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第十四章 たったひとつの真実

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 正直なところ、一樹がそこまで思い詰めて、亜樹を探していたのだとは思わなかったのだけれど。

 だって出逢ってからだって、一樹は特にそういう態度は見せなかった。

 確かに週保護すぎるなあとは思っていたし、性別について知ってからは、一樹の態度が行き過ぎているから、もしかして? と疑ったこともある。

 全然、気づいていなかったとえは嘘になるから。

 自惚れかな、とも思っていたのが現実だけど。

 だから、なんでもない態度の裏ですべてを知りながら、人間として振る無い、亜樹のことは知らない振りをして、演技を重ねていた一樹の心情を知ったときは、ちょっと自分を責めたけど。

 明かせる事のできる一端だけを明かし、言えないことは嘘で覆って演技して。

 なんでもない振りで一樹は、どんな気分で自分のことすら忘れてしまった亜樹を見ていたのだろう?

 そのことは怖くて聞けなかった。

 そうして空が白みはじめるころ、語ることが尽きたのか、急に部屋に静寂が戻ってしばらく一樹に抱かれたままじっとしていた。

 すると急に重くなってきて振り向くと、一樹が眠っていた。

 なんにも警戒していない顔をしてぐっすりと。

 亜樹の肩に凭れ掛かるようにして。

「一樹?」

「ん?」

 ほんやりしたような声が返る。

 正体が水神マルスだから、気配には敏感なのだろう。

 なんとなくだが返事はしてくれる。

 でも、起きてないな、これは。

 これが神々の長?

 最強と呼ばれた伝説となった神?

 なんか嘘みたいだ。

 だってこんなに無防備な顔で眠ってる。亜樹のことを疑うこともなく、すべてを委ねきって。

 そんな神様いるのか、ほんとに?

 でも、これだけ社大な嘘がつけるとしたら、かなりの大ボラ吹きだ。

 一樹は確かに言えないことは嘘で覆い、気づかれないように演技してきたかもしれないが、自分の感情には素直だから、嘘ではないんだろう。

「水か」

 なるほどねえ。

 体温が低いわけだ。司るものが水なんだから、体温が高いわけないんだ。

 必然的に低くなる。

 それになんでころころ態度が変わるのか、それもわかった気がする。

 さっき笑ってたと思ったら急に怒ったりしてさ。

 でも、奔流となった河の流れが止まれないように、一樹は情熱的だ。
 
 一度こうと決めたら逆らっても無駄だし。

 それもすべて水神だったからだと言われれば納得できる。

 水ほど扱いにくく気まぐれなものはないから。

 それに水の勢いが凄まじいように(洪水とか、嵐とかさ)揺らがない情熱も秘めている。

 相反しているけどその基本の特徴が水だったなら理解できることだ。

「それになんで水が太祖で最強なのか、わかる気がするな」

 その次に強いのがなぜ風なのかも。

 水は様々に形を変える。

 言ってみれば海だって湖だって水には違いないんだ。

 それだけじゃない。自然に存在するのをあげただけでも、他にも水が変化したものとして雨とか、雪、そういったものもある。

 つまり水はすべての基なんだ。

 人間だってその大半が水でできているし。

 そう考えるとなんかオレ凄いことになってないか?

 肩に凭れ掛かって眠ってるの、水の神だよ?

 オレなんかでいいのか、ほんとに?

 それにオレ一樹のことほんとはどう思ってるんだろう?

 きらいじゃないきらいじゃないから困ってたし、どうしてなのかわからなくて、一樹の態度に傷ついて、誤解していたわけだし。

 じゃあ、オレ、一樹のこと好きなのか?

 一樹がマルスに戻ったら神に戻ったら、こうして傍にいてくれない?

 一樹がいなくなる?

 そう考えたらぞっとした。

 傍にいてくれても、たぶん一樹が水を司る神々の長であり太祖であることは、おそらく変わらない現実なんだろう。

 宿命からは逃れられない。

 オレが大賢者、セシルとしての宿命から逃れられないように。
 
 一樹はオレの性別はだれかを本心から愛したとき、この人こで生産の伴侶だと認めたとき、相手の性別に合わせて変わると言っていた。

 じゃあ一樹を選んだら、オレは女性化する?

 オレが女の子になる?

 考えてもピンとこない。

 でも、今のオレだと一樹の言っていた最後の方法は使えない。

 今のオレでは一樹を受け入れられない。

 だって男でも女でもないんだから。

 別に拒んでなくても今のままでは成立しないんだ。

 どうするんだ?

 このままだとこの世界は大打撃を被ることになる。

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