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第十七章 光の神子
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そんな一樹を見て笑いながら、セシルも立ち上がった。
『亜樹の忠告はきちんと聞いてくれないと困るよ、ガーター。オレになんとかできる範疇たからよかったけどね。もうすこし力の受け継ぎが進んていたら、オレにもガーターを助けられなかった。そうなったら水神マルスの力が、際限なく暴走していたよ?』
「だから、なんでそういう事態になるんだよっ!」
怒っている一樹を見てセシルはちょっと笑った。
その言葉には答えず背後を振り返る。
そこでは亜樹が金髪のままで座り込んでいた。
『無謀な真似はやめれば? 今の亜樹にはどうにもできないよ。呼び出してもらえたら忠告しようと思っていたんだけど、今のオレは亜樹の呼び出しがないと動けないから』
「でも、そうしたら世界は」
『うん。わかってるんだけどね。でもね、亜樹? そのためにさっきみたいな状態が続いたらなんにもならないよ。また今の方がましかもしれない』
セシルの説得に疑問を抱き、すべての者が窓の外に視線を向けたが、そこには透き通った青空が広がっていた。
穏やかな空の中。
唖然、とする。
それから外見の変化が止まった亜樹を凝視した。
「なんで封印、解けたんだろ」
俯いてショボンと呟く。
この言葉で一樹もリオネスの推測が正しいことを知った。
亜樹はすべて思い出している。
『まぁ、ね。元はといえば転生しようと思ったオレが悪いんだけど。でも、転生しない生きているのが辛かったから』
「セシル?」
一樹の声に彼を振り向いて、セシルは苦い笑みを見せた。
それは付き合いの永い一樹でさえ初めて見る彼の自虐的な笑みだった。
『オレが転生しようと決めた本当の理由はね、ガーター。確かに世界を救いたいという目的もあったけど、本当はおまえを転生させたかったからだよ』
「おれ?」
『オレが死ねば必然的にガーターも死ね。血を与えたオレが死ぬことでね。そうすれば転生が可能になる。オレが生きているかぎり、ガーターは聖獣でしかない。それが辛かったから』
「じゃあおれが人として転生したのは偶然でもなんでもなかった?」
愕然とした声だった。
『オレがそう望み後継である亜樹が、それを決めたからだよ』
「亜樹」
見つめられてもなにもえない亜樹は俯くしかない。
『でも、オレたちは、オレと亜樹はそのためにガーターと世界を拝にかけてしまった』
「どういう意味だよ?」
『ごめん。オレの口からはこれ以上は書えない。亜掛も望んていないし』
複雑な顔でセシルと亜樹を見比べる一樹に、亜樹はますます深く俯いてしまった。
『亜樹。もう無駄な抵抗はやめたほうがいいよ。体が持たない。それこそ本末転倒だよ。亜樹が倒れることはできないんだ。わかるだろう? 怪我もできない。病気にもなれないわかっていてなぜ形代を庇ったの?』
「だって自覚も記憶もなかったから、それがなにを招くかなんて理解していなかったわけだし」
『違う。わかっていたはずだよ、亜樹は。オレを誤魔化そうとしても無駄だよ。オレたちは同じなんだから』
「‥‥‥」
『とにかくもう無駄な抵抗はやめること。今の亜樹ではどう頑張っても、本質は封印できからね』
「「「本質」」」
全員が同じ言葉を呟いたが、亜樹もセシルも周囲にいる人々は、それこそ一樹を含めて無視していた。
なにかとても大事な話し合いをしている。
そんな雰囲気だった。
「でも、オレがこのままだったら世界は、二度と夜が訪れないよ?」
セシルを見上げて言った亜樹の一言に、全員が絶句した。
『わかってるけど。そのために亜樹が無駄だと知っていて、きっきみたいなことを続けて、もし万が一のことでも起きたら世界が消減するよ?』
「それは」
『万がーというのはないとは思うけど、体調を崩すとか、もしくは病気になるとか、そういう事態になったら、今度は亜樹に起こったことが全ての人間を襲うよ? それでもいいの?』
おそらくふたりのあいだでは、意味が通じているのだろうが、あまりと言えばあまりな内容に全員が言葉をなくしている。
一樹ですら割り込めなかったのだから。
亜樹は悔しそうな顔をして、それから血を吐くように言った。
「夜がなければ人間はどうやって安らげばいいんだ? わかってるはずだ、セシル。夜は闇じゃない。安らぎなんだ。ずっと夜が続いたら人の心は寛げない。それだけじゃない。この状態を維持すれば、太陽の作用が強くなって、今、水不足を凌いでも似たようなことは何度でも起きるよ? 真夏が続いてるみたいなものだから」
『さすがにすぐにはそういう事態にならないと思うよ。あるていどの猶予はあると思う。しばらくは真昼が続くだけて済むと思うから』
「どのくらい? 力を司ってるセシルにならわかるだろ?猶予はどのくらいある? オレがもう一度、本質を封印するまで」
『ごめん。わからないよ、オレにも』
「そんな」
『力の受け継ぎはもうはじまってるんだよ?。今、オレが司っている力は完全に以前と同じものじゃない。それでは無理だよ。子測を立てることは。でも、少なくとも十年くらいは猶予はあるに思うんだけど』
「それで抑え込めるかな?もう一度、封印できるかな?」
