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第十三章 禁断の果実
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「おれも同じだよ、亜樹。おれが愛したのはセシルの魂で、別にセシル個人に執着していたわけじゃない。もし亜樹がどうしようもない性悪だとか、救いようのない可愛げのない性格だとか、そういう人に好かれない存在だったとしても、それがかつてのセシルと正反対だったとしても、同じ魂を持っているなら愛したよ。世界中が敵に回っても、おれが愛するのはおまえの魂なんだから」
「なんか照れるよ、一樹」
「別に大袈裟な例えじゃないんだぜ?」
「どういう意味?」
「さっき言っただろ? おれが現在も水神としての役割を放棄できない立場にあり、そういう枷を背負っていてもって」
「まさか一樹」
青さめた亜樹に苦い表情で頷いた。
「この世界はすでに限界にきていて、今それが水に現れている」
「呼び戻されてるのか? 戻ってきてくれって。マルスとして」
「正直に認めればそういうことになるな。今、大規模な水不足が発生するのが、ほぼ確定していて、それをなんとかできるのは、純粋に水を操ることができ、すべての水を統べる水神マルス。おれ以外にいないんだ」
「戻るのか? 神に」
問いかける亜樹の顔は泣きだしそうだった。
取り残されるとでも思っているのだろうか。
「戻る気はない」
「でも。そうしたら沢山の人が、水不足のせいで死んだりするんじゃないのか?」
「亜樹はおれに戻ってほしいのか? 神に」
やるせない問いに、亜樹はどう答えればいいのかわからないと、途方に暮れた顔をした。
亜樹がもし一樹に行ってほしくないと思っていても、世界を救うために自分を犠牲にする道を選んだセシルの転生者だ。
そんな自分勝手な意見は絶対に言えない。
「悪かった。追い詰めるつもりじゃなかったんだ」
やるせなく微笑むと、亜樹は俯いてしまった。
「正直に打ち明けると今のおれでは、エルダたちの期待に応えることはできないんだ」
「? どうして?」
「セシルに救われたことで、おれは一命を取り留め、獣に変じても生き残ることができた。同時にセシルの強い影響力で世界を救済する際に使い果たした力のほとんどを取り戻すこともできたんだ。ただ原因はわからないんだけど、セシルの血を飲んだせいか、それともセシルがそ
れだけ特別だったのか。それ以後、おれの力はセシルの存在と密接に関わりを持つことになったんだ」
「それオレにも当て嵌まってる?」
まだ実感までは沸いていないだろうが、一応、自分のこととしても認識し、訊ねてくる亜樹に頷いた。
「今の亜樹は力を制街できないし、ましてやかつてセシルとして持っていた数々の奇跡を起こした力のすべてを取り戻してもいないだろ?」
「うん。そんなに偉大な大賢者の転生とは思えないくらい、オレってなんにもできないよな」
「亜樹が未覚醒の状態だと、おれは水神マルスとしての本来の力を発揮できないんだ」
「オレのせい?」
泣きだしそうな亜樹にかぶりを振る。
「宿命的なものだから気にすることないよ。それに逆に言い換えると、おれは確かにセシルのおかげで命拾いし、色々な制約から解放され、神としては異端な存在になった」
「どうして異端なんだ? 持っている力が同じなら」
「エルダたちの力の源は人間たちの信仰。それがこの世界での神の概念。その信仰の衰えが世界を崩壊へと向かわせているんだ。世界を支えるべき創始の神々への信仰が薄れていくことで、エルダたちの力が削がれていき」
「確か一樹は、自分の力の源はオレ個人だって言った。それって」
「そう。すでに神の概念からは外れる存在。例え昔と同じ力が使えても、まったく同じように水を従えることができても、根本的なところでおれはエルダたちと存在意義が異なっているんだ。それでおれを水神として呼び戻そうとするエルダたちのほうが、おれにしてみればどうかしてるんだよ。おれはすでにこの世界においては、神じゃないんだから」
長い説明を受けて亜樹はしばらく黙っていた。
自分の中で知らされた情報を整理しようとするかのように。
一様は黙って待った。
亜樹が自分から答えを導き出すまで。
「大体のことはわかったけど一樹に関することは。まだなにか隠されてことがあるにしても、それは後で知りたい。オレはなぜここにいるんだ?」
「亜樹」
「セシルは世界を救った救世主なんだろ? そのために伝説の偉人とまで呼ばれ、古代の人物だっていうのに、未だに大賢者と言えばだれでも知っているくらいに知名度が高いんだ。そのセシルが世界が崩壊に向かっている今、ごこにいる意味は?」
自分の出生の秘密を知ったことで却って亜樹は、自分が信じられなくなってしまった。
セシルは確かに偉大な人物だったかもしれない。
世界を救った人物かもしれない。
でも、一樹の説明によれば一番繋がりの深い一樹ですら、セシルの正体はわからないということだった。
世界を支えていた神々の、それも一番力の強い長、未だに兄弟神たちから戻ってくれと懇願されるほどの力を秘めた神、水神マルス。
