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第十五章 CECIL
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銀髪が更に映えるような気がする。
繊細な美貌を持つリオネスによく似合っていた。
その後はもう言葉もなくリオネスは振り返りはしなかった。
「止めても無駄だよ、一樹? なにがあってもなにを言われても、ボクはついていくから」
「リオン」
「育ての親だけど実の親のつもりなんだから」
もうなにも言えなくて、一樹は黙ってそんなリオネスを見ていた。
「面白い子だ。我等の長殿に向かってその発言。大した度胸だ」
苦笑して言ったのはエルダだった。
自らの始祖を見上げてリオネスはじっと黙り込んでいる。
その眼は一歩も譲らないぞと訴えていた。
「止めはしない。きたいのならくればいい。どうやらそなたにはその資格がありそうだ」
「資格? なにそれ? ボクらはただ親として、危険な真似をしようとしている一樹が、心配なたけだよ? それで資格なんていらないよ。親が子供を心配するのに資格がいるの?」
堂々としたものである。
言葉の意味を理解していないリオネスに、エルダはそっと笑った。
「いずれわかる。では参ろうか?」
「アレス。あなたもいらっしゃい」
「母上?」
それまで見ていることしかできなかったアレスは、急に名を呼ばれ困ったような声を出す。
父であるレオニスまで頷いている。
「そうだね。そろそろいいだろう。戻っておいで、アレス」
「でも、わたしはまだ未熟で」
「これからマルス兄上が成すことを、その眼で確かめてごらん。同じ水を操る者として、それは君の役に立つから。伝説の方の強さをその眼で確かめて自分で役立てなさい」
「それはわたしにも水の神殿にいろと?」
頷く両親にちょっと困ったが、一樹がとうやって海さえ干上がる地殻変動を起こすほどの水不足を回避するのか、そのときにどんな力を使うのか。
それには興味があったし、伝説の長の強さも知りたかったから、黙って受け入れた。
自惚れかもしれないが、リオネスが行くなら、自分だってふたりの力になれるかもしれないし。
未熟だと言う事は理解している。でも、亜樹や一樹が死ぬのはいやだった。
両親や伯父たちには裏切り行為かもしれないが。
傍にいればつになれるかもしれない。
それにリオネスがいれば、いるんな知識を教えて貰えるし。
だから、アレスはエルシアたちに別れを告げると、黙って母に近付いた。
「翔と杏樹をよろしく頼むな、エルス」
「わかっているよ。安心しなさい、一樹」
「もし元の世界に戻してやれるなら、そうしてやってくれ。万が一の場合、ふたりもおれたちの影響を受けるから。この世界にいなければ、もしかしたら無事に一生を過ごせるかもしれない。ありがとうって翔のおかげで楽しかったってそう伝えてくれ」
この場にはふたりの姿はない。
一樹が無理に眠らせたからだ。
なにが起きるかわからなかったし、それにふたりを自分たちの問題に巻き込みたくなかったから。
なにも知らなければ、そして世界さえも違っていたら、上手くすればふたりはなにも知らず、なにも気付かないまま人間としてその生を終えることができるかもしれない。
この世界にいれば間違いなく巻き込まれ、最悪の場合だと亜樹が覚醒したら、その余波を受けて、必ず消滅する。
わかっているなら、元の世界に戻してやりたかった。
「そうだね。なんとか近い内に戻そう。水不足が本格的になる前なら、そのていどの力を使う余裕はあるだろうからね」
「杏樹に幸せになれって伝えてくれる、エルシア?」
「亜樹」
「オレはもう傍にはいてやれないけどいつも思ってるからって。もう守ってやれないけど、いつも大好きだからって。守ってくれるだれかを自分で見つけて幸せになれって、オレが多っていたって伝えてくれる?」
「もう元の世界に戻るつもりはないんだね、亜樹は」
「戻れないよ、幸せな日々だったけど。もうあのころには戻れないよ。オレが変わってしまったから」
「亜樹」
「それにオレが戻ったら、多分一樹のバカもついてくるから、そうしたらこの世界は、また水が足りなくなるだろ?」
苦笑した言葉に一樹が軽く優しい仕種で、亜樹の頭を小突いた。
「水神マルスを守護に持つオレの運命だと思うしかないよね」
「そうだね。私たちのことまで気遣ってくれるんだね、亜樹は。そんな事態ではないだろうに」
「一番辛いのは亜樹なのに。一樹が言っていたように大賢者はお人好しだね。長生きはできないタイプだ。優しすぎるよ、亜樹」
ふたりに交互に言われて亜樹は意外そうな顔をした。
「え? オレは優しくないよ?」
自覚のない亜樹にその場にいた者が、一斉に苦笑した。
全員が同じ顔をしたので、亜樹は戸惑っている。
「ほんとにオレは優しくなんてないんだよ。いつだって自分の意思を貫いただけだから。それでだれかを傷つけても」
「無自覚って怖いね」
リオネスがやれやれと言いたげに呟いて、亜掛は彼を見た。
「きみが言っている自分の意思を貫くことがすべて周囲のためになっているんだよ、亜樹? きみはいつも自分を犠牲にして周囲を優先するんだから。だれかを傷つけた? そう思っているのはきっときみだけだよ。だれに訊いても君が人を傷つけたことはないっていうよ、きっとね」
「でもオレは」
「なにを気にしてそういうのかは、ボクは知らないけど、そもそも異世界人の亜樹には関係がないし、元の世界に思ってしまえば影響も受けない。それでもきみはそう言った。どうしてそれがわからないかな? 究極のお人好しだよ、きみ?」
