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第十六章 水の神殿
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恨めしそうに一樹を睨んだ。
「嫌がらせか、これは?」
「違うってっ! 届かないのなら抱いてやるからっ!」
「なにパニックしてるんだ、一樹? 髪と瞳の色が元に戻ったのが、そんなにショックだった
のか?」
「違う! おまえだ、亜樹!」
「はあ?」
どこまでも理解しない亜樹に業を煮やし、一樹は亜樹の腰を抱き上げた。
「ちょっと一樹」
「いいから。これなら見えるだろ? 後で位置は下げておくから、とにかく鏡を見ろよ」
言われて子供のように抱き抱えられた亜樹は、くるっと鏡を振り向いた。
「あれ? これ、誰?」
「おまえだよ、亜樹。頼むから現実逃避はやめてくれ。パニックしてるのはおれも同じなんだから」
「だってまだ金髪は一般的にしても、この眼の色」
そのまま絶句してしまう亜樹に、残りの者も変わったのは髪だけではないらしいと気づいて一樹と亜樹に近づいていった。
「亜樹? ちょっとこっちを向いてくれる?」
優しいリオネスの呼び声に亜樹はちょっと悩んだが、そのままの恰好で振り向いた。
みようによっては、一樹の腕に腰掛けているようにも見える。
つまりすごく仲睦まじい姿、ということだ。
さすがにエルダはムッとした。
これで釣り合いが取れていなければ、気晴らしに嫌味のひとつも言えるものの、似合っるから嫌味も言えない。
そうして困った顔で振り向いた亜樹を見たとき、風神エルダもきょっとした。
「こんな瞳の色は初めてだ。ありえるのか?」
茫然と呟いてしまう。
それは光の瞳。
髪と同じ黄金の瞳だった。
「ねえ、一樹? 肌の色も変わってない? きみもそうだけどふたりとも白くなってる」
もともと日本人は黄色人種である。
だから、亜樹も一樹も肌の色は白いといっても、白人種に遅いリオネスたちとは意味が違っていた。
ついでに一緒は小さいころから野山を駆け回っていたし、肌の色は褐色に近かったのだ。
これは。
「おれのほうは顔立ちを除けば、昔に戻ってるみたいだ。理由はわからないけど」
思い当たることがあるとしたらセシルとの再会。
いや。
亜樹の覚醒というべきか。
今の亜樹は力に大小あれども、あるていど自在に力を使える。
それは確認済だった。
どうしていきなり制御ができるようになったのか、なにも覚えていない亜樹は、不思議な顔をしていたが。
思い当たることがあるとしたら、それだけだ。
亜樹の力とその存在力と一樹は密接に繋がっているから、亜樹が目覚めたことで影響を受けても不思議はない。
だが。
「じゃあ大賢者も本来はこういう色だったの?」
「いや。セシルはみんなも知っているとおり黒髪に黒い瞳だ。おれが知っている姿は、それしかない」
「亜樹? どこか変な感じはする?」
リオネスに見上げられ、亜樹は小首を傾げてちょっと考えた。
「別になんともないよ。だから、気づかなかったくらいだし」
「黒髪に黒い瞳というのも考えてみれば異端ですよ、マルス兄上。私は黒い場などシャナ以外
には知らないし」
「そうね。わたしも自分以外にいるとは思わなかったわ。マルス兄さまは軽生した場所が異世界らしいから特例としても」
レオニスとシャナがうなずき合い、亜樹は困ったような顔をしている。
「なあ、一樹?」
「なんだよ?」
「この世界って人間で黒い髪とか黒い瞳をしている種族はいないのか? 地球だと珍しくだろ? アジア系はほとんどそうだし。黒人だっているし」
言っている意味はだれにもわからないのだが、ふたりが転生した世界では、珍しい色ではないのだと、すべての者が理解した。
だからふたりとも黒い髪に黒い瞳をしていたのだ。
「おれが知っているかぎり、シャナ以外で黒髪をしていたのはセシルだけだし、黒い瞳はセシル以外には知らない。この世界は完全な白人種で、黒い髪や瞳の色って存在していないんだ。亜樹」
「ふうん。じゃあ、セシルって何者だったんだ? 出身さえわからないってこと?」
「そういうことになるな。セシルも自分がどこで生まれたとか、そういうことは言わなか
し」
それどころか外見が歳を取ることもなければ、寿命だって不老長寿かと思うくらいには長かった。
一緒にいたのがマルス以外なら、セシルを残して次々と死んでいっただろう。
変われない姿のセシルを残して。
だから、ある日セシルが自分はもうすぐ死ぬからと言ったときは、すぐには借じられなかったくらいだった。
そのときだってセシルは普段と変わらなかったし。
でも、その言葉どおりセシルは死んだ。
出逢ったときの姿のままで。
弱っていって死が間近になったとか、そういう予兆はなにもなかった。
本当にある日突然、死んだのだ。
昨夜は笑っていたセシルが死んでいる。
それを自覚した朝。
深い絶望に襲われたことは覚えているが、その後のことは覚えていなかった。
