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第十七章 光の神子
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光、あれ。
そして闇を纏う。
光を封じ闇を纏う。そうして均衡を司る。
世界は未だ幼く神々は間違った認識の元に存在している。
何れはこの手を離し伸べなくてはならない。
世界に光を。
そして夜を。
希望と安らぎを。
世界のバランスをも、解き放たん。
「亜樹はどうしたんだろうね、一体?」
寝台の傍で亜樹に付き添いながら、リオネスがひとり呟いている。
一樹は今、エルダたちと一緒に世界に影響を与える水不足について、もっと詳しい情報を得るために広間に集っている。
神殿の広間というのは、そのまま神事、つまり神力を使い世界を導くときに利用する場だという。
朝になって朝食の時間になっても、なぜか亜樹は目覚めなかった。
一樹はとても心配していたが、時間がないこともあって、リオネスに付き添いを頼み、自分はやるべきことをこなしている。
亜樹が一樹の力を覚醒させるにしても、それまでにやっておくべきこと、こなしておくべきことは数多く、今の一樹には個人的は時間にいうのは皆無に等しいのだという。
本当は付き添っていたいと辛そうに言っていた。
「亜樹?」
いきなり亜樹が呟き、うずくまるような姿勢になったので、リオネスは思わず立ち上がった。
これは一樹を呼んだほうがいいのだろうか。
亜樹について一番詳しいのは一樹だ。
彼を呼んだほうがいいのだろうか?
「一樹を呼んでくるからちょっと待ってて、亜樹!」
励ますつつもりでそう言って踵を返そうとすると、いきなり腕を掴まれた。
弱々しいが確かに引き止めている。
「亜樹?」
振り向けばうっすらと目を開けている。
「一樹は呼ばないで」
囁くように亜樹は言う。
「彼はオレの血を飲んでる。最理を受けるから、呼ばないで。なんとか抑え込むから」
「亜樹!」
亜樹は全身に冷や汗を掻いていた。
苦しいのか首を振り身を捻る。
何故あんなことを言ったのかわからないが。
一樹が巻き込まれると言いたいのなら、呼びに行くのは躊躇われるし。
思い出してしまった。
自分の正体。
どうして忘れていたのか。
封印が解かれたから、世界が狂う。
なんとか抑え込まないと。
もう一度闇を。
でも、力が完全に戻っていないから抑え込めない。
記憶は戻ったのに力は完全には戻っていない。
当然、か。
制御を受けている状態ですぐに戻るていどの力じゃない。
どうしよう。このままだと世界が、世界のバランスが。
象徴は昔のオレ、セシル。
でも、おそらくセシルにもどうにもできない。
封印が解かれてしまったから。
彼を呼び出してもどうにもならない。
既に力の受け継ぎは始まっている。
だから、セシルの司っている力も、以前と同じではないんだ。
それでは抑え込めない。
それでも彼に救いを求める必要があるとしたら、抑え込めないまま一樹が絡んだとき。
彼を救うことくらいは、セシルにもできるはず。
してもらわないと困るんだ。
マルスの力が暴走するなんて事態を招くわけにはいかないんだから。
なんとかしないと。
ひっきりなしに流れる汗を拭いて、リオネスは付き添っていたが、亜樹は一向に楽にならないようだった。
でも、じっと冷静に観察していると苦しんでいるというより、まるでひとりでなにかと闘っているようだった。
一体なにと闘っているんだろう?
そうして見守っていてぎょっとした。
亜樹の髪が一瞬、元の黒に戻ったのだ。
それも、はっきり言えないが以前よりもっと純粋な艶のある漆黒だった。
それは瞬きしている間に元に戻っていたが。
「なにが起きているんだい?」
さすがに状況が飲み込めていない。
もしかしたら亜樹の記憶はもう戻っているんじゃないだろうか。
力はどうかわからない。
でも、記憶は限っている気がする。
記憶が思っているから状況がすべて把握できる。
だから、今の自分に一樹を近付けるのが、危険だとわかっている。
そういうこと?
「リオン。亜樹の様子はどうだ? 昼食を運んできたけど」
突然の一樹の登場にギクっとした。
「一樹」
「なんだよ、その顔?」
「出て行ってくれないかな?」
「だから、どういう意味だよ?」
ムッとしたらしい一樹に睨まれて事実を素直に伝えることにした。
でなければ彼は納得しない、
いや。
言っても受け入れてくれるかどうか。
亜樹がこの様子では。
「亜樹の様子が変なんだよ」
「え?」
無意識に部屋に入もうとする一樹を見て、勝手に力が迸った、
見えない力に押され、立ち入ることを拒まれた一樹が、ムッとしたように睨んでいる。
「なんの真似だよ、リオン?」
「亜樹からの伝言だよ」
「伝言?」
「今の亜樹に一樹を近付けないでほしいと」
「どういう意味だよ?」
「本当は様子がおかしくなってすぐに君を呼びに行こうとしたんだよ。亜樹について一番詳しいのはきみだし。でも、亜樹が呼ばないでって」
「きみは亜樹の血を飲んているから、追ついたら影響を受けるから、だから、呼ばないでって。なんとか抑え込むからって」
「どんな様子なんだ?」
納得はできなかったのだろう。
これで私立ち入ることはやめてくれてほっとした。
この距離だって近づきすぎかもしれないのに。
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