噛みしめるような言葉だった。
目の前で交わされる会話を、しっかりと記憶に刻んだ。
後亜樹と話し合うために。
『亜樹の忠告はきちんと聞いてくれないと困るよ、ガーター。オレになんとかできる範疇たからよかったけどね。もうすこし力の受け継ぎが進んていたら、オレにもガーターを助けられなかった。そうなったら水神マルスの力が、際限なく暴走していたよ?』
「だから、なんでそういう事態になるんだよっ!」
怒っている一樹を見てセシルはちょっと笑った。
その言葉には答えず背後を振り返る。
そこでは亜樹が金髪のままで座り込んでいた。
『無謀な真似はやめれば? 今の亜樹にはどうにもできないよ。呼び出してもらえたら忠告しようと思っていたんだけど、今のオレは亜樹の呼び出しがないと動けないから』
「でも、そうしたら世界は」
『うん。わかってるんだけどね。でもね、亜樹? そのためにさっきみたいな状態が続いたらなんにもならないよ。また今の方がましかもしれない』
セシルの説得に疑問を抱き、すべての者が窓の外に視線を向けたが、そこには透き通った青空が広がっていた。
穏やかな空の中。
唖然、とする。
それから外見の変化が止まった亜樹を凝視した。
「なんで封印、解けたんだろ」
俯いてショボンと呟く。
この言葉で一樹もリオネスの推測が正しいことを知った。
亜樹はすべて思い出している。
『まぁ、ね。元はといえば転生しようと思ったオレが悪いんだけど。でも、転生しない生きているのが辛かったから』
「セシル?」
一樹の声に彼を振り向いて、セシルは苦い笑みを見せた。
それは付き合いの永い一樹でさえ初めて見る彼の自虐的な笑みだった。
『オレが転生しようと決めた本当の理由はね、ガーター。確かに世界を救いたいという目的もあったけど、本当はおまえを転生させたかったからだよ』
「おれ?」
『オレが死ねば必然的にガーターも死ね。血を与えたオレが死ぬことでね。そうすれば転生が可能になる。オレが生きているかぎり、ガーターは聖獣でしかない。それが辛かったから』
「じゃあおれが人として転生したのは偶然でもなんでもなかった?」
愕然とした声だった。
『オレがそう望み後継である亜樹が、それを決めたからだよ』
「亜樹」
見つめられてもなにもえない亜樹は俯くしかない。
『でも、オレたちは、オレと亜樹はそのためにガーターと世界を拝にかけてしまった』
「どういう意味だよ?」
『ごめん。オレの口からはこれ以上は書えない。亜掛も望んていないし』
複雑な顔でセシルと亜樹を見比べる一樹に、亜樹はますます深く俯いてしまった。
『亜樹。もう無駄な抵抗はやめたほうがいいよ。体が持たない。それこそ本末転倒だよ。亜樹が倒れることはできないんだ。わかるだろう? 怪我もできない。病気にもなれないわかっていてなぜ形代を庇ったの?』
「だって自覚も記憶もなかったから、それがなにを招くかなんて理解していなかったわけだし」
『違う。わかっていたはずだよ、亜樹は。オレを誤魔化そうとしても無駄だよ。オレたちは同じなんだから』
「‥‥‥」
『とにかくもう無駄な抵抗はやめること。今の亜樹ではどう頑張っても、本質は封印できからね』
「「「本質」」」
全員が同じ言葉を呟いたが、亜樹もセシルも周囲にいる人々は、それこそ一樹を含めて無視していた。
なにかとても大事な話し合いをしている。
そんな雰囲気だった。
「でも、オレがこのままだったら世界は、二度と夜が訪れないよ?」
セシルを見上げて言った亜樹の一言に、全員が絶句した。
『わかってるけど。そのために亜樹が無駄だと知っていて、きっきみたいなことを続けて、もし万が一のことでも起きたら世界が消減するよ?』
「それは」
『万がーというのはないとは思うけど、体調を崩すとか、もしくは病気になるとか、そういう事態になったら、今度は亜樹に起こったことが全ての人間を襲うよ? それでもいいの?』
おそらくふたりのあいだでは、意味が通じているのだろうが、あまりと言えばあまりな内容に全員が言葉をなくしている。
一樹ですら割り込めなかったのだから。
亜樹は悔しそうな顔をして、それから血を吐くように言った。
「夜がなければ人間はどうやって安らげばいいんだ? わかってるはずだ、セシル。夜は闇じゃない。安らぎなんだ。ずっと夜が続いたら人の心は寛げない。それだけじゃない。この状態を維持すれば、太陽の作用が強くなって、今、水不足を凌いでも似たようなことは何度でも起きるよ? 真夏が続いてるみたいなものだから」
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「どのくらい? 力を司ってるセシルにならわかるだろ?猶予はどのくらいある? オレがもう一度、本質を封印するまで」
『ごめん。わからないよ、オレにも』
「そんな」
『力の受け継ぎはもうはじまってるんだよ?。今、オレが司っている力は完全に以前と同じものじゃない。それでは無理だよ。子測を立てることは。でも、少なくとも十年くらいは猶予はあるに思うんだけど』
「それで抑え込めるかな?もう一度、封印できるかな?」
噛みしめるような言葉だった。
目の前で交わされる会話を、しっかりと記憶に刻んだ。
後亜樹と話し合うために。
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