弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十五章 CECIL

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「私も水神マルスの本来の姿には興味があるね。性別さえ伝わっていない伝説の神だったんだ
し」

「ボクも見たい」

「ぼくもぜひ見てみたいな。最強と呼ばれた女神なんだから、きっと絶出の美女だよね?」

「アストル。お前本気でその病気なんとかしろよ」

 うんざりしたような一樹の忠告に、アストルが笑う。

 そこで唯一マルスの姿を知らないらないしダまでが割り込んできた。

「お願い兄きま、わたしにも見せて?」

「レダ。お前まで」

「だって一度もお逢いことがないし、念願が叶ってお逢いしたときには、姉きまは兄さまになってしまわれていたから。一度でいいの。お願い」

 それにエルダたちは面白がっているようだが、他のみんなは真剣に一樹を見ているのだ。

 これで「いやだ」と言えるほど、一樹も冷酷にはなれなかった。

 特にレダの縫りつくような、末っ子特有の甘えた眼には残てない。

 なんだかんだ言って一樹は、神々の長子なのだ。

「しょうがないなあ。特別だからな」

 そう言うと一樹の全身が淡い光を放ちはじめた。

 淡い水の光。青のような白のような、それは不思議な色だっ
水そのものには色がないのだから、当然かもしれないが。

 そうしてすべての者の中央に位置するところに、忽然とその女性は現れた。

 女神ならこういう衣装だろうと亜樹が、想像した通りの純白のドレスを着ている。

 地面にまで届きそうな長い髪は白銀。

 純粋な銀ではなく青でもなく白でもない。それは不思議な色
である。

 光の加減で青にも見えるのだから。
 
 覗き込んだ瞳は澄んだ湖水の青。

 見ているほうが不安になるほ華奢な体付き。

 イメージとしては激しい水の流れではなく穏やかな、すべてを豊かにする水の恩恵。

 抽象的だがそんな感じだろうか。

 今のマルスである一樹が、激しさを連想させることを思うと、イメージは百八十度変化していたが、もしかしたら印象の通いは気性の差ではなく、性別の違いのせいかもしれない。

 男でああいうイメージだとちょっと困る。

 でも、おそらく司るものが同じで、弟妹が散々変わっていないと、今の気性の激しい一樹を見て言うくらいだし、おまけにこの美しく儚げな女性が、セシルを守るため果敢にも戦いを挑み、たくさんの人間を殺してきたことも事実なのだ。

 きっと性格は一樹とそれほど差はないだろう。

 この外見で一樹と同じ性格。

 ギャップの説しい安性である。

「すっごい綺麗だなあ。こんな綺麗な女性みたことないよ、オし」

 ほうと感嘆の吐息をついてそう言えば、真先に同意したのはそれが性なのか、アストルだった。

「一樹も女性として生まれればよかったのに」

「アストル! お前なあ!」

 振り向いて怒鳴った一樹に、アストルが笑っている。

「でも、ほんと綺麗だね。さすがに伝説の女神って感じ。これが一樹だなんてなんとなく不思議な気分」

「神々の長子として、また長として相応しいと賞賛するべきかな? これでは風神エルダが次の伴侶を迎える気にならないわけだね。比較したらその気も失せるだろうし」

 染み染み言ったのはエルシアである。

 動機を見抜かれてエルダは複雑な顔をしていた。

 内心でもう見られないと思っていたかつての女神の姿を見られて喜んでいたのだが。

 マルスの姿を再現するここができるのは、当人以外には無理なのだ。

 それぞれ司っているものが違うのたから当然だ。

 でなけれはレダに隠したりせず幻影を見せたりして教えている。

 だが、水そのもののマルスを再現することは、エルグたちにはできなかったのである。

 そのレダはと思って兄弟たちが視線を投げると、限界まで近づいて見上げ声もなく泣いていた。

「もっと早くお逢いしたかった」

 姿は見られても触れられない。髪を撫でてもらった思い出もない。

 それが悲しかった。

 そんなレダを見ていた一樹は不意に亜樹から手を離すと、末っ子に近付いていった。

「レダ」

「マルス兄さま」

「姿は変わってもおれはマルスだよ。神の根源とかそういう複雑なものをおいて言ったら、お
れ自身はなにも変わってない。幻影のおれも、このおれも同じマルスだよ。ほら。来いよ、抱き締めてやるから。小さい頃にそれができなかった分まで。お前は可愛い末っ子だよ、レダ」

 言われて抱きついたレダは、一樹の鼓動に耳を傾けて、幻のマルスはもういないが、生まれ変わって今、自分の前にいる少年もまたマルスなのだと今更のように実感していた。

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