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第十五章 CECIL
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『それは自分で考えて答えを出してね』
「セシル。おまえな」
むすっとした一樹にセシルがクスクス笑う。
『そっちだって神なんだから、そのくらい自分で考えてよ。なにもかもオレが答えを渡すと思ったら大間違いだよ。自分自身に関する問題では、答えは自分にしか出せない』
深い信念の元に言われた台詞に、一樹はなにも言い返せなくなってしまった。
それはおそらくセシルの体験から来ている言葉だから。
「それと消える前に相手がガーターだから特別に教えてあげるけど」
「なんだよ?」
『ガーターに世代交代はありえないから、どうか頑張って生きてね』
おちょくったような言葉である。
今にも亜樹の内側へと消えていこうとするセシルに、一樹が慌てて呼び掛けた。
「ちょっと待ってくれよ、セシルっ。それっておれが不老不死ってことかっ?」
『そのくらい自分で考えたら?』
「セシル!」
『ガーターにはもう亜樹がいるんだから、別に恐くはないだろう?』
まぶしいほどの笑顔で言われた言葉はどういう意味か、一樹が問おうとしたときには、セシルの姿は消えていた。
静寂が戻った後でだれもが声もなく、お互いの顔をみていたが、一樹はため息をつくと倒れている亜樹を抱き上げた。
「あれが伝説の大賢者」
「なんとなく亜樹に似ていなかった、兄さん? 亜樹のほうが女の子を意識させるけど、イメージっていうか、受ける印象がすごく似てたような気がするよ。亜樹ってもしかしてあの頃から全然変わっていないんじゃないかな?」
「それを言うならイメージとか、受ける印象こそ百八十度変わっているけど、一樹だって変わっていないよ。今の彼だって自信を持って、最強の神だって神々を統べる長だって言えるから。かつての水神マルスそのままにね」
エルシアの誇らしげな科白は育ての親としてのものである。
一樹はちょっと照れて咳払いをした。
「マルス兄さま。わたしなにか間違っているのかしら? 今までわたしは人間から生み出された神だからと、殊更、人間のことを意識していたわ。火を制していたのも人間を護るためで、言われてみれば自然災害にまで意識を向けたことはないわ。わたし」
大きな間違いを犯していたのではないかと、レダは震えていた。
セシルの言葉が本当なら、レダになら自然災害で起きた炎も操れたのだ。
制御することもできた。
だったら失われなかった自然がどのくらいあったか。
レダがそれを知っていて自然を守れるのだと自覚し力を使っていたら。
己を責めて震えている妻の肩を強く抱き、ラフィンが支えている。
そんな妹を振り向いて一樹は苦い顔をした。
「過ぎてしまったことを悔やむより、これからのことを考えたほうがいいと思う」
「マルス兄さま」
「セシルは嘘をつかないから全部本当のことなんだと思う。レダになら火という火、炎というすべて操れるんだ。人為的なものも自然的なものも。これからもそれに気づかなかったら大変なことになったと思う。今ほどレダの力が必要な時代はないだろうから」
「それってわたしの力が役に立つということですか? 兄さま?」
「例えばセシルの言葉じゃないけど、火山が噴火したとき、今までのレダなら自分にはできないと、為す術もなく見ていただろうけど、できるかもしれないと知った今なら、動物も植物も、その被害から護ろうと努力できるんじゃないのか?」
「そうかもしれない」
「一度、深く考え直したほうがいいかもしれない。おれたちは全員なにか間違っていたのかもしれないから」
おそらく一樹の考え方そのものも間違っていたはずだ。
センルは言っていた。一樹今も神だと。
それはこの世界の神の概念そのものが間違っているせいで、一樹が勘違いしていただけで、それが本当なら神という概念自体が変わってくる。
神の概念が変わるなら、世界へ及ぼす影響も変わってくるだろう。
「おれたちはお互いに自分が同っているものだけを司っているつもりでいたけど、それは間違いだったのかもしれない」
「マルス兄上」
「水も風も大地も海も炎も湖も。すべてひとつに纏めて言えば自然だ。おれたちの力の源は本来、人間ではなく、自然そのものだったのかもしれない。よく考えたほうがよさそうだ。世界が崩壊へと向かっている今は言いえるなら大きな転換期だ。その転換期に神の概念が変わるということは、必ずなにかを変える。おれたちははじめから、なにか間違っていたのかもしれない」
長としての揺るぎない発言に、エルダが頷き一樹に声を投げた。
「そうだな。とりあえず水の神殿に戻ろう、マルス。すこし時間を置いて考えたほうがよい。だれもが衝撃を受けているようだから」
「そうだな」
頷いてから一樹はリオネスを見た。
視線を受けてリオネスは不思議そうな顔をしていた。
いつだったかエルダの後を継ぐのはリオネスではないのかと、一樹もなんとなくそう思ったことがある。
リオネスは風そのものだと。
あのセシルの言葉の意味はリオネスを指していたんじゃないのか?
リオネスがエルダの後継者?
それも今すぐ受け継ぎが可能なほど正当な?
でも、エルダが消滅せずに力を譲るっていったいどうやって?
