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第十三章 禁断の果実
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しおりを挟む 世界を自分の生命と引き換えに救ったのだと。
もしマルスがそれをしなくても、セシルが救ったのではないか?
それに崩壊から救われたと言っても、マルスひとりの力で救われたわけだから、綻びはあったと思う。
同時にセシルが移ったことで、一番重要な位置に立つべき長であるマルスが、神という立場からは、身を引かざるを得なくなった。
それは次ぎなる危機を迎える結果となったはず。
つまりセシルもまた世界を救うために存在していたことになる。
知らされた出生の秘密はあまりにも重かった。
「おれが知っている範囲で答えると、亜樹が怒っていたセシルの結婚な。あれはセシルの意思でもなかったんだ」
「だって自分で決めたんだろ?一樹を傷つけたって自覚があるくらいなんだ。納得していない
はずがないよ」
「だけど、セシルはそれを望んでいなかった。もしおれが人の形態を取っていたら、神のまま
だったとしても、セシルはおれを選んでくれたかもしれない」
「それってセシルが結婚することは、絶対に必要なことであり、相手がだれであれ結婚しないという選択は許されなかったってこと?」
「セシルの本音としては、おれのことをどう思っていたにせよ、おれが聖獣じゃなく、人の形態を取っていたら、おれを選んだと思う。まったく好意を持っていない選ばれただけの相手より、すこしでも身近なおれのほうが、セシルだってましだっただろうから」
「なんか話を聞いていると政略結婚みたいな気がする」
憮然とした亜樹の口調におかしくて笑った。
「それに近いものがあるかもしれないな。セシルには子供を残す義務があったんだ」
「それは母さんのこと?」
まだ信じていない口調だったが問われて肯定した。
「ただセシルの血を引いて生まれる子供っていうのは、女であれ男であれ純粋な人ではないん
だ」
「それだけ特別なセシルの血を引いていたら当たり前のことじゃないのか?」
「違うんだ。亜樹。セレーネは、亜樹の母親は人ではなかったと言ってるんだ」
「亜樹には残酷なだけだと知っていても、もう隠さないと決めたから打ち明けるけどな。セシルの子供というのは、セシルの転生を生み出すための器にすぎないんだよ」
「オレを産むためだけに生まれ存在していた?」
母が自分を産むためだけに生まれ、そのために死んだのだとしたら、亜掛は自分を許せない。
それでは亜樹が母を嫌牲にしたも同じだ。
「しかもセシルの子供が自分の親であるセシルの転生を産み落としたとき、死ぬことは生まれる前からわかっていた」
「だったらオレは」
「亜樹が自分を責めるようなことじゃない。セシルだって器にすぎない娘だと知っていても、
セレーネのことは愛してた。だから、普通に生きて死んでくれることを願ってた。絶対に自分の転生を産むことのないようにと。それがセシルの遺言だった」
でも、転生するために子供を作ってしまった後なら、いくら取り繕ってもそれが現実にならないという保証はない。
現実に母は亜樹を産みその直後に亡くなっているではないかっ!
セシルが自分自身だとしたら、いったいだれを責めればいいのか。
責めるべきなのは自分なのか?
亜樹は生まれるべきではなかったのか?
「亜樹がなにを考えているのかわかるような気がするけど、亜樹がセシルの立場なら、個人的な感傷と、世界の存続を枠にかけられるのか?」
「世界の、存続?」
「セシルが転生が必要だと気づいたのは、再び世界が崩壊へと向かったとき、それを救うため
だった」
「それってオレに世界救済をしろってこと?」
愕然とした問いには答えられなかった。
亜樹を追い詰めるだけだと思ったので。
「たぶんセシルはそういう方法でも取らないかぎり転生できなかったんだと思う。ある意味セシルも神だったのかもしれないな。おれたら創始の神とは系列を異にする」
「それはオレがセシルとしての力を取り戻したとき、もしかしたら新たな神になる可能性もあ
るってこと?」
「その可能性は否定できない」
断言されて答えに詰まった。
もうなにを言えばいいのかわからない。
「亜樹に関することでおれに説明できるのはここまでだ。だから、ここからはさっき亜樹が言ったまだ残っているおれについての問題について話そうと思う」
こくんと頷かれ、一樹はため息をついた。
「エルダたちと逢ったことは覚えてるか?」
「なんとなく」
「亜樹が気絶してから、おれはエルダたちと逢ったんだ。そのときに世界が大規模な水不足に陥ること、それを救えるのは水神であるおれだけだということ。もうレオニスにもラフィンにもおれの代理はできないという現実を突きつけられた」
「やっぱり帰還を迫られたんだ?」
傍からいなくなるのを恐れるように、亜樹は一樹の服の裾をぎゅっと握った。
意外な気がして振り返る。
もともと少女めいた美貌だったけどそこにいる亜樹は、どこから見てもひとりの可愛い女の子だった。
意識が変わっていなかったら、こんな仕種は見せなかっただろう。
本当に亜樹は女性化しつつあるのか?
だとしたらどんなに嬉しいか。
邪念を振め払い意識を切り換えて話を元に戻した。
「だけど、さっきも言ったけどな。今のおれではエルダたちが望んでいる真似はできないんだ。してやりたくてもできない。だけど、エルダたちは引かなくて明目にはどうするか、その答えを出さないといけないんだ」
「それってエルシアたちが散々確認を取っていた後何日っていうあれ?」
「そういうこと」
もしマルスがそれをしなくても、セシルが救ったのではないか?
