弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十四章 たったひとつの真実

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「一樹?」

 不安になって亜樹が名を呼ぶ。

「信じていただけましたか、マルス兄上」

「信じるしか、ないようだな」

 苦い気分で呟いて、一樹はじっと床を凝視した。

「どうだったんだい、一樹?」

 問いかけるエルシアに一樹はぼそっと答えた。

「最悪のパターン」

「え?」

「どういう意味?」

「昨夜、亜樹に訊かれて一応、仮説としては何十万人という単位での人間の死。大部分の大地の砂漠化というものを挙げていたんだけど」

「事実だったと?」

 真っ青になって問いかけるエルシアに、一樹はかぶりを振った。

「もっと最悪」

「悪い冗談はやめてほしいよ、一樹」

「仕方ないだろ? このままなんの手出しもしなければ、海が」

 彼が全部言えなかったその先に気づき、すべての者が絶句した。

「レオニス。おまえ、こんな状況でなんこもないのか?」

 気掛かりそうにレオニスを見る一樹は、弟を気遣う眼をしていた。

「辛いのは私だけではありませんよ、兄上。ラフィンだってシャナだって影響は受けてますから」

「それはそうかもしれないけど。おまえとラフィンが受ける影響は」

「同情はやめてください、マルス兄上!」

「ラフィン」

「同情ではなにも変わらない。それに影響を受けてしまうのは、わたしやレオニス兄上が未熟だからです。同じ状況であなたは一番影響を受けるべきさなたはなんの異響けていらっしゃらないというのに。それどころか、この事態に気づいてさえいなかった。でなければ嘘だと疑うことはなかったでしょう?」

「疑ったことは悪かった。おれも自分の立場が立場だから、ちょっと疑心暗鬼になってたみたいだ。それにおまえが指摘するとおり、おれはなんともなかったから、まさかここまで酷いとは思わなかったんだ」

 本来なら一番に影響を受けて、事態を正確に見抜くのは、マルスの役目だ。

 だから、疑ったのだが、まさかここまでとは。

「マルスが気づけなかったのも無理はない」

「エルダ」

「わたしとて気づいてはいなかった。勿論シャナも。このことはレオニスとラフィンのあいだで秘されていたからな。マルスが自分の神殿にいれば、おそらく一番に気付いたはずだ。だが、今のマルスは神殿を離れて永い。しかも水神としての力も温存してきている状態だ。少々のことでは影響を受けない余裕があるのだろう。それにマルスが普通に生きてしても、おそらくそなたは影響を受けまい。格も力も我等とは違いすぎるからな、長殿。でなければそなたは最強と呼ばれ伝説にはならなかった」

 断言されて一樹は困ってしまった。 

 これでいやだと言ったらどうなるだろう?

 なんとかしてやりたいとは思う。

 だが、できないのだ。

 本当に切実に望んでもできない一体どうすれば。

 そのとき不意に人影が働いた。

 それが亜樹だと気づいたのは、亜樹がエルダの目の前に立ってからだった。

「亜樹っ」 

「暫く黙っていてくれないか、一樹?」

 振り向いた亜樹に言われてなにか悪い予感がした。

 だが、あの眼を見ていると動けない。

 覚悟を決めた者の眼だ。

 一体なにを考えているんだ、亜樹?

「一週間のあいだに変わったようだな、大賢者」

「セシルだ。風神エルダ」

「ふむ。それで何用か?」

「一樹。マルスに今回の危機を覆げるように、オレが力を貸してもいい」

「亜樹!それ以上口にするな!」

 気づいた一樹が止めようとしたようだが、話し合いを邪麗されたくなかったのか、レオニスとラフィンに両腕を掴まれ止められていた。

「離せよ、ふたりとも!」

「冷静になってください、兄上」

「助かるよ。海神レオニス。そして湖の神ラフィン。一樹は止めるだろうから」

 振り向いた亜樹が笑う。
 
 なにもかも覚悟してもう決めてしまった眼だった。

 覚悟のほどが読めて動けなくなってしまう。

「そなたになにができる? 伝説の大賢者殿?」

「オレにしかできないことがある。それとオレが今回の危機を救うために、マルスの力を引き出すための条件を出したい」

「神々と取引をしようと? 面白いものだ。これが伝説の大賢者殿か。さすがに度胸が違うようだ」

「ひとつはマルスを長として引き止めることはしないこと」

 その言葉には神々は答えなかった。

「その代わり今回の危機は必ず凌いでみせる。どんな代償を払っても。誓ってもいい」

「そなたにそれができると?」

「言ったはずだ。オレにしかできないことがあると。オレ以外ではマルスの力は引き出せない。逆に言うとオレになら完璧に引き出すことができるんだ。それはマルス本人から確認を取った。生憎オレはまだ記憶が戻っていないから、自分に秘められた可能性というものが予測できないものでね」

「それだけ堂々と神々と渡り合いながら記憶がないと? 不思議な子だ」

 エルダが感心していて亜樹は笑いたくなった。
 
 平然としてるわけじゃない。ビクビクしていないと言ったら嘘になる。

 ただ必死なだけだった。

「ふたつめの条件は」

「一体幾つ条件を出すつもりだ? それだけの価値が己にあるとでも言うつむりか?」
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