弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十四章 たったひとつの真実

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「答えになっていない。わたしはそなたの気持ちを聞いているのだ」

「マルスの力を完璧に引き出せたら、答えはわかると思う」

「ほお」

「答えをもらおうか、風神エルダ」

 見上げてきた亜樹に問われて、エルダは暫く沈黙し、ややあって弟たちのほうを振り向いた。

「みなはどう思う? さすがにわたしひとりの判断で決めるわけにはいかぬ。事は長殿の身柄に関することだからな。受ければマルスを束縛することはできなくなる。自由気儘なマルスがどこに行くか、見当もつかぬな」

「条件としては悪くはないかと思いますが?」

「ラフィン兄さま!」

 食い下がってくるレダに微笑みかけて、ラフィンは自分の意見を口にした。

「マルス兄上を拘束しようとしたら、それこそ我々は己の消滅をかけなければならない。おまけに兄上が力を発揮するために、大賢者殿の身柄も。最悪兄上と大賢者殿の力が協力し反撃するか、或いは大賢者殿の力だけでも、束縛に耐えかねて暴走した場合、我々は消滅して世界は滅亡する。ならば悪い条件ではないかもしれない」

「それに私たちにとっての至上の存在であるマルス兄上の身柄を要求するなら、こちらも条件を出せばよろしいのではないですか?」

 レオニスの意見にエルダが「なるほど」と呟いた。

「どんな条件にするつもりなの、レオニス兄さま?」

「大賢者殿の代償はその生命というものを省けばあまりに曖昧。もしそれが可能だとしたら、大賢者殿が伝説通りの力を取り戻すことが不可欠」

「確かに。それでどうせよと?」

「大賢者殿には事が解決するまでのあいだ、マルス兄上と共に水の神殿にご滞在頂くいうことで如何でしょうか?」

「水の神殿では好都合という気もするが?」

「今回の危地を凌ぐためには場所は水の神殿でなければ困りますから。その代わり私たち5人が、入れ代わり立ち代わり監視役を努める。大賢者殿が己の出した条件を満たすことができるかどうかを確認するために。そうして記憶と力が戻ったら、即実行に移して頂く。それが実現した段階で兄上の身柄は自由。これではいかがでしょうか、エルダ兄上?」

 言われてエルダは暫く唸っていた。

 なにが得か考えているように。

「ということらしい。これがわたしたちの総意。受けることができるかね、大賢者殿?」

「別にオレはどこにいても構わないから。いっそのことオレが力を暴走させても、ある程度抑えのきく者が揃っている神殿のほうが好都合かもしれないな。制御を覚えるまでは頻繁に暴走
するだろうし」

「そなた可愛い顔をして恐ろしいことを平然と口にするな? その小さな体からその度胸。一体どこからくるのだ?」

 心底恐ろしいとエルダが言っている。

 可笑しくて亜樹は肩を震わせた。

「オレが生き残ることを考えてないからじゃないか?」

「‥‥‥」

「亜樹! おれを無視して話を進めるなっ。おれはそんなことは受け入れないからな。おれは同意しない! 絶対に!」

「一樹」

「おまえがなにを考えてるかわかってるよ。どうやっておれの力を蘇らせるつもりかも。でも、それはおれも同意しなければ意味がない。おまえを失うくらいなら、おれは同意しないぞ?」

「‥‥‥」

 苦い表情で亜樹が黙り込むと、エルダが割り込んだ。

「マルス。なにを血迷っている? どういう意味かは知らぬが、それではそなたが世界を崩壊させるようなものだ。わかっているのか?」

「亜樹と世界。どちらかひとつを選べと言うなら、おれは亜樹を選ぶ」

「マルス」

「亜樹がいないなら生きている意味がないっ。それでは世界が無事でもおれには無意味なんだ。亜樹が犠牲になって生き残った世界なんて、今度はおれが滅ぼしてやるよ」

「マルスっ」

 可能だと知っているからエルダの顔色は真っ青だった。

 一樹の脅しは亜樹がすべての条件を満たし、自分の身柄が自由になった場合を想定して言っている。

 その場合、一樹の力は完璧に蘇っていて制約を与える亜樹がいないとなると、ごこまで暴走するかわからない!

 世界中の水が反乱を起こせばどうなるか、神々なら想像するまでないことだった。

 世界救済? それがどれほどの価値があるんだ?

 かつて世界教済を行ったがために、セシルを失った一樹、マルスにとって同じ悲劇を繰り返すつもりがなくても力は購手に暴走する。

 絶望に耐えかねて。

 何故それがわからない?

「バカだなあ、一樹は」

 亜樹の手が顔に触れて、一樹がムッとしたように睨んだ。

「まだオレが死ぬと決まったわけじゃない。現実を見つめろよ。これが最上の方法なんだってわかってるだろ? これしか方法がないんだよ」

「認めない!!」

「一樹!」

 亜樹がどう説得しても一樹は受け入れなかった。

 それこそ今回の危機も見捨てると吐き捨てたほどだった。

 その強情ぶりは凄まじく、だれも間をかけられなかった。

「おまえ、いい加減にいるよ!」

 威勢よく怒鳴ったかと思うと亜樹が一樹の顔を叩いて、神々はぎょっとして身を引いた。

 あのマルスを叩くなんて命知らずな。

「オレはただ書られるだけの存在かった?おまえが地に立ってるのがわかってて、オレが平然
と見ていられると本気で思ってんのか? だったら絶交だからなっ! オレだってお前を助けたいんだよっ! なんでそんな簡単なことがわからないんだよう? 神々の長として束縛されて過ごすなんて、おまえには苦痛だろ? 水は自由なんだから!」

「亜樹」

 混乱しているような一樹の頭を、亜樹はもう一度、今度は力一杯叩いた。

 性別が変わってしまったし、もともと腕力はないので、ほとんど痛くないだろうが。
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