紅の神子

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第二十一章 望まれない子供

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第二十一章 望まれない子供




 透は決心して暁の子供の顔を見にきていた。

 男の子だと聞いているが、言われてみれば暁の小さい頃に似ているかもしれない。

 目元とか口許とかそっくりだ。

 透は詳しい事情を知らされていない。

 でも、おそらく父親である暁にも名も顔も知らない母親にも望まれなかった子供。

 その境遇が幼い頃の自分と重なる。

 幼い頃、まだ孤児院にいた頃は透は自分は両親に望まれなかった子供だと思い込んでいた。

 でも、捨てられた子供でも、後ろ向きに考えたくなくて、必死になって前向きになろうと自分に言い聞かせていた。

 例え両親にとっていらない子でも、自分は生きている。だから、自分を卑下するのはやめよう。

 透はそう考えていた。

 水無瀬の両親に引き取られて愛されて幸せだった。

 でも、両親にはすぐに実の子である暁が産まれたのだ。

 今度もいらないと言われるのではないか。そんな不安が透にはあった。

 でも、両親は透を可愛がってくれた。

 実の子の晩とも同じ待遇で接してくれた。

 そして異世界へと連れ戻されて対面した母は、透を、トールを愛してくれていて望んでくれ
ていた。

 それだけで救われたような気がしたものだ。

 なのにこの子は望まれずに産まれてきた。

 望まれずに産まれてきたのに、暁は見捨てようとはしていない。
 
 まだ十四歳なのに自分で育てていこうと決意している。

「そろそろ名前、名付けないとね。どんな名前がいいかな?」

 プニプニした頬に触れる。

 オギャーと泣かれて慌てているとランドールが入ってきた。

「なんだ。泣かせているのか?」

「どうしよう。泣き止まないんだけど」

「どれ」

 ランドールが手慣れた様子で抱き上げると、グズッていた子供が泣き止んだ。

「すごい。慣れてる~」

「まあふたりの子を育ててきたからな。抱いてみるか?」

「う~ん。なんか怖い。平気?」

「首とお尻の辺りだな。そこに注意して抱けば平気だ。ほら。こうして」

 ランドールが手慣れた様子で抱かせてくれる。

 初めて抱いたときは混乱していたし夢中だったから、じっくり感じている暇なんてなかった。

 暁の子なんだなあとしみじみ思う。

「なんて名前がいいと思う?」

「そなたに名付けてくれと言っていただろう? わたしに相談されても」

「だってこっちの世界の名付けの法則わからないし。地球の法則でっていうか日本人として名付けると、透みたいに発管できない名前になるかもしれないし」

「こちらの名付けの法則、か。そうだな。男なら前例をあげればアスベルとかルーイとかか」

「思いつかない」

 でも、ルーイは暁の友達だったはずだ。

 すごく仲が良かった。

 同志って感じで。

 ルーイという名前から連想される地球の各前。

 ルートヴィッヒ?

「ルートヴィッヒはどうかな?」

「ルートヴィッヒ? 立派な名だな。神子が名付けるに相応しい。しかしその名だと。愛称は
ルーイになるんじゃないのか?」

「だってルーイの名前から連想できる地球の名前を想像したら浮かんできたから」

「なんだ。ルーイからとったのか」

「だってルーイは暁の友達だから、暁も喜んでくれるかなって」

「そうだな。正直なところ、ルーイにどう説明すれぱいいのか悩んでいるんだが」

「まだ言ってないの? 暁に子供ができたこと」

「なんだが言いにくくて。こちらの常識ではおかしくないと思うだろうが、それでも衝撃は受けそうでな。特にルーイはアキラは帰ったと思っていただろうから、知らない間に子が産まれていたという現実を受け止められるかどうかが気になって」

 帰ったはずが帰っていなくて、兄のところにも帰らずに子供を作る。

 さすがに幼いルーイだって疑問に思うだろう。

 ランドールが打ち明けられないのも無理はない。

 本音を言えばトールだって納得していないのだから。

「この子はどうなるんだ、ランドール?」

「一応わたしとしてはそなたの義理の弟の子だ。こちらで世話をしてもいいと思っている。ア
キラにもタカシにも行く宛はないだろうし、子供を抱えていてはおそらく元の世界にも戻れま
い。だから、わたしが世話をしてもいいんだが」

「ふたりはなんて言ってるの?」

「一方的な世話にはなりたくないそうだ。もしそうするしか方法がなくても、将来的でもいい
から、なにかこのイーグル城でできる仕事を探したい、と」

「そう」

「そういわれても困るんだがな。正直に言えば」

「どうして?」

 不思議そうに問うとランドールは呆れた顔をした。

「そなたの義理の弟と従兄だぞ? 紅の神子の弟と従兄だぞ? 普通に雇えると思うか?」

 そこまで言ってランドールはため息をつく。

「男として一方的な世話にはなれないという、ふたりの志は立派だが、正直なところ対処に困ってる」
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