109 / 133
第十三章 禁断の果実
(9)
しおりを挟む
「おれも同じだよ、亜樹。おれが愛したのはセシルの魂で、別にセシル個人に執着していたわけじゃない。もし亜樹がどうしようもない性悪だとか、救いようのない可愛げのない性格だとか、そういう人に好かれない存在だったとしても、それがかつてのセシルと正反対だったとしても、同じ魂を持っているなら愛したよ。世界中が敵に回っても、おれが愛するのはおまえの魂なんだから」
「なんか照れるよ、一樹」
「別に大袈裟な例えじゃないんだぜ?」
「どういう意味?」
「さっき言っただろ? おれが現在も水神としての役割を放棄できない立場にあり、そういう枷を背負っていてもって」
「まさか一樹」
青さめた亜樹に苦い表情で頷いた。
「この世界はすでに限界にきていて、今それが水に現れている」
「呼び戻されてるのか? 戻ってきてくれって。マルスとして」
「正直に認めればそういうことになるな。今、大規模な水不足が発生するのが、ほぼ確定していて、それをなんとかできるのは、純粋に水を操ることができ、すべての水を統べる水神マルス。おれ以外にいないんだ」
「戻るのか? 神に」
問いかける亜樹の顔は泣きだしそうだった。
取り残されるとでも思っているのだろうか。
「戻る気はない」
「でも。そうしたら沢山の人が、水不足のせいで死んだりするんじゃないのか?」
「亜樹はおれに戻ってほしいのか? 神に」
やるせない問いに、亜樹はどう答えればいいのかわからないと、途方に暮れた顔をした。
亜樹がもし一樹に行ってほしくないと思っていても、世界を救うために自分を犠牲にする道を選んだセシルの転生者だ。
そんな自分勝手な意見は絶対に言えない。
「悪かった。追い詰めるつもりじゃなかったんだ」
やるせなく微笑むと、亜樹は俯いてしまった。
「正直に打ち明けると今のおれでは、エルダたちの期待に応えることはできないんだ」
「? どうして?」
「セシルに救われたことで、おれは一命を取り留め、獣に変じても生き残ることができた。同時にセシルの強い影響力で世界を救済する際に使い果たした力のほとんどを取り戻すこともできたんだ。ただ原因はわからないんだけど、セシルの血を飲んだせいか、それともセシルがそ
れだけ特別だったのか。それ以後、おれの力はセシルの存在と密接に関わりを持つことになったんだ」
「それオレにも当て嵌まってる?」
まだ実感までは沸いていないだろうが、一応、自分のこととしても認識し、訊ねてくる亜樹に頷いた。
「今の亜樹は力を制街できないし、ましてやかつてセシルとして持っていた数々の奇跡を起こした力のすべてを取り戻してもいないだろ?」
「うん。そんなに偉大な大賢者の転生とは思えないくらい、オレってなんにもできないよな」
「亜樹が未覚醒の状態だと、おれは水神マルスとしての本来の力を発揮できないんだ」
「オレのせい?」
泣きだしそうな亜樹にかぶりを振る。
「宿命的なものだから気にすることないよ。それに逆に言い換えると、おれは確かにセシルのおかげで命拾いし、色々な制約から解放され、神としては異端な存在になった」
「どうして異端なんだ? 持っている力が同じなら」
「エルダたちの力の源は人間たちの信仰。それがこの世界での神の概念。その信仰の衰えが世界を崩壊へと向かわせているんだ。世界を支えるべき創始の神々への信仰が薄れていくことで、エルダたちの力が削がれていき」
「確か一樹は、自分の力の源はオレ個人だって言った。それって」
「そう。すでに神の概念からは外れる存在。例え昔と同じ力が使えても、まったく同じように水を従えることができても、根本的なところでおれはエルダたちと存在意義が異なっているんだ。それでおれを水神として呼び戻そうとするエルダたちのほうが、おれにしてみればどうかしてるんだよ。おれはすでにこの世界においては、神じゃないんだから」
長い説明を受けて亜樹はしばらく黙っていた。
自分の中で知らされた情報を整理しようとするかのように。
一様は黙って待った。
亜樹が自分から答えを導き出すまで。
「大体のことはわかったけど一樹に関することは。まだなにか隠されてことがあるにしても、それは後で知りたい。オレはなぜここにいるんだ?」
「亜樹」
「セシルは世界を救った救世主なんだろ? そのために伝説の偉人とまで呼ばれ、古代の人物だっていうのに、未だに大賢者と言えばだれでも知っているくらいに知名度が高いんだ。そのセシルが世界が崩壊に向かっている今、ごこにいる意味は?」
自分の出生の秘密を知ったことで却って亜樹は、自分が信じられなくなってしまった。
セシルは確かに偉大な人物だったかもしれない。
世界を救った人物かもしれない。
でも、一樹の説明によれば一番繋がりの深い一樹ですら、セシルの正体はわからないということだった。
世界を支えていた神々の、それも一番力の強い長、未だに兄弟神たちから戻ってくれと懇願されるほどの力を秘めた神、水神マルス。
そのマルスを救えるほどの力。
そして変えてしまった力。セシルはあまりにも普通ではない。
しかもセシルが生きていた年代は達かなる古代にも関わらず、その孫に当たり同時にセシル本人が転生した姿である亜樹が、世界が崩壊に向かっている達かなる未来に誕生したこと。
これは不自然極まりない。