それに崩壊から救われたと言っても、マルスひとりの力で救われたわけだから、綻びはあったと思う。
同時にセシルが移ったことで、一番重要な位置に立つべき長であるマルスが、神という立場からは、身を引かざるを得なくなった。
それは次ぎなる危機を迎える結果となったはず。
つまりセシルもまた世界を救うために存在していたことになる。
知らされた出生の秘密はあまりにも重かった。
「おれが知っている範囲で答えると、亜樹が怒っていたセシルの結婚な。あれはセシルの意思でもなかったんだ」
「だって自分で決めたんだろ?一樹を傷つけたって自覚があるくらいなんだ。納得していない
はずがないよ」
「だけど、セシルはそれを望んでいなかった。もしおれが人の形態を取っていたら、神のまま
だったとしても、セシルはおれを選んでくれたかもしれない」
「それってセシルが結婚することは、絶対に必要なことであり、相手がだれであれ結婚しないという選択は許されなかったってこと?」
「セシルの本音としては、おれのことをどう思っていたにせよ、おれが聖獣じゃなく、人の形態を取っていたら、おれを選んだと思う。まったく好意を持っていない選ばれただけの相手より、すこしでも身近なおれのほうが、セシルだってましだっただろうから」
「なんか話を聞いていると政略結婚みたいな気がする」
憮然とした亜樹の口調におかしくて笑った。
「それに近いものがあるかもしれないな。セシルには子供を残す義務があったんだ」
「それは母さんのこと?」
まだ信じていない口調だったが問われて肯定した。
「ただセシルの血を引いて生まれる子供っていうのは、女であれ男であれ純粋な人ではないん
だ」
「それだけ特別なセシルの血を引いていたら当たり前のことじゃないのか?」
「違うんだ。亜樹。セレーネは、亜樹の母親は人ではなかったと言ってるんだ」
「亜樹には残酷なだけだと知っていても、もう隠さないと決めたから打ち明けるけどな。セシルの子供というのは、セシルの転生を生み出すための器にすぎないんだよ」
「オレを産むためだけに生まれ存在していた?」
母が自分を産むためだけに生まれ、そのために死んだのだとしたら、亜掛は自分を許せない。
それでは亜樹が母を嫌牲にしたも同じだ。
「しかもセシルの子供が自分の親であるセシルの転生を産み落としたとき、死ぬことは生まれる前からわかっていた」
「だったらオレは」
「亜樹が自分を責めるようなことじゃない。セシルだって器にすぎない娘だと知っていても、
セレーネのことは愛してた。だから、普通に生きて死んでくれることを願ってた。絶対に自分の転生を産むことのないようにと。それがセシルの遺言だった」
でも、転生するために子供を作ってしまった後なら、いくら取り繕ってもそれが現実にならないという保証はない。
現実に母は亜樹を産みその直後に亡くなっているではないかっ!
セシルが自分自身だとしたら、いったいだれを責めればいいのか。
責めるべきなのは自分なのか?
亜樹は生まれるべきではなかったのか?
「亜樹がなにを考えているのかわかるような気がするけど、亜樹がセシルの立場なら、個人的な感傷と、世界の存続を枠にかけられるのか?」
「世界の、存続?」
「セシルが転生が必要だと気づいたのは、再び世界が崩壊へと向かったとき、それを救うため
だった」
「それってオレに世界救済をしろってこと?」
愕然とした問いには答えられなかった。
亜樹を追い詰めるだけだと思ったので。
「たぶんセシルはそういう方法でも取らないかぎり転生できなかったんだと思う。ある意味セシルも神だったのかもしれないな。おれたら創始の神とは系列を異にする」
「それはオレがセシルとしての力を取り戻したとき、もしかしたら新たな神になる可能性もあ
るってこと?」
「その可能性は否定できない」
断言されて答えに詰まった。
もうなにを言えばいいのかわからない。
「亜樹に関することでおれに説明できるのはここまでだ。だから、ここからはさっき亜樹が言ったまだ残っているおれについての問題について話そうと思う」
こくんと頷かれ、一樹はため息をついた。
「エルダたちと逢ったことは覚えてるか?」
「なんとなく」
「亜樹が気絶してから、おれはエルダたちと逢ったんだ。そのときに世界が大規模な水不足に陥ること、それを救えるのは水神であるおれだけだということ。もうレオニスにもラフィンにもおれの代理はできないという現実を突きつけられた」
「やっぱり帰還を迫られたんだ?」
傍からいなくなるのを恐れるように、亜樹は一樹の服の裾をぎゅっと握った。
意外な気がして振り返る。
もともと少女めいた美貌だったけどそこにいる亜樹は、どこから見てもひとりの可愛い女の子だった。
意識が変わっていなかったら、こんな仕種は見せなかっただろう。
本当に亜樹は女性化しつつあるのか?
だとしたらどんなに嬉しいか。
邪念を振め払い意識を切り換えて話を元に戻した。
「だけど、さっきも言ったけどな。今のおれではエルダたちが望んでいる真似はできないんだ。してやりたくてもできない。だけど、エルダたちは引かなくて明目にはどうするか、その答えを出さないといけないんだ」
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