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第十七章 光の神子
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「亜樹」
「ただ記憶を取り戻したからわかることだけど、オレあの条件、守れない」
「?」
「生命に換えても世界救済はするってやつだよ。そもそもオレが死んだら、世界は減ぶんだから、死ぬこと自体、まずいんだ。なんであんな条件出したんだろ」
「今は世界を救済する方法がわかってるって意味か、それは?」
「基本的には神々の概念を変えるところからやらないと無理だね」
この言葉にはエルダも反応した。
じっと亜樹を凝視する。
「エルダに関しては世代交代してもらう必要がある。というか必要不可欠だよ」
「何故だ?」
口を挟んできたエルダを、亜樹がゆっくり振り向いた。
「エルダの後継は一樹と同じ存在だからだよ」
「おれと?」
「つまりエルダの後継が後を継げば、真の風神になれるってこと。つまり世代交代もな
い真の神にね」
「でも、力を受け継げば消滅するはずだろ? 一体どうやって?」
「まあそれはおいおいにね。まずひとつひとつ片付けていかないと。今は目の前の水不足を解決するのが先決かな」
リオネスにはその前にもっと大事な問題があるような気がした。
「水不足も大事だけど、世界がずっと真昼っていうのも困るんじゃないの? 亜樹とセシルの会話を信じると、世界をしばらく夜が訪れないんでしょ?」
「それは今のオレに言われても、どうにもできない。頑張ってはみたけど、結果はみんな知ってるだろ?」
「うーん。じゃあやっぱりあれ、亜樹のせいだったんだ? なんで亜樹は外見が変わると世界の時間が変わるわけ?」
「それは」
しばらく答えようかどうしようか悩んだけど、ここまで聞かれた以上、ごまかせないと判断した。
「オレが、セシルが光と闇の均衡を保つ存在だからだよ」
「光と闇の均衡」
「セシルの本来の姿は今のオレの姿なんだ。これはセシルが掛けていた封印が解けて、本来の姿に戻ってるんだよ」
「それとさっきの現象がどう繋がるんだ、亜樹?」
「つまりこの姿は光の象徴。そして封印している状態が闇を意味するわけ」
しばらく考え込んてリオネスはゆっくりと確認を取ってみた。
「つまり封印していない状態だと、光しかないから時間が変わらないってこと?」
「そういうこと」
「さっき亜樹はセシルは人でも神でもないって言ったけど、おれには光と闇を統べる神って気がするな」
「一樹の感想が外れてるとは言わないけどね。この世界でそういうことができるのは、どこを探してもセシルひとりだし。できるから神だと言われれば否定はできないから」
亜樹はセシルほどには秘密主義ではなかった。
言える範囲のことは素直に言ってくれるエルダはすこし不思議な気分だった。
記憶が戻っただけでまるで別人に見える。
「リオン」
不意に亜樹に名を呼ばれ、リオネスは小首を傾げた。
視線だけで問いかける。
「悪いんだけど覚悟をしてくれる?」
「賞悟ってなんの?」
「なんにも知らされないことが幸せだとはオレには思えないし、避けられない運命でも受け入れるために、すこしでも早く事実は知っているほうがいいとも思うから。だから、敢えて今いうよ」
「リオネスはエルダの後継者だから、だから、覚悟をしてほしい」
「ボクがエルダの後継?」
きょとんとしたリオネスに、亜樹は苦い表情で頷いた。
「さっきオレは言ったよな?
エルダの後継には世代交代がありえないって。その意味わかる、リオン?」
「もしかしてボクも一樹みたいに不老不死ってこと?」
さすがにリオネスはいやそうな顔をしていた。
まあ無理もないが。
「神々の概念を変えるって基本的にそういう意味なんだよ」
「え?」
「どういう意味だ、亜樹?」
「だからね。この世界が神によって均衡が保たれている以上、世代交代なんてものがあるほうが困るんだ。だって世代交代が起きる度に、世界は崩壊の危機を迎える結果になるから。その度にオレが凌ぐようでは意味がない。それに」
「それに?」
問いかける一樹を亜樹は悲しそうに見上げた。
「オレがすっとこの世界にいられるとも限らないから。
オレが手を出せなくなったら、そのときに神々に凌いでもらえるように本来の姿に戻ってもらわないと困るんだ」
「なんでいなくなるかもしれないって思うんだ?」
「いなくなるなんて思いたくないし、記憶が戻った今ずっと守ってきた世界だから、セシルが言ってたみたいに愛着もあるんだ。だから、そんな事態になってほしくないと思ってる。でも、世の中には絶対ってことはありえないからさ」
「だから、なんでそうなるかもしれないって思うんだ?」
「もしこの世界を救うために、オレが怪我をするとか、そういう事態になったら、たぶん」
一樹はちょっと考えた。
確かにセシルもそうだった。
絶対に怪我なんてしないように、病気にもならないように。
常に意識していた。
まあ基本的にそういうものはセシルを避けたけど、それでもなお用心している。
そんな印象を受けた。
つまりそれはこの世界からいなくなりたくなかったから?
さっきの会話を信じるなら、どこか知らないが、連れ戻されたくなかったから?
