいた。
きょとんと眺める。
「その子誰?」
「あのね? 話すと長くなるから省くけど、ボクの子なんだ」
「アキラ?」
ルーイがきょとんとしている。
なんて言って誤魔化そうと暁が困っていると、親としてランドールが割って入ってくれた。
「アキラとタカシが飛ばされた先で知り合った少女と恋に落ちたらしくてな」
ランドールの発言にルーイは首を傾げ、兄のアスベルが続いて口を開いた。
「アキラはこちらに戻ってくる直前までその女性と一緒にいたらしい。だが、イーグルにくる直前に出産が原因でその女性とは、それ以上の長旅が不可能になって子供だけを連れて行くことにして別れたらしいんだ」
「ぼくのときみたいに亡くなったの?」
「いや。ちがう。だが、旅を続ければそうなる可能性はあった。ルーイのこともあるだろう? だからアキラはその女性と別れて子供とタカシとその彼女の四人で旅を続けたんだ」
「この人にも彼女がいるの?」
ルーイが隆を振り向く。
そんなに親しい関係ではないのだ、無理もない。
「ああ。今身籠もっている。だが、彼女もタカシが紅の神子の従兄だったとは思わなかったらしくて、子供を産んだら別れたいそうだ。子供はタカシが引き取ると」
「なにか変じゃない?」
「そうか? 事実を言っているだけだが」
「紅の神子の従兄弟が相手なら、普通は喜んで結婚するものじゃないの?」
父親の説明にもルーイは納得しない。
だから、兄としてアスベルが口を挟んだ。
「そういう女性ばかりとは限らないよ、ルーイ」
「兄上?」
「一般の女性なんかだと逆に王家関連だと知ると身を引いてしまう女性も多い。仕方のない話だよ。ついていけないと言われたら、アキラだってタカシだって別れるしかないだろう?」
「ぼく王子だけど普通に結婚は申し込まれるよ?」
「実はさ、来月、おれにも子供が産まれるんだ」
「隆」
降に子供が産まれると聞いて透は青ざめた。
暁に次いで隆まで?
それはあまりに奇妙すぎた。
これで納得しろと言われても。
「結婚はしないけど子供は引き取るつもり。だから、晩に引き続きで悪いけど、おれの子も名付けてくれないか?」
「降」
ふたりの瞳には傷ついた色が揺れている。
なのにふたりは笑うのだ。
透に心配をかけたくなくて笑うのだ。
透は泣きたくなって俯いた。
「透。そんな顔するなよ。どんな事情があれ、生命の誕生だぞ? 祝わなくてどうする!」
「だって」
「ほら。兄さん。赤ちゃんが泣くよ?」
言われて顔を覗き込めば、場の雰囲気を察したのか、赤ん坊がグズりはじめていた。
「どうしよう。俺、まだ赤ちゃんあやせないよ?」
「ボクもだよ。どうしようか?」
三人でバタバタしていると乳母の女性がやってきて、怒りながら赤ん坊を奪っていった。
それを見送って三人は顔を見合わせる。
「なんか赤ちゃんの世話って大変なんだな」
透がそういえば隆が呆れ顔で言い返してきた。
「お前ランドール王と結婚するんだろ? そういうこと言っててどうするんだ?」
「そんな予定俺にはないよ。誰に聞いたんだ?」
「ボクはヴァルドの元に捕まってるときに聞いたよ。結構有名みたいだよ? その事実。敵味方なく噂されるくらい」
「おれは暁から聞いた」
「ふうん。俺って結構有名人?」
透が惚ける。
ふたりとも苦笑いするしかなかった。
ランドールやアスベルとも相談して、ルートヴィッヒのことは早めにルーイに設明しようということで落ちついた。
やはり同志と自他ともに認める関係だったのだ。
長く隠すのはよくないという判断だったのである。
暁が寝込んでいることも隠したままだし、帰還していなかったことも隠したまま。
このままはやはりよくないだろう。
というわけでルーイは子供の名付けが決まった翌日には暁に引き合わされることとなった。
暁が実は帰っていなかったと知って、ルーイは喜んで逢いにきた。
その場にはマリンを含む主要人物が勢揃いしている。
やはり問題が問題なのでスムーズに運ぶためだ。
「アキラ!」
ルーイが部屋に飛び込んでくるなり、暁の腕に抱きつく。
しがみつかれて暁も嬉しそうな笑顔になった。
「ルーイ」
「今まで何処にいたのっ? 帰っていなかったのなら、どうしてももっと早くに戻ってきてく
れなかったのっ?」
「ごめん。色々と事情があったんだ。飛ばされたところが何処かわからなかったし。結果的にイーグルまで戻ってくるのに一年以上かかっちゃった」
「弱ってるって聞いたよ。平気なの?」
「平気だよ。戻ってくるために無理をしすぎて衰弱してるだけだから、安静にしていればその内治るし」
「よかったぁ」
ホッとしてからルーイは部屋に赤ん坊がいることに気づいた。
きょとんと眺める。
「その子誰?」
「あのね? 話すと長くなるから省くけど、ボクの子なんだ」
「アキラ?」
ルーイがきょとんとしている。
なんて言って誤魔化そうと暁が困っていると、親としてランドールが割って入ってくれた。
「アキラとタカシが飛ばされた先で知り合った少女と恋に落ちたらしくてな」
ランドールの発言にルーイは首を傾げ、兄のアスベルが続いて口を開いた。
「アキラはこちらに戻ってくる直前までその女性と一緒にいたらしい。だが、イーグルにくる直前に出産が原因でその女性とは、それ以上の長旅が不可能になって子供だけを連れて行くことにして別れたらしいんだ」
「ぼくのときみたいに亡くなったの?」
「いや。ちがう。だが、旅を続ければそうなる可能性はあった。ルーイのこともあるだろう? だからアキラはその女性と別れて子供とタカシとその彼女の四人で旅を続けたんだ」
「この人にも彼女がいるの?」
ルーイが隆を振り向く。
そんなに親しい関係ではないのだ、無理もない。
「ああ。今身籠もっている。だが、彼女もタカシが紅の神子の従兄だったとは思わなかったらしくて、子供を産んだら別れたいそうだ。子供はタカシが引き取ると」
「なにか変じゃない?」
「そうか? 事実を言っているだけだが」
「紅の神子の従兄弟が相手なら、普通は喜んで結婚するものじゃないの?」
父親の説明にもルーイは納得しない。
だから、兄としてアスベルが口を挟んだ。
「そういう女性ばかりとは限らないよ、ルーイ」
「兄上?」
「一般の女性なんかだと逆に王家関連だと知ると身を引いてしまう女性も多い。仕方のない話だよ。ついていけないと言われたら、アキラだってタカシだって別れるしかないだろう?」
「ぼく王子だけど普通に結婚は申し込まれるよ?」
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