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第十三章 禁断の果実
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ノックもせずに亜樹の部屋に行くと、裏台に腰掛けていた亜樹が、驚いたような顔をしている。
どう見ても歓迎している顔じゃない。
誤解されている?
「オレ、今日、なにか怒らせるようなことした?!
下から窺ってくるような問いかけに胸を突かれた。
亜樹はどんな気分で一樹の訪れを、受け止めていたのだろう?
意味を理解していなかった?
「なにもなかったらきたらいけないのか、亜樹?」
「別にそんなふうには言わないけど」
言葉では否定しているが明らかに様子を窺っている顔だった。
「なんかあった? いつもなら」
「ちょっと待てよ、亜樹。おれは別におまえを抱くためだけにきていたわけじゃない」
「‥‥‥!」
返事はなかったが顔を赤く染めた亜樹に、ちょっと後悔した。
これは本当に誤解されてうだ。
「ごめん。言葉が足りなかった」
「一樹?」
言わなくてもわかっていたころ。
いや。
口に出してはいけなかったころがあったから、なんとなく気持ちは口に出さない。
そう決意しているところは確かにあった。
なにも言わす行動にだけ移していたら、亜種は自分の身体だけが目当てだと誤解しかねない。
いや。
もうされているのかも。
どう言えば信頼を取り戻せるのかわからなくて途方に暮れた。
「一樹? どうしたんだ? なんか変だよ?」
「エルスたちにまで鈍感だと言われたよ、おれは。どうやらかなり鈍いらしい。散々言われたからな、今」
「そうだね」
あっさり肯定されて沈没しそうになった。
恋人とまでは言わないが、少なくとむ嫌われてはいないと思っていた。
でも、これは。
「亜樹」
「なに?」
「お前もしかして自分の意思じゃなく、仕方なくおれに抱かれてのか?」
「なんて失礼な訊き方するんだよ、お前はっ?」
「だってお前おれがきたらすぐにそういう目的だと解釈するだろ? なんで逢いたいからだって一晩だって離れていなくないだけだって思ってくれないんだ?」
「それはだって一樹が」
困ったような亜樹の言い訳に、リオネスの言葉が蘇った。
『きみがそんな調子だと亜樹だって愛されてる自なんか持てないよっ!』
「ごめん」
強く抱きしめると亜樹は戸惑ったようだった。
「一樹? なんでさっきから謝ってばかりいるんだ? わからないよ」
わからない。
はっきりそう言われることで目が覚めた。
気持ちは口に出さなければ伝わらない。
わかっているつもりでわかっていなかった。
どれだけ身体を重ねても心は遠い。繋がれてもいない。
エルシアたちに指摘されなければ、気づかないまま失っていたかもしれない。
この生命よりも大切な人を。
「おれはただいつも亜樹の傍にいたかった」
「一樹」
「一晩も、いや、一瞬だって離れていたくない。ただそれだけだったんだ。別に怒ってい
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おれはただいつも亜材の傍にいたかった」
たかった」
「言われないとわからないよ、そんなこと。なんで今になって・・声が震えて泣いているのがわかった。
追い詰めて苦しめていたのだと、今頃になって気づく。遅すぎるのに・
「おれは生まれる前からお前を知ってる」
「え?」
「セシル。おれがマルスだよ」
ビクリと腕の中の華奢な体が震えるのがわかった。
いつのまにこんなに頼りない体付きになったんだろう?
男だったときよりずっと細い。
肩だって頼りない。
おれは一体亜樹のなにを見ていたんだろう。
「お前が夢で見たセシルが抱いていた銀色の獣。それがおれだよ、亜樹」
「嘘!」
「詳しく話すよ。おれたちの出逢いから別れまで。そしておれの正体も」
「正体」
愕然と呟いている亜樹の肩を抱いて、その隣に腰掛けた。
今夜はなにもしない。
そう心に誓った。
「これを言えばお前は苦しむと思ってた。ただでさえ蒼海石のピアスなんてしていて、しかも母親の出自は不明。そこへもってきて前世の話なんて知らせたら、絶対にショックを受ける。そう思って今まで隠してた」
「前世。もしかしてあのセシルって子?」
亜樹の声に小さく頷いた。
「セシルが誰なのか、それはおれも知らない。おれは創始の神々の長子、水神マルスなんだ」
「それって神々で一番偉いってこと?」
「昔の話だよ。セシルと出逢っておれは水神としての立場を放棄したからな」
「‥‥‥」
「まずは御伽話から始めようか。創世のころ、この世にいたのは血族ばかりで成り立っている神々だけだった。はじめに生まれたのがおれ水神マルス。次ぎが風神エルダ。そして海神レオニス。大地の女神、シャナ。炎の女神、レダ。力は産まれた順に比例している。何故かと言うと世界に欠かせない力を持ったものから順に生まれているからなんだ」
「一樹とレオニスとラフィンは同系統の神だよな。三人とも水が関係してる」
「そう。但しレオニスは海を、ラフィンは湖を司ってる。純粋に水を統べているのはおれなんだ。おれが水の司なんだよ」
「だから、エルシアやアレスが、一樹を特別扱いしてたんだ?」
気づいてたのかと笑うと、その位気づくよと亜樹が、ぷうと頬を膨らませた。
なんだが反応が女の子みたいだ。
どう見ても歓迎している顔じゃない。
誤解されている?