まるで世界の危機に合わせて転生したようだ。
セシルが生きていた時代もそうだ。
神々が姿を消すことで、世界は崩壊への道を辿ったと一樹は言っていた。
「なんか照れるよ、一樹」
「別に大袈裟な例えじゃないんだぜ?」
「どういう意味?」
「さっき言っただろ? おれが現在も水神としての役割を放棄できない立場にあり、そういう枷を背負っていてもって」
「まさか一樹」
青さめた亜樹に苦い表情で頷いた。
「この世界はすでに限界にきていて、今それが水に現れている」
「呼び戻されてるのか? 戻ってきてくれって。マルスとして」
「正直に認めればそういうことになるな。今、大規模な水不足が発生するのが、ほぼ確定していて、それをなんとかできるのは、純粋に水を操ることができ、すべての水を統べる水神マルス。おれ以外にいないんだ」
「戻るのか? 神に」
問いかける亜樹の顔は泣きだしそうだった。
取り残されるとでも思っているのだろうか。
「戻る気はない」
「でも。そうしたら沢山の人が、水不足のせいで死んだりするんじゃないのか?」
「亜樹はおれに戻ってほしいのか? 神に」
やるせない問いに、亜樹はどう答えればいいのかわからないと、途方に暮れた顔をした。
亜樹がもし一樹に行ってほしくないと思っていても、世界を救うために自分を犠牲にする道を選んだセシルの転生者だ。
そんな自分勝手な意見は絶対に言えない。
「悪かった。追い詰めるつもりじゃなかったんだ」
やるせなく微笑むと、亜樹は俯いてしまった。
「正直に打ち明けると今のおれでは、エルダたちの期待に応えることはできないんだ」
「? どうして?」
「セシルに救われたことで、おれは一命を取り留め、獣に変じても生き残ることができた。同時にセシルの強い影響力で世界を救済する際に使い果たした力のほとんどを取り戻すこともできたんだ。ただ原因はわからないんだけど、セシルの血を飲んだせいか、それともセシルがそ
れだけ特別だったのか。それ以後、おれの力はセシルの存在と密接に関わりを持つことになったんだ」
「それオレにも当て嵌まってる?」
まだ実感までは沸いていないだろうが、一応、自分のこととしても認識し、訊ねてくる亜樹に頷いた。
「今の亜樹は力を制街できないし、ましてやかつてセシルとして持っていた数々の奇跡を起こした力のすべてを取り戻してもいないだろ?」
「うん。そんなに偉大な大賢者の転生とは思えないくらい、オレってなんにもできないよな」
「亜樹が未覚醒の状態だと、おれは水神マルスとしての本来の力を発揮できないんだ」
「オレのせい?」
泣きだしそうな亜樹にかぶりを振る。
「宿命的なものだから気にすることないよ。それに逆に言い換えると、おれは確かにセシルのおかげで命拾いし、色々な制約から解放され、神としては異端な存在になった」
「どうして異端なんだ? 持っている力が同じなら」
「エルダたちの力の源は人間たちの信仰。それがこの世界での神の概念。その信仰の衰えが世界を崩壊へと向かわせているんだ。世界を支えるべき創始の神々への信仰が薄れていくことで、エルダたちの力が削がれていき」
「確か一樹は、自分の力の源はオレ個人だって言った。それって」
「そう。すでに神の概念からは外れる存在。例え昔と同じ力が使えても、まったく同じように水を従えることができても、根本的なところでおれはエルダたちと存在意義が異なっているんだ。それでおれを水神として呼び戻そうとするエルダたちのほうが、おれにしてみればどうかしてるんだよ。おれはすでにこの世界においては、神じゃないんだから」
長い説明を受けて亜樹はしばらく黙っていた。
自分の中で知らされた情報を整理しようとするかのように。
一様は黙って待った。
亜樹が自分から答えを導き出すまで。
「大体のことはわかったけど一樹に関することは。まだなにか隠されてことがあるにしても、それは後で知りたい。オレはなぜここにいるんだ?」
「亜樹」
「セシルは世界を救った救世主なんだろ? そのために伝説の偉人とまで呼ばれ、古代の人物だっていうのに、未だに大賢者と言えばだれでも知っているくらいに知名度が高いんだ。そのセシルが世界が崩壊に向かっている今、ごこにいる意味は?」
自分の出生の秘密を知ったことで却って亜樹は、自分が信じられなくなってしまった。
セシルは確かに偉大な人物だったかもしれない。
世界を救った人物かもしれない。
でも、一樹の説明によれば一番繋がりの深い一樹ですら、セシルの正体はわからないということだった。
世界を支えていた神々の、それも一番力の強い長、未だに兄弟神たちから戻ってくれと懇願されるほどの力を秘めた神、水神マルス。
そのマルスを救えるほどの力。
そして変えてしまった力。セシルはあまりにも普通ではない。
しかもセシルが生きていた年代は達かなる古代にも関わらず、その孫に当たり同時にセシル本人が転生した姿である亜樹が、世界が崩壊に向かっている達かなる未来に誕生したこと。
これは不自然極まりない。
まるで世界の危機に合わせて転生したようだ。
セシルが生きていた時代もそうだ。
神々が姿を消すことで、世界は崩壊への道を辿ったと一樹は言っていた。
0
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる