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第十四章 たったひとつの真実
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「少なくとも取引の材料にはなると思ってる。それだけの価値もあると思うし。そちらが受け入れないなら、オレにも考えがある」
「取引の次ぎは脅しか。さすがに普通の人間ではないらしい。一体何者だ?」
「さあ?」
亜樹があっさり言ったので、五人の神々はみんな面食らったような顔になった。
それは見守っているエルシアたちにしても同じだったのだが。
「オレが何者か、確認したければマルスのようにオレの血でも飲んでみる? そうしたらその身でわかるかもしれないよ?」
「一部縄ではいかぬか。とりあえず条件を聞こう」
「ふたつめは水不足が起きる具体的な時期と、そして回避に必要な最低限の期限を知りたい」
「なぜだ?」
「さっきオレにならマルスの力を完璧に引き出せると言ったけど、それにはすこし時間がいる
んだ」
「時間が?」
「すぐにと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、それを知りたい。今すぐと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、知りたいんだ」
「なるほど。まだあるのか?」
「これで最後だよ。さっきも言ったけど事が終わったら、マルスは解放してやってほしい。神々の長として東縛するのはなしだ」
「それは出すぎた真似ではないのか? これは神々の問題だ」
「そのマルスが力を発揮するために、オレの存在が不可欠でも?」
「‥‥‥」
「オレが無関係だとは言わせない。今回のことにしたって、例えオレがマルスの力を蘇らせても、大体オレが同行しないと意味がないはずだ。そちらもそうやってオレを縛りつけるのに口出しするなって? 神っていうのは人の心を無視するほど徹慢なのか?」
亜樹の指摘にエルダは悔しそうな顔をした。
長代理であるエルダが直接、受け答えしているので、他の神々は口を出さないが、みんなたぶん事が終わっても一樹を解放する気はなかったのだろう。
案の定だ。
「その代わり創世のころのように、オレひとりが束縛することもしない」
「どういう意味だね?」
「どう動こうとマルスの自由ということだ。オレの傍にいたいというならいればいいし、どこか違うところに行きたければ行けばいい。選択権はマルス本人のもの。それを忘れないでもらいたい」
「ふむ」
どこか面白がるような眼で亜樹を見つめてから、エルダは笑いながら口にした。
「今回の危機を回避できるというなら、確かに条件を呑むだけの価値はある。だが、それはふたつめの条件に関してだけだ」
「なぜだ?」
「マルスに関しては神々の領域。そなたがどう言おうと簡単に諦めるわけにはいかぬのだ。大賢者殿。マルスがいなくてはもうどうしようもないところまできている。代償としては大きすぎるな。我らの長をそのていどだと思ってもらっては困る」
「そのマルスの力を引き出すために、オレが払う代償だって決して小さなものじゃないんだ。なにも犠牲にせずに引き出せるわけじゃない。それでも?」
「できぬ相談だ。マルスは我等にとって欠かせぬ存在だからな」
「なら、世界の存続を秤にかけてもマルスを選ぶ、か? 風神エルダ?」
低く笑った亜樹の脅しに、エルダは息を呑んだ。
「なんと?」
「マルスを束縛しないと誓うなる、オレはどんな代償を払っても、もしそのために死ぬようなことになっても、世界は救ってみせる。そのために必要だというなら、力も覚醒させる。記憶も取り果す。どんな手段を使かってもかつての力を取り戻して、世界を救済することを誓う。世界が均衡を取り戻せるようにしてみせる」
「そなたにならそれができると?」
「できるかできないか、それはやってみないとわからない。不確定な約束をするほど無責任なことはないと思うからな。だが、マルスから聞いた話を総合し、自分なりに予測するとおそらく可能だ」
「大した自信だな。記憶もない身でありながら。それが大賢者と呼ばれた所以か? 人の子よ」
「人、か」
俯いた亜樹にエルダが怪訝そうな顔になる。
「もしそうならオレがマルスを傷つけることはなかった」
「‥‥‥」
「たぶんオレは人間じゃない。もしかしたら世界の理から外れた存在かもしれない。そのくらいの自覚はオレにだってあるん
「だから、断言できると?」
「言ったはずだ。断言はできないと。だが、生命と引き換えでも叶える努力はする。それにオレは言ったはずだ。オレはもうマルスを束縛しないと。どうしてもマルスの力が必要なときは直接マルスと連絡を取ればいい。炎の女神、レダの説明によれば、マルスが神殿という場に縛られるほどの事態は、よほどのことでないと起きないとのことだった。だったらマルスがどこにいようと関係ないはずだ。それこも長子のマルスがいないと、神としての統一さえ取れないのか?」
皮肉の笑みを投げる亜樹に睨まれ、エルダが無然とした顔になる。
風神が小さな子供にされている様を、弟妹たちは驚いた顔で見ていた。
「条件はマルスの身柄を指束しないこと。代償はオレの生命と世界の存続。それでは不足か?
風神エルダ?」
「参ったな。この小さな子供がそこまで言うとは」
大袈裟に肩を求めてからエルダは亜樹の顔を覗き込んだ。
「そなたにとってマルスはなんなのだ、大賢者殿? ただマルスを自由にするためだけに、命も捨てるとは」
「かつてオレがマルスに与えた苦痛に比べれば大したことではないと思う。それがオレの責務だと思うから果たすだけだ」
「取引の次ぎは脅しか。さすがに普通の人間ではないらしい。一体何者だ?」
「さあ?」
亜樹があっさり言ったので、五人の神々はみんな面食らったような顔になった。
それは見守っているエルシアたちにしても同じだったのだが。
「オレが何者か、確認したければマルスのようにオレの血でも飲んでみる? そうしたらその身でわかるかもしれないよ?」
「一部縄ではいかぬか。とりあえず条件を聞こう」
「ふたつめは水不足が起きる具体的な時期と、そして回避に必要な最低限の期限を知りたい」
「なぜだ?」
「さっきオレにならマルスの力を完璧に引き出せると言ったけど、それにはすこし時間がいる
んだ」
「時間が?」
「すぐにと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、それを知りたい。今すぐと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、知りたいんだ」
「なるほど。まだあるのか?」
「これで最後だよ。さっきも言ったけど事が終わったら、マルスは解放してやってほしい。神々の長として東縛するのはなしだ」
「それは出すぎた真似ではないのか? これは神々の問題だ」
「そのマルスが力を発揮するために、オレの存在が不可欠でも?」
「‥‥‥」
「オレが無関係だとは言わせない。今回のことにしたって、例えオレがマルスの力を蘇らせても、大体オレが同行しないと意味がないはずだ。そちらもそうやってオレを縛りつけるのに口出しするなって? 神っていうのは人の心を無視するほど徹慢なのか?」
亜樹の指摘にエルダは悔しそうな顔をした。
長代理であるエルダが直接、受け答えしているので、他の神々は口を出さないが、みんなたぶん事が終わっても一樹を解放する気はなかったのだろう。
案の定だ。
「その代わり創世のころのように、オレひとりが束縛することもしない」
「どういう意味だね?」
「どう動こうとマルスの自由ということだ。オレの傍にいたいというならいればいいし、どこか違うところに行きたければ行けばいい。選択権はマルス本人のもの。それを忘れないでもらいたい」
「ふむ」
どこか面白がるような眼で亜樹を見つめてから、エルダは笑いながら口にした。
「今回の危機を回避できるというなら、確かに条件を呑むだけの価値はある。だが、それはふたつめの条件に関してだけだ」
「なぜだ?」
「マルスに関しては神々の領域。そなたがどう言おうと簡単に諦めるわけにはいかぬのだ。大賢者殿。マルスがいなくてはもうどうしようもないところまできている。代償としては大きすぎるな。我らの長をそのていどだと思ってもらっては困る」
「そのマルスの力を引き出すために、オレが払う代償だって決して小さなものじゃないんだ。なにも犠牲にせずに引き出せるわけじゃない。それでも?」
「できぬ相談だ。マルスは我等にとって欠かせぬ存在だからな」
「なら、世界の存続を秤にかけてもマルスを選ぶ、か? 風神エルダ?」
低く笑った亜樹の脅しに、エルダは息を呑んだ。
「なんと?」
「マルスを束縛しないと誓うなる、オレはどんな代償を払っても、もしそのために死ぬようなことになっても、世界は救ってみせる。そのために必要だというなら、力も覚醒させる。記憶も取り果す。どんな手段を使かってもかつての力を取り戻して、世界を救済することを誓う。世界が均衡を取り戻せるようにしてみせる」
「そなたにならそれができると?」
「できるかできないか、それはやってみないとわからない。不確定な約束をするほど無責任なことはないと思うからな。だが、マルスから聞いた話を総合し、自分なりに予測するとおそらく可能だ」
「大した自信だな。記憶もない身でありながら。それが大賢者と呼ばれた所以か? 人の子よ」
「人、か」
俯いた亜樹にエルダが怪訝そうな顔になる。
「もしそうならオレがマルスを傷つけることはなかった」
「‥‥‥」
「たぶんオレは人間じゃない。もしかしたら世界の理から外れた存在かもしれない。そのくらいの自覚はオレにだってあるん
「だから、断言できると?」
「言ったはずだ。断言はできないと。だが、生命と引き換えでも叶える努力はする。それにオレは言ったはずだ。オレはもうマルスを束縛しないと。どうしてもマルスの力が必要なときは直接マルスと連絡を取ればいい。炎の女神、レダの説明によれば、マルスが神殿という場に縛られるほどの事態は、よほどのことでないと起きないとのことだった。だったらマルスがどこにいようと関係ないはずだ。それこも長子のマルスがいないと、神としての統一さえ取れないのか?」
皮肉の笑みを投げる亜樹に睨まれ、エルダが無然とした顔になる。
風神が小さな子供にされている様を、弟妹たちは驚いた顔で見ていた。
「条件はマルスの身柄を指束しないこと。代償はオレの生命と世界の存続。それでは不足か?
風神エルダ?」
「参ったな。この小さな子供がそこまで言うとは」
大袈裟に肩を求めてからエルダは亜樹の顔を覗き込んだ。
「そなたにとってマルスはなんなのだ、大賢者殿? ただマルスを自由にするためだけに、命も捨てるとは」
「かつてオレがマルスに与えた苦痛に比べれば大したことではないと思う。それがオレの責務だと思うから果たすだけだ」
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