弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十六章 水の神殿

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 窓の外を見れば夕闇が降りていた。

 いくらなんでも遅すぎる。

「あいつ、まさかとは思うけど」

 出逢ってから亜樹がこれといった失敗をやったことはない。

 力の制御以外では、なんでも
そつなくこなす奴だった。

 だから、まさかとは思うのだが。

「まさか迷子になってるんじゃないだろうな?」

 呟いて青くなる。

 この神殿は広い。

 広いうえに水を司っているから、少々のことでは音もしない。

 慣れるまでは亜樹もすこしは薄気味悪いと感じるはずだった。

 静寂というのは慣れるまでは怖いものだから。

 それを配慮してリオネスとアレスの部屋は隣同士にしている。
 
 なるべく住んでいる者が顔を合わせやすい配置にしたつもりだった。

 ただし亜樹と一樹の部屋に関しては例外で、第三者に邪魔されない位置を選んでいる。

 一樹の部屋は元々の自分の部屋で、ほぼ神殿の中央にある。

 エルダはその違くに泊まるつもりだったらしいが、嫌味を言ってやめさせた。

 亜樹を身近に置きたかったから。

 一晩だって亜樹を傍から離すつもりはなかった。
「あいつなんでもそつなくこなす奴だし、これといって苦手なむのもないって杏樹が言ってたけど。まさか、な?」

 だが、帰ってこない。

 トップクラスの進学校に首席で入学するくらい頭もいいし、香み込みも早い奴だから、安心していたのだが、これはもしかしてもしかしなくても。

「あのバカ。どこかで迷ってるな?」

 そうとしか思えない。

「手間のかかる奴だな」

 呆れながら亜樹を探そうと飛び出した。

「あいつ一体どこまで行ったんだ?」

 早足に亜樹の気配を追ってみるが近くにはいない。

 ということはかなり遠くへ行ったに違いない。

「泣いてないといいんだけど」

 性別が変化する前の亜樹なら、絶対に泣かないだろうと思うし、そもそもきっきの場面でも、あれたけ感情的にはならなかったと思う。

 変化してから亜樹はちょっと様子がおかしい。

 性別が教化する前の亜樹なら絶対に泣かないだろうと思うし、それにきっきのことも、あれだけ感情的にはならなかったと思う。

 変化してから亜樹はらょっと様子がおかしい。

 性格が愛わったというか、杏樹から「亜樹らゃんっと最近ますます可愛くなったね」たまで
言われていた。

 それまでは杏樹に言わせれば、どれほど頼りないと周囲が思っていても、杏樹には違ったという話だ。

 だが、選近の亜樹はどことなく頼りない。

 すぐに意地を張ってふくれるその様子は、まるで女の子のようですごく可愛い。

 気性が変化している可能性は否定できない。

「おいおい。そろそる最奥だぞ。一体どこまで行ったんだ?あのバカ?」

 最奥といってむ本当の意味での突き当たりではない。

 さっきいた場所から考えて一番遠いうことだ。

 柱の影を回ったといろで亜樹の声がした

「怖いよき、かずきー! ここどこなんだよ! 怖いよ、かずきー!」

 がくっと肩が落ちる。

「やっぱり迷ってる」

 でも、助けを求めているのが自分だと思うと、ちょっと嬉しかった。

「亜樹! こんなところでなにやってるんだ、おまえは!」

 怒鳴りつけると亜樹がビクッとしたように振り向いた。その黄金の瞳にみるみる涙が溢れる。

「亜樹?」

 ちょっと驚く。

「怖かったよ、かずきー!」

 抱きつかれてため息をついた。

「わかったかららょっと落ちつけよ」

「なんでここんなに静かなんだよぉ? なんでこんなに無意味に広いんだよぉ?」

「わかった。わかったから落ちつけったらっ!」

 必死になって縋りつかれて苦笑する。

 おとがいに手をかけて、泣き声をあげるその響を悪いだ。

「んっ」

 ゆっくりとその唇を味わう。落ちつけるように。服の裾を掴んだ手が、微かに震えていた。

「落ちついたか?]

「うん」

 しかし昔からにヒステリーを起こした恋人にはキスが一番効くというが、まさか亜樹に効くとは思わなかった。

「なんでこんなところまできたんだ?」

「わかんない」

「まったくもう。慣れるまではおれの傍にいろよ? また迷うからな、絶対」

 コクコク頷く様子によっぽど怖かったんだなと苦笑くした。



 食事は毎日の個人の部屋で摂るべきか、それともみんなで食べるべきか悩んだが、静寂に包まれた食事というのも遠慮したかったので、結局、集まって食べることにした。

 昔ここで暮らしていたときは、ひとりで息べても平気だっ たのに、センルと暮らし、そして転生し、エルシアたちと暮らしたせいか、なんとなく馴めない。

 エルシアたちはエルダの子孫とは思えないくらい家族を大切にする。

 その触れ合いをから、食事の時間に遅れるとものすごく怒られたものだった。

 他のことでは大目に見てくれることもあったが、食事の時間に遅れたときだけは例外で、食事抜きな上に延々と続くお説教付きだった。

 遊ぶのに夢中になってつい遅れた昼食のときはいい。

 おやつを食べればごまかしがきいたし夕食までなら我慢もできた。

 だが、エルシアはこういう礼節にはうるさくて、食事に遅れたらそれが夕食でも例外はなかった。
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