弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

文字の大きさ
上 下
139 / 140
第十八章 至上の座を継ぐもの

(1)

しおりを挟む
第十八章 至上の座を継ぐもの



「なあ、亜樹?」

 寝台でふたり並んで座っていると、肩を抱いていた一樹が、不意に名を呼んだ。

 時刻はそろ真夜中。

 本来なら真っ暗なのだが亜樹が言ったように、世界に夜は訪れなかった。

 世界中がパニックを引き起こしているところだろう。

 リオネスはどんな力を使ったのかは知らないが、現状の理由を兄たちに知らせると言っていた。

 夜が訪れない意味も、自分がエルダの後継で不老不死となる身であることも。

 彼は強い。

 打ち明けられたときはいやそうな顔をしていたけど、後はずっと平静を保っていた。

 今はエルダから色々と講義を受けているようだった。

 後継と認めたとして色々な知識を教えられているようなのだ。

 エルダも薄々リオネスが自分の後を継ぐ者だとわかっていたらしい。

「なに、一樹?」

「ここには他に誰もいないから、本当のことを打ち明けてくれないか?」

「‥‥‥」

「昼間はわざと問わなかったんだ。リオネスもエルダもアレスもいたからさ。でも、おれは無関係じゃない。そうだろ? 散々言ってたもんな。おれを巻き込んだって。おれには説明を受ける権利があると思うけど?」

 静かな口調だった。

 言われて亜樹はすこし首を傾ける。それから彼に凭れ掛かる。

「あのさぁ、一樹がもし普通の人間でいきなり水神マルスになれって言われたらどう思ってた?」

「それに答えろって? 悪い。ちょっと無理だ」

「なんで?」

「そもそもおれは生まれる前から水神マルスだし、普通の人間だったころも確かにあるけど、記憶が戻ったときには受け入れていたから、人間の立場っていうのが理解不能なんだ。悪い」

 苦い言い訳で例えが悪かったことに気づいた。

 確かにそうだ。

 彼にはこんな例えを出しても意味がない。

「じゃあ地球に例えて言わせてもらうけど、ずっと一般人だと思っていたのに、実は外国の皇太子だったとか、あるいは普通の高校生をやっているときに、いきなり外国の女王に夫にたりしたら?」

「なんか無茶苦茶な例えだな。結局はそれまでは平民なのに、急にトップに立ったら
って意味か?」

「うん。それとトップに立つ者に見初められた場合」

 確か言葉の意味は知らないけど、亜樹は至上の座を継ぐ者だと言っていた。

 至上の座っていうのが、現実にどういう意味かはわからないけど、なにかの頂点に立ってることは想像できる。

 だって言葉の意味をそのまま信じると最高の地位を意味するわけだから。

 言い換えるとその至上の座を継ぐ者の伴侶に選ばれたらどう思うかって亜樹はそう訊きたいのか?

 つまりその答えを恐れてる?

「そうだなぁ。時と場合によるけど‥‥‥見初めた相手が亜樹だったら喜ぶんじゃないか?」

「冗談で答えるなよ、オレは真剣に訊いてるのに」

 拗ねる亜樹に小さく笑った。

「本音だけど?」

「‥‥‥」

「他の誰かは嫌だって。亜樹以外は。外国だろうと日本だろうと構わないけど最高の地位を持つ者が、おれを気に入ったからって言われても、それが亜樹じゃなかったら断ってるよ。万がー、おれがそういうトップに立つ立場で、亜樹が一般人だったら戻るのを断るし、それは言わなくてもわかるだろ? おれは散々、水神マルスには戻らないって言ったんだから」

 肩を抱く力を強くすると、亜樹はやるせないため息をついた。

「異世界で転生したか薄々、一樹も勘付いているだろうけどさ。世界はひとつじゃないんだ」

「パラレルワールドとか、そういうやつ?」

「なんでもありって意味かな?
異世界もあれば異次元もある。そういう意味。世界の無数にあって、そのすべての世界を続べている高次元の世界が、たったひとつだけあるんだ」

「高次元の世界?」

「大抵はその次元に住む者が、色んな世界で、司、つまりその世界での支柱となる役目を引き受ける。セシルはその次元に存在していたんだ」

「生きていたの間違いじゃないのか?」

 言葉の意味を訂正すると、亜樹はかぶりを振った。

 そういえばセシルには魂はないと言っていた。

 つまり生きているという表現は当て嵌まらない?

「この世界に存在していたんだよ。生きていたわけじゃない。世界の意味が違いすぎるから。その世界でのセシルは言ってみれば世継ぎだったんだ」

「世継ぎ」

「最高の地位を継ぐことが約束されていた。というか望まれていたんだ。セシルはそれを嫌ってたけど。セシルはその世界での希望そのもので、正直なところかなり辛かったんだと思う。だってその世界で頂点に立つってことは、すべての世界を統べることでもあるから」

「なんかスケールがでかすぎて想像できない」

 悪いけど本音だった。

 あまりにもスケールが大きすぎて、想像できる範晴を越えている。

 亜樹は笑ったようだった。肩が微かに震えている。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕! ※、のところはご注意を。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

処理中です...