そのマルスを救えるほどの力。
そして変えてしまった力。セシルはあまりにも普通ではない。
しかもセシルが生きていた年代は達かなる古代にも関わらず、その孫に当たり同時にセシル本人が転生した姿である亜樹が、世界が崩壊に向かっている達かなる未来に誕生したこと。
これは不自然極まりない。
まるで世界の危機に合わせて転生したようだ。
セシルが生きていた時代もそうだ。
神々が姿を消すことで、世界は崩壊への道を辿ったと一樹は言っていた。
「なんか照れるよ、一樹」
「別に大袈裟な例えじゃないんだぜ?」
「どういう意味?」
「さっき言っただろ? おれが現在も水神としての役割を放棄できない立場にあり、そういう枷を背負っていてもって」
「まさか一樹」
青さめた亜樹に苦い表情で頷いた。
「この世界はすでに限界にきていて、今それが水に現れている」
「呼び戻されてるのか? 戻ってきてくれって。マルスとして」
「正直に認めればそういうことになるな。今、大規模な水不足が発生するのが、ほぼ確定していて、それをなんとかできるのは、純粋に水を操ることができ、すべての水を統べる水神マルス。おれ以外にいないんだ」
「戻るのか? 神に」
問いかける亜樹の顔は泣きだしそうだった。
取り残されるとでも思っているのだろうか。
「戻る気はない」
「でも。そうしたら沢山の人が、水不足のせいで死んだりするんじゃないのか?」
「亜樹はおれに戻ってほしいのか? 神に」
やるせない問いに、亜樹はどう答えればいいのかわからないと、途方に暮れた顔をした。
亜樹がもし一樹に行ってほしくないと思っていても、世界を救うために自分を犠牲にする道を選んだセシルの転生者だ。
そんな自分勝手な意見は絶対に言えない。
「悪かった。追い詰めるつもりじゃなかったんだ」
やるせなく微笑むと、亜樹は俯いてしまった。
「正直に打ち明けると今のおれでは、エルダたちの期待に応えることはできないんだ」
「? どうして?」
「セシルに救われたことで、おれは一命を取り留め、獣に変じても生き残ることができた。同時にセシルの強い影響力で世界を救済する際に使い果たした力のほとんどを取り戻すこともできたんだ。ただ原因はわからないんだけど、セシルの血を飲んだせいか、それともセシルがそ
れだけ特別だったのか。それ以後、おれの力はセシルの存在と密接に関わりを持つことになったんだ」
「それオレにも当て嵌まってる?」
まだ実感までは沸いていないだろうが、一応、自分のこととしても認識し、訊ねてくる亜樹に頷いた。
「今の亜樹は力を制街できないし、ましてやかつてセシルとして持っていた数々の奇跡を起こした力のすべてを取り戻してもいないだろ?」
「うん。そんなに偉大な大賢者の転生とは思えないくらい、オレってなんにもできないよな」
「亜樹が未覚醒の状態だと、おれは水神マルスとしての本来の力を発揮できないんだ」
「オレのせい?」
泣きだしそうな亜樹にかぶりを振る。
「宿命的なものだから気にすることないよ。それに逆に言い換えると、おれは確かにセシルのおかげで命拾いし、色々な制約から解放され、神としては異端な存在になった」
「どうして異端なんだ? 持っている力が同じなら」
「エルダたちの力の源は人間たちの信仰。それがこの世界での神の概念。その信仰の衰えが世界を崩壊へと向かわせているんだ。世界を支えるべき創始の神々への信仰が薄れていくことで、エルダたちの力が削がれていき」
「確か一樹は、自分の力の源はオレ個人だって言った。それって」
「そう。すでに神の概念からは外れる存在。例え昔と同じ力が使えても、まったく同じように水を従えることができても、根本的なところでおれはエルダたちと存在意義が異なっているんだ。それでおれを水神として呼び戻そうとするエルダたちのほうが、おれにしてみればどうかしてるんだよ。おれはすでにこの世界においては、神じゃないんだから」
長い説明を受けて亜樹はしばらく黙っていた。
自分の中で知らされた情報を整理しようとするかのように。
一様は黙って待った。
亜樹が自分から答えを導き出すまで。
「大体のことはわかったけど一樹に関することは。まだなにか隠されてことがあるにしても、それは後で知りたい。オレはなぜここにいるんだ?」
「亜樹」
「セシルは世界を救った救世主なんだろ? そのために伝説の偉人とまで呼ばれ、古代の人物だっていうのに、未だに大賢者と言えばだれでも知っているくらいに知名度が高いんだ。そのセシルが世界が崩壊に向かっている今、ごこにいる意味は?」
自分の出生の秘密を知ったことで却って亜樹は、自分が信じられなくなってしまった。
セシルは確かに偉大な人物だったかもしれない。
世界を救った人物かもしれない。
でも、一樹の説明によれば一番繋がりの深い一樹ですら、セシルの正体はわからないということだった。
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そして変えてしまった力。セシルはあまりにも普通ではない。
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