力を譲れは消滅するはずだ。
それともそういう考え方そのものが間違っているのか。
どちらにしても一度、落ちついて考える必要がありそうだ。
それに一樹が神本来の姿に戻った神の進化した姿だとも言った。
あの言葉の意味も深く考えたほうがいい。
答えによっては神が存在する意味まで違えてくるから。
やることが色々と増えたようだ。
頭の痛い現状に一樹はついため息をついていた。
「セシル。おまえな」
むすっとした一樹にセシルがクスクス笑う。
『そっちだって神なんだから、そのくらい自分で考えてよ。なにもかもオレが答えを渡すと思ったら大間違いだよ。自分自身に関する問題では、答えは自分にしか出せない』
深い信念の元に言われた台詞に、一樹はなにも言い返せなくなってしまった。
それはおそらくセシルの体験から来ている言葉だから。
「それと消える前に相手がガーターだから特別に教えてあげるけど」
「なんだよ?」
『ガーターに世代交代はありえないから、どうか頑張って生きてね』
おちょくったような言葉である。
今にも亜樹の内側へと消えていこうとするセシルに、一樹が慌てて呼び掛けた。
「ちょっと待ってくれよ、セシルっ。それっておれが不老不死ってことかっ?」
『そのくらい自分で考えたら?』
「セシル!」
『ガーターにはもう亜樹がいるんだから、別に恐くはないだろう?』
まぶしいほどの笑顔で言われた言葉はどういう意味か、一樹が問おうとしたときには、セシルの姿は消えていた。
静寂が戻った後でだれもが声もなく、お互いの顔をみていたが、一樹はため息をつくと倒れている亜樹を抱き上げた。
「あれが伝説の大賢者」
「なんとなく亜樹に似ていなかった、兄さん? 亜樹のほうが女の子を意識させるけど、イメージっていうか、受ける印象がすごく似てたような気がするよ。亜樹ってもしかしてあの頃から全然変わっていないんじゃないかな?」
「それを言うならイメージとか、受ける印象こそ百八十度変わっているけど、一樹だって変わっていないよ。今の彼だって自信を持って、最強の神だって神々を統べる長だって言えるから。かつての水神マルスそのままにね」
エルシアの誇らしげな科白は育ての親としてのものである。
一樹はちょっと照れて咳払いをした。
「マルス兄さま。わたしなにか間違っているのかしら? 今までわたしは人間から生み出された神だからと、殊更、人間のことを意識していたわ。火を制していたのも人間を護るためで、言われてみれば自然災害にまで意識を向けたことはないわ。わたし」
大きな間違いを犯していたのではないかと、レダは震えていた。
セシルの言葉が本当なら、レダになら自然災害で起きた炎も操れたのだ。
制御することもできた。
だったら失われなかった自然がどのくらいあったか。
レダがそれを知っていて自然を守れるのだと自覚し力を使っていたら。
己を責めて震えている妻の肩を強く抱き、ラフィンが支えている。
そんな妹を振り向いて一樹は苦い顔をした。
「過ぎてしまったことを悔やむより、これからのことを考えたほうがいいと思う」
「マルス兄さま」
「セシルは嘘をつかないから全部本当のことなんだと思う。レダになら火という火、炎というすべて操れるんだ。人為的なものも自然的なものも。これからもそれに気づかなかったら大変なことになったと思う。今ほどレダの力が必要な時代はないだろうから」
「それってわたしの力が役に立つということですか? 兄さま?」
「例えばセシルの言葉じゃないけど、火山が噴火したとき、今までのレダなら自分にはできないと、為す術もなく見ていただろうけど、できるかもしれないと知った今なら、動物も植物も、その被害から護ろうと努力できるんじゃないのか?」
「そうかもしれない」
「一度、深く考え直したほうがいいかもしれない。おれたちは全員なにか間違っていたのかもしれないから」
おそらく一樹の考え方そのものも間違っていたはずだ。
センルは言っていた。一樹今も神だと。
それはこの世界の神の概念そのものが間違っているせいで、一樹が勘違いしていただけで、それが本当なら神という概念自体が変わってくる。
神の概念が変わるなら、世界へ及ぼす影響も変わってくるだろう。
「おれたちはお互いに自分が同っているものだけを司っているつもりでいたけど、それは間違いだったのかもしれない」
「マルス兄上」
「水も風も大地も海も炎も湖も。すべてひとつに纏めて言えば自然だ。おれたちの力の源は本来、人間ではなく、自然そのものだったのかもしれない。よく考えたほうがよさそうだ。世界が崩壊へと向かっている今は言いえるなら大きな転換期だ。その転換期に神の概念が変わるということは、必ずなにかを変える。おれたちははじめから、なにか間違っていたのかもしれない」
長としての揺るぎない発言に、エルダが頷き一樹に声を投げた。
「そうだな。とりあえず水の神殿に戻ろう、マルス。すこし時間を置いて考えたほうがよい。だれもが衝撃を受けているようだから」
「そうだな」
頷いてから一樹はリオネスを見た。
視線を受けてリオネスは不思議そうな顔をしていた。
いつだったかエルダの後を継ぐのはリオネスではないのかと、一樹もなんとなくそう思ったことがある。
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あのセシルの言葉の意味はリオネスを指していたんじゃないのか?
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力を譲れは消滅するはずだ。
それともそういう考え方そのものが間違っているのか。
どちらにしても一度、落ちついて考える必要がありそうだ。
それに一樹が神本来の姿に戻った神の進化した姿だとも言った。
あの言葉の意味も深く考えたほうがいい。
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