リオネスは救いがないと言いたげに苦笑していた。
繊細な美貌を持つリオネスによく似合っていた。
その後はもう言葉もなくリオネスは振り返りはしなかった。
「止めても無駄だよ、一樹? なにがあってもなにを言われても、ボクはついていくから」
「リオン」
「育ての親だけど実の親のつもりなんだから」
もうなにも言えなくて、一樹は黙ってそんなリオネスを見ていた。
「面白い子だ。我等の長殿に向かってその発言。大した度胸だ」
苦笑して言ったのはエルダだった。
自らの始祖を見上げてリオネスはじっと黙り込んでいる。
その眼は一歩も譲らないぞと訴えていた。
「止めはしない。きたいのならくればいい。どうやらそなたにはその資格がありそうだ」
「資格? なにそれ? ボクらはただ親として、危険な真似をしようとしている一樹が、心配なたけだよ? それで資格なんていらないよ。親が子供を心配するのに資格がいるの?」
堂々としたものである。
言葉の意味を理解していないリオネスに、エルダはそっと笑った。
「いずれわかる。では参ろうか?」
「アレス。あなたもいらっしゃい」
「母上?」
それまで見ていることしかできなかったアレスは、急に名を呼ばれ困ったような声を出す。
父であるレオニスまで頷いている。
「そうだね。そろそろいいだろう。戻っておいで、アレス」
「でも、わたしはまだ未熟で」
「これからマルス兄上が成すことを、その眼で確かめてごらん。同じ水を操る者として、それは君の役に立つから。伝説の方の強さをその眼で確かめて自分で役立てなさい」
「それはわたしにも水の神殿にいろと?」
頷く両親にちょっと困ったが、一樹がとうやって海さえ干上がる地殻変動を起こすほどの水不足を回避するのか、そのときにどんな力を使うのか。
それには興味があったし、伝説の長の強さも知りたかったから、黙って受け入れた。
自惚れかもしれないが、リオネスが行くなら、自分だってふたりの力になれるかもしれないし。
未熟だと言う事は理解している。でも、亜樹や一樹が死ぬのはいやだった。
両親や伯父たちには裏切り行為かもしれないが。
傍にいればつになれるかもしれない。
それにリオネスがいれば、いるんな知識を教えて貰えるし。
だから、アレスはエルシアたちに別れを告げると、黙って母に近付いた。
「翔と杏樹をよろしく頼むな、エルス」
「わかっているよ。安心しなさい、一樹」
「もし元の世界に戻してやれるなら、そうしてやってくれ。万が一の場合、ふたりもおれたちの影響を受けるから。この世界にいなければ、もしかしたら無事に一生を過ごせるかもしれない。ありがとうって翔のおかげで楽しかったってそう伝えてくれ」
この場にはふたりの姿はない。
一樹が無理に眠らせたからだ。
なにが起きるかわからなかったし、それにふたりを自分たちの問題に巻き込みたくなかったから。
なにも知らなければ、そして世界さえも違っていたら、上手くすればふたりはなにも知らず、なにも気付かないまま人間としてその生を終えることができるかもしれない。
この世界にいれば間違いなく巻き込まれ、最悪の場合だと亜樹が覚醒したら、その余波を受けて、必ず消滅する。
わかっているなら、元の世界に戻してやりたかった。
「そうだね。なんとか近い内に戻そう。水不足が本格的になる前なら、そのていどの力を使う余裕はあるだろうからね」
「杏樹に幸せになれって伝えてくれる、エルシア?」
「亜樹」
「オレはもう傍にはいてやれないけどいつも思ってるからって。もう守ってやれないけど、いつも大好きだからって。守ってくれるだれかを自分で見つけて幸せになれって、オレが多っていたって伝えてくれる?」
「もう元の世界に戻るつもりはないんだね、亜樹は」
「戻れないよ、幸せな日々だったけど。もうあのころには戻れないよ。オレが変わってしまったから」
「亜樹」
「それにオレが戻ったら、多分一樹のバカもついてくるから、そうしたらこの世界は、また水が足りなくなるだろ?」
苦笑した言葉に一樹が軽く優しい仕種で、亜樹の頭を小突いた。
「水神マルスを守護に持つオレの運命だと思うしかないよね」
「そうだね。私たちのことまで気遣ってくれるんだね、亜樹は。そんな事態ではないだろうに」
「一番辛いのは亜樹なのに。一樹が言っていたように大賢者はお人好しだね。長生きはできないタイプだ。優しすぎるよ、亜樹」
ふたりに交互に言われて亜樹は意外そうな顔をした。
「え? オレは優しくないよ?」
自覚のない亜樹にその場にいた者が、一斉に苦笑した。
全員が同じ顔をしたので、亜樹は戸惑っている。
「ほんとにオレは優しくなんてないんだよ。いつだって自分の意思を貫いただけだから。それでだれかを傷つけても」
「無自覚って怖いね」
リオネスがやれやれと言いたげに呟いて、亜掛は彼を見た。
「きみが言っている自分の意思を貫くことがすべて周囲のためになっているんだよ、亜樹? きみはいつも自分を犠牲にして周囲を優先するんだから。だれかを傷つけた? そう思っているのはきっときみだけだよ。だれに訊いても君が人を傷つけたことはないっていうよ、きっとね」
「でもオレは」
「なにを気にしてそういうのかは、ボクは知らないけど、そもそも異世界人の亜樹には関係がないし、元の世界に思ってしまえば影響も受けない。それでもきみはそう言った。どうしてそれがわからないかな? 究極のお人好しだよ、きみ?」
リオネスは救いがないと言いたげに苦笑していた。
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