弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

文字の大きさ
上 下
133 / 140
第十七章 光の神子

(1)

しおりを挟む




 第十七章 光の神子




 光、あれ。

 そして闇を纏う。

 光を封じ闇を纏う。そうして均衡を司る。

 世界は未だ幼く神々は間違った認識の元に存在している。

 何れはこの手を離し伸べなくてはならない。

 世界に光を。

 そして夜を。

 希望と安らぎを。

 世界のバランスをも、解き放たん。




「亜樹はどうしたんだろうね、一体?」

 寝台の傍で亜樹に付き添いながら、リオネスがひとり呟いている。

 一樹は今、エルダたちと一緒に世界に影響を与える水不足について、もっと詳しい情報を得るために広間に集っている。

 神殿の広間というのは、そのまま神事、つまり神力を使い世界を導くときに利用する場だという。

 朝になって朝食の時間になっても、なぜか亜樹は目覚めなかった。

 一樹はとても心配していたが、時間がないこともあって、リオネスに付き添いを頼み、自分はやるべきことをこなしている。

 亜樹が一樹の力を覚醒させるにしても、それまでにやっておくべきこと、こなしておくべきことは数多く、今の一樹には個人的は時間にいうのは皆無に等しいのだという。

 本当は付き添っていたいと辛そうに言っていた。

「亜樹?」

 いきなり亜樹が呟き、うずくまるような姿勢になったので、リオネスは思わず立ち上がった。

 これは一樹を呼んだほうがいいのだろうか。

 亜樹について一番詳しいのは一樹だ。

 彼を呼んだほうがいいのだろうか?

「一樹を呼んでくるからちょっと待ってて、亜樹!」

 励ますつつもりでそう言って踵を返そうとすると、いきなり腕を掴まれた。

 弱々しいが確かに引き止めている。

「亜樹?」
 
 振り向けばうっすらと目を開けている。

「一樹は呼ばないで」

 囁くように亜樹は言う。

「彼はオレの血を飲んでる。最理を受けるから、呼ばないで。なんとか抑え込むから」

「亜樹!」

 亜樹は全身に冷や汗を掻いていた。

 苦しいのか首を振り身を捻る。

 何故あんなことを言ったのかわからないが。

 一樹が巻き込まれると言いたいのなら、呼びに行くのは躊躇われるし。

 思い出してしまった。

 自分の正体。

 どうして忘れていたのか。

 封印が解かれたから、世界が狂う。

 なんとか抑え込まないと。

 もう一度闇を。

 でも、力が完全に戻っていないから抑え込めない。

 記憶は戻ったのに力は完全には戻っていない。

 当然、か。

 制御を受けている状態ですぐに戻るていどの力じゃない。

 どうしよう。このままだと世界が、世界のバランスが。

 象徴は昔のオレ、セシル。

 でも、おそらくセシルにもどうにもできない。

 封印が解かれてしまったから。

 彼を呼び出してもどうにもならない。

 既に力の受け継ぎは始まっている。

 だから、セシルの司っている力も、以前と同じではないんだ。

 それでは抑え込めない。

 それでも彼に救いを求める必要があるとしたら、抑え込めないまま一樹が絡んだとき。

 彼を救うことくらいは、セシルにもできるはず。

 してもらわないと困るんだ。

 マルスの力が暴走するなんて事態を招くわけにはいかないんだから。

 なんとかしないと。

 ひっきりなしに流れる汗を拭いて、リオネスは付き添っていたが、亜樹は一向に楽にならないようだった。

 でも、じっと冷静に観察していると苦しんでいるというより、まるでひとりでなにかと闘っているようだった。

 一体なにと闘っているんだろう?

 そうして見守っていてぎょっとした。

 亜樹の髪が一瞬、元の黒に戻ったのだ。

 それも、はっきり言えないが以前よりもっと純粋な艶のある漆黒だった。

 それは瞬きしている間に元に戻っていたが。

「なにが起きているんだい?」

 さすがに状況が飲み込めていない。

 もしかしたら亜樹の記憶はもう戻っているんじゃないだろうか。

 力はどうかわからない。

 でも、記憶は限っている気がする。

 記憶が思っているから状況がすべて把握できる。

 だから、今の自分に一樹を近付けるのが、危険だとわかっている。

 そういうこと?

「リオン。亜樹の様子はどうだ? 昼食を運んできたけど」

 突然の一樹の登場にギクっとした。

「一樹」

「なんだよ、その顔?」

「出て行ってくれないかな?」

「だから、どういう意味だよ?」
 
 ムッとしたらしい一樹に睨まれて事実を素直に伝えることにした。

 でなければ彼は納得しない、

 いや。

 言っても受け入れてくれるかどうか。

 亜樹がこの様子では。

「亜樹の様子が変なんだよ」

「え?」

 無意識に部屋に入もうとする一樹を見て、勝手に力が迸った、

 見えない力に押され、立ち入ることを拒まれた一樹が、ムッとしたように睨んでいる。

「なんの真似だよ、リオン?」

「亜樹からの伝言だよ」

「伝言?」

「今の亜樹に一樹を近付けないでほしいと」

「どういう意味だよ?」

「本当は様子がおかしくなってすぐに君を呼びに行こうとしたんだよ。亜樹について一番詳しいのはきみだし。でも、亜樹が呼ばないでって」

「きみは亜樹の血を飲んているから、追ついたら影響を受けるから、だから、呼ばないでって。なんとか抑え込むからって」

「どんな様子なんだ?」

 納得はできなかったのだろう。
 
 これで私立ち入ることはやめてくれてほっとした。

 この距離だって近づきすぎかもしれないのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

処理中です...