セシルの言ったことを信じると、かすり傷を負っただけで亜樹は連れ戻されるって言ってたけど。
「で。いなくなってから亜樹はどこへ行くんだ?」
「何処って」
「いなくなるってことはどこかに行くってことだろ?」
なんだか苛められてる気がする。
「一樹の知らないところ!」
セシルに喧嘩するなと言われたのに、もう反発してる。
ほんと。
自分でも思うけど素直じゃないな。
「おまえさあ。変に突っかかるなよ。まあ苛めたのは悪かったけど」
頭を撫でられて亜樹はちょっと照れくさかった。
「ただ記憶を取り戻したからわかることだけど、オレあの条件、守れない」
「?」
「生命に換えても世界救済はするってやつだよ。そもそもオレが死んだら、世界は減ぶんだから、死ぬこと自体、まずいんだ。なんであんな条件出したんだろ」
「今は世界を救済する方法がわかってるって意味か、それは?」
「基本的には神々の概念を変えるところからやらないと無理だね」
この言葉にはエルダも反応した。
じっと亜樹を凝視する。
「エルダに関しては世代交代してもらう必要がある。というか必要不可欠だよ」
「何故だ?」
口を挟んできたエルダを、亜樹がゆっくり振り向いた。
「エルダの後継は一樹と同じ存在だからだよ」
「おれと?」
「つまりエルダの後継が後を継げば、真の風神になれるってこと。つまり世代交代もな
い真の神にね」
「でも、力を受け継げば消滅するはずだろ? 一体どうやって?」
「まあそれはおいおいにね。まずひとつひとつ片付けていかないと。今は目の前の水不足を解決するのが先決かな」
リオネスにはその前にもっと大事な問題があるような気がした。
「水不足も大事だけど、世界がずっと真昼っていうのも困るんじゃないの? 亜樹とセシルの会話を信じると、世界をしばらく夜が訪れないんでしょ?」
「それは今のオレに言われても、どうにもできない。頑張ってはみたけど、結果はみんな知ってるだろ?」
「うーん。じゃあやっぱりあれ、亜樹のせいだったんだ? なんで亜樹は外見が変わると世界の時間が変わるわけ?」
「それは」
しばらく答えようかどうしようか悩んだけど、ここまで聞かれた以上、ごまかせないと判断した。
「オレが、セシルが光と闇の均衡を保つ存在だからだよ」
「光と闇の均衡」
「セシルの本来の姿は今のオレの姿なんだ。これはセシルが掛けていた封印が解けて、本来の姿に戻ってるんだよ」
「それとさっきの現象がどう繋がるんだ、亜樹?」
「つまりこの姿は光の象徴。そして封印している状態が闇を意味するわけ」
しばらく考え込んてリオネスはゆっくりと確認を取ってみた。
「つまり封印していない状態だと、光しかないから時間が変わらないってこと?」
「そういうこと」
「さっき亜樹はセシルは人でも神でもないって言ったけど、おれには光と闇を統べる神って気がするな」
「一樹の感想が外れてるとは言わないけどね。この世界でそういうことができるのは、どこを探してもセシルひとりだし。できるから神だと言われれば否定はできないから」
亜樹はセシルほどには秘密主義ではなかった。
言える範囲のことは素直に言ってくれるエルダはすこし不思議な気分だった。
記憶が戻っただけでまるで別人に見える。
「リオン」
不意に亜樹に名を呼ばれ、リオネスは小首を傾げた。
視線だけで問いかける。
「悪いんだけど覚悟をしてくれる?」
「賞悟ってなんの?」
「なんにも知らされないことが幸せだとはオレには思えないし、避けられない運命でも受け入れるために、すこしでも早く事実は知っているほうがいいとも思うから。だから、敢えて今いうよ」
「リオネスはエルダの後継者だから、だから、覚悟をしてほしい」
「ボクがエルダの後継?」
きょとんとしたリオネスに、亜樹は苦い表情で頷いた。
「さっきオレは言ったよな?
エルダの後継には世代交代がありえないって。その意味わかる、リオン?」
「もしかしてボクも一樹みたいに不老不死ってこと?」
さすがにリオネスはいやそうな顔をしていた。
まあ無理もないが。
「神々の概念を変えるって基本的にそういう意味なんだよ」
「え?」
「どういう意味だ、亜樹?」
「だからね。この世界が神によって均衡が保たれている以上、世代交代なんてものがあるほうが困るんだ。だって世代交代が起きる度に、世界は崩壊の危機を迎える結果になるから。その度にオレが凌ぐようでは意味がない。それに」
「それに?」
問いかける一樹を亜樹は悲しそうに見上げた。
「オレがすっとこの世界にいられるとも限らないから。
オレが手を出せなくなったら、そのときに神々に凌いでもらえるように本来の姿に戻ってもらわないと困るんだ」
「なんでいなくなるかもしれないって思うんだ?」
「いなくなるなんて思いたくないし、記憶が戻った今ずっと守ってきた世界だから、セシルが言ってたみたいに愛着もあるんだ。だから、そんな事態になってほしくないと思ってる。でも、世の中には絶対ってことはありえないからさ」
「だから、なんでそうなるかもしれないって思うんだ?」
「もしこの世界を救うために、オレが怪我をするとか、そういう事態になったら、たぶん」
一樹はちょっと考えた。
確かにセシルもそうだった。
絶対に怪我なんてしないように、病気にもならないように。
常に意識していた。
まあ基本的にそういうものはセシルを避けたけど、それでもなお用心している。
そんな印象を受けた。
つまりそれはこの世界からいなくなりたくなかったから?
さっきの会話を信じるなら、どこか知らないが、連れ戻されたくなかったから?
セシルの言ったことを信じると、かすり傷を負っただけで亜樹は連れ戻されるって言ってたけど。
「で。いなくなってから亜樹はどこへ行くんだ?」
「何処って」
「いなくなるってことはどこかに行くってことだろ?」
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「一樹の知らないところ!」
セシルに喧嘩するなと言われたのに、もう反発してる。
ほんと。
自分でも思うけど素直じゃないな。
「おまえさあ。変に突っかかるなよ。まあ苛めたのは悪かったけど」
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