紅の神子

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第二十章 賢者マーリーン

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 その両耳に真紅のピアスが現れる。

 マリンが驚いてそれに触れた。

 確かに指先に触れる。

 ピアスの感触が。

「フィオリナ様」

「わたしの血で作ったピアスよ。これであなたの力はこれまでよりも増したはず。今までのあなたなら及ばなかったここでも今ならなんとかなるはずよ」

「ありがとうございます」

「だから、自分を大事になさい。あなたはトールのために無茶をしすぎます」

「肝に銘じます。では失礼します。フィオリナ様。結界の件、よろしくお願いします」

 確かにマリンはそういった。

 姿が消えてからもフィオリナは不安だった。

 マリンはトールのために無茶をしすぎる。

 あの子は知らずにマリンに名を与えた。

 神々にとって名を与えるということが、どういうことか知らないままに名付けたのだ。

 マリン、という名を。

 それは主人に生涯仕えることを許されるという証。

 マリンはどれほど喜んだだろう。

 だから、彼はトールのために無茶する。

 フィオリナは心で何度も祈っていた。




「ふう。胸が悪くなるような感じだね。長居したくないな」

 透を追って現れた場所に出現すると、マリンは気を解放した。

 危険だがあの場を再現して探る以外に姿も気も知らない相手は探せない。

 マリンの脳裏に次々とあのときに起こったことが再現されていく。

「あの子、かな。南にひとり、北にひとり、東にひとり、西にひとり、か。見事にバラバラに
逃げてくれたね。これじゃ長居したくないとも言っていられないよ」

 トホホな気分だった。

 全方角に散らばって逃げているのだ。

 当然だがすべての方角を一度には追えない。

 比較的、近くにいる相手から捜すしかないだろう。

 しかも相手は追われて逃げているわけだから、極力見つかりにくくしているわけで。

 長期間になる、ということだ。

「まずは西」

 呟いてマリンは転移した。

 現れたのはどこかの森の中だった。

 魔族たちの気配が濃い。

 ヴァルドの手下は獣人たちらしいから好都合ということだ。

 暫く気配を自分で追い追い詰められているらしい場面に遭遇した。

「おまえ、それ以上逃げれば喰うぞ? それとも射殺されるほかがいいか? どうせ候補は後
三人いる。おまえひとりくらい殺したところで」

「いた。こないで!」

 彼女の身体から確かに隆と同じ血の気配を感じる。

 間違いなさそうだ。

「そこまでにしてもらおうか」

「誰だ!」

 獣人が振り向いた。

 威嚇するその様子にマリンが不敵な笑みをみせる。

「ぼくを知らないなんて下っぱだね」
「偉ぞうな小僧だ。おまえから喰うぞっ!」

「とてもぼくの相手は務まらないな。逃げれば?」

「なんだと?」

「ホントに三下だね。神と人間の区別もつかないの?」
「な」

 マリンが力を解放する。

 ほんの少し衝撃波をぶつけるつもりだった。

 だが、獣人は姿形も残さず粉砕されてしまった。

 あまりの威力に力を放ったマリンもポカンとする。

 助けられた相手は逆にマリンの力をみて怯えたようだった。

 身を縮めてしている。

 ハッと我に返る。

「これがフィオリナ様の方」
 
 呟きながら近づいた。

「大丈夫? 助けにきたよ」

「あなたは」

「賢者マーリーン。そういえばわかる?」

「賢者マーリーン様? あの神子様に仕えるために古代から生きているとされている伝説の?」

「そうだよ。神子のご命令できみを助けにきたんだ。立てるかい?」

 言って手を差し出すと相手はマリンの気配が、あまりに澄んでいたからか神だと認めてくれ
たらしく黙って手をとった。

 立ち上がらぜて微笑みかける。

「辛い目に遭ったね。きみは今からイーグル王が保護するから」

「イーグル王様が?」

 信じられないと見開かれる瞳にマリンは微笑む。

「きみは子とヴァルドの戦いに巻き込まれた形になったんだ。袖子は邪神ヴァルドを退治できる唯一の御方。それだけに狙われる身だ。巻き込んでごめんね?」

「じゃああのふたり。いえ、あのおふたりは神子様の知人?」

「うん。まあそんなところ。
、御子にとってはとても大事な人たちだったんだ。そのために
利用された。防げなかったのはぼくの落ち度だよ」

 ふたりが誘拐され監禁されたのは、自分の落ち度だとマリンは知っていた。

 せめて透が力を覚醒させ、ふたりを透自身の力で帰還させられるまで待てばよかった。

 安全性を優先するあまり、危険な方を選んでしまった。
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