もしかしたらそのすぐ後にマルスも死んだのかもしれない。
血を与えたセシルが死んだから。
「嫌がらせか、これは?」
「違うってっ! 届かないのなら抱いてやるからっ!」
「なにパニックしてるんだ、一樹? 髪と瞳の色が元に戻ったのが、そんなにショックだった
のか?」
「違う! おまえだ、亜樹!」
「はあ?」
どこまでも理解しない亜樹に業を煮やし、一樹は亜樹の腰を抱き上げた。
「ちょっと一樹」
「いいから。これなら見えるだろ? 後で位置は下げておくから、とにかく鏡を見ろよ」
言われて子供のように抱き抱えられた亜樹は、くるっと鏡を振り向いた。
「あれ? これ、誰?」
「おまえだよ、亜樹。頼むから現実逃避はやめてくれ。パニックしてるのはおれも同じなんだから」
「だってまだ金髪は一般的にしても、この眼の色」
そのまま絶句してしまう亜樹に、残りの者も変わったのは髪だけではないらしいと気づいて一樹と亜樹に近づいていった。
「亜樹? ちょっとこっちを向いてくれる?」
優しいリオネスの呼び声に亜樹はちょっと悩んだが、そのままの恰好で振り向いた。
みようによっては、一樹の腕に腰掛けているようにも見える。
つまりすごく仲睦まじい姿、ということだ。
さすがにエルダはムッとした。
これで釣り合いが取れていなければ、気晴らしに嫌味のひとつも言えるものの、似合っるから嫌味も言えない。
そうして困った顔で振り向いた亜樹を見たとき、風神エルダもきょっとした。
「こんな瞳の色は初めてだ。ありえるのか?」
茫然と呟いてしまう。
それは光の瞳。
髪と同じ黄金の瞳だった。
「ねえ、一樹? 肌の色も変わってない? きみもそうだけどふたりとも白くなってる」
もともと日本人は黄色人種である。
だから、亜樹も一樹も肌の色は白いといっても、白人種に遅いリオネスたちとは意味が違っていた。
ついでに一緒は小さいころから野山を駆け回っていたし、肌の色は褐色に近かったのだ。
これは。
「おれのほうは顔立ちを除けば、昔に戻ってるみたいだ。理由はわからないけど」
思い当たることがあるとしたらセシルとの再会。
いや。
亜樹の覚醒というべきか。
今の亜樹は力に大小あれども、あるていど自在に力を使える。
それは確認済だった。
どうしていきなり制御ができるようになったのか、なにも覚えていない亜樹は、不思議な顔をしていたが。
思い当たることがあるとしたら、それだけだ。
亜樹の力とその存在力と一樹は密接に繋がっているから、亜樹が目覚めたことで影響を受けても不思議はない。
だが。
「じゃあ大賢者も本来はこういう色だったの?」
「いや。セシルはみんなも知っているとおり黒髪に黒い瞳だ。おれが知っている姿は、それしかない」
「亜樹? どこか変な感じはする?」
リオネスに見上げられ、亜樹は小首を傾げてちょっと考えた。
「別になんともないよ。だから、気づかなかったくらいだし」
「黒髪に黒い瞳というのも考えてみれば異端ですよ、マルス兄上。私は黒い場などシャナ以外
には知らないし」
「そうね。わたしも自分以外にいるとは思わなかったわ。マルス兄さまは軽生した場所が異世界らしいから特例としても」
レオニスとシャナがうなずき合い、亜樹は困ったような顔をしている。
「なあ、一樹?」
「なんだよ?」
「この世界って人間で黒い髪とか黒い瞳をしている種族はいないのか? 地球だと珍しくだろ? アジア系はほとんどそうだし。黒人だっているし」
言っている意味はだれにもわからないのだが、ふたりが転生した世界では、珍しい色ではないのだと、すべての者が理解した。
だからふたりとも黒い髪に黒い瞳をしていたのだ。
「おれが知っているかぎり、シャナ以外で黒髪をしていたのはセシルだけだし、黒い瞳はセシル以外には知らない。この世界は完全な白人種で、黒い髪や瞳の色って存在していないんだ。亜樹」
「ふうん。じゃあ、セシルって何者だったんだ? 出身さえわからないってこと?」
「そういうことになるな。セシルも自分がどこで生まれたとか、そういうことは言わなか
し」
それどころか外見が歳を取ることもなければ、寿命だって不老長寿かと思うくらいには長かった。
一緒にいたのがマルス以外なら、セシルを残して次々と死んでいっただろう。
変われない姿のセシルを残して。
だから、ある日セシルが自分はもうすぐ死ぬからと言ったときは、すぐには借じられなかったくらいだった。
そのときだってセシルは普段と変わらなかったし。
でも、その言葉どおりセシルは死んだ。
出逢ったときの姿のままで。
弱っていって死が間近になったとか、そういう予兆はなにもなかった。
本当にある日突然、死んだのだ。
昨夜は笑っていたセシルが死んでいる。
それを自覚した朝。
深い絶望に襲われたことは覚えているが、その後のことは覚えていなかった。
もしかしたらそのすぐ後にマルスも死んだのかもしれない。
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