「オレ、今日、なにか怒らせるようなことした?!
下から窺ってくるような問いかけに胸を突かれた。
亜樹はどんな気分で一樹の訪れを、受け止めていたのだろう?
意味を理解していなかった?
「なにもなかったらきたらいけないのか、亜樹?」
「別にそんなふうには言わないけど」
言葉では否定しているが明らかに様子を窺っている顔だった。
「なんかあった? いつもなら」
「ちょっと待てよ、亜樹。おれは別におまえを抱くためだけにきていたわけじゃない」
「‥‥‥!」
返事はなかったが顔を赤く染めた亜樹に、ちょっと後悔した。
これは本当に誤解されてうだ。
「ごめん。言葉が足りなかった」
「一樹?」
言わなくてもわかっていたころ。
いや。
口に出してはいけなかったころがあったから、なんとなく気持ちは口に出さない。
そう決意しているところは確かにあった。
なにも言わす行動にだけ移していたら、亜種は自分の身体だけが目当てだと誤解しかねない。
いや。
もうされているのかも。
どう言えば信頼を取り戻せるのかわからなくて途方に暮れた。
「一樹? どうしたんだ? なんか変だよ?」
「エルスたちにまで鈍感だと言われたよ、おれは。どうやらかなり鈍いらしい。散々言われたからな、今」
「そうだね」
あっさり肯定されて沈没しそうになった。
恋人とまでは言わないが、少なくとむ嫌われてはいないと思っていた。
でも、これは。
「亜樹」
「なに?」
「お前もしかして自分の意思じゃなく、仕方なくおれに抱かれてのか?」
「なんて失礼な訊き方するんだよ、お前はっ?」
「だってお前おれがきたらすぐにそういう目的だと解釈するだろ? なんで逢いたいからだって一晩だって離れていなくないだけだって思ってくれないんだ?」
「それはだって一樹が」
困ったような亜樹の言い訳に、リオネスの言葉が蘇った。
『きみがそんな調子だと亜樹だって愛されてる自なんか持てないよっ!』
「ごめん」
強く抱きしめると亜樹は戸惑ったようだった。
「一樹? なんでさっきから謝ってばかりいるんだ? わからないよ」
わからない。
はっきりそう言われることで目が覚めた。
気持ちは口に出さなければ伝わらない。
わかっているつもりでわかっていなかった。
どれだけ身体を重ねても心は遠い。繋がれてもいない。
エルシアたちに指摘されなければ、気づかないまま失っていたかもしれない。
この生命よりも大切な人を。
「おれはただいつも亜樹の傍にいたかった」
「一樹」
「一晩も、いや、一瞬だって離れていたくない。ただそれだけだったんだ。別に怒ってい
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おれはただいつも亜材の傍にいたかった」
たかった」
「言われないとわからないよ、そんなこと。なんで今になって・・声が震えて泣いているのがわかった。
追い詰めて苦しめていたのだと、今頃になって気づく。遅すぎるのに・
「おれは生まれる前からお前を知ってる」
「え?」
「セシル。おれがマルスだよ」
ビクリと腕の中の華奢な体が震えるのがわかった。
いつのまにこんなに頼りない体付きになったんだろう?
男だったときよりずっと細い。
肩だって頼りない。
おれは一体亜樹のなにを見ていたんだろう。
「お前が夢で見たセシルが抱いていた銀色の獣。それがおれだよ、亜樹」
「嘘!」
「詳しく話すよ。おれたちの出逢いから別れまで。そしておれの正体も」
「正体」
愕然と呟いている亜樹の肩を抱いて、その隣に腰掛けた。
今夜はなにもしない。
そう心に誓った。
「これを言えばお前は苦しむと思ってた。ただでさえ蒼海石のピアスなんてしていて、しかも母親の出自は不明。そこへもってきて前世の話なんて知らせたら、絶対にショックを受ける。そう思って今まで隠してた」
「前世。もしかしてあのセシルって子?」
亜樹の声に小さく頷いた。
「セシルが誰なのか、それはおれも知らない。おれは創始の神々の長子、水神マルスなんだ」
「それって神々で一番偉いってこと?」
「昔の話だよ。セシルと出逢っておれは水神としての立場を放棄したからな」
「‥‥‥」
「まずは御伽話から始めようか。創世のころ、この世にいたのは血族ばかりで成り立っている神々だけだった。はじめに生まれたのがおれ水神マルス。次ぎが風神エルダ。そして海神レオニス。大地の女神、シャナ。炎の女神、レダ。力は産まれた順に比例している。何故かと言うと世界に欠かせない力を持ったものから順に生まれているからなんだ」
「一樹とレオニスとラフィンは同系統の神だよな。三人とも水が関係してる」
「そう。但しレオニスは海を、ラフィンは湖を司ってる。純粋に水を統べているのはおれなんだ。おれが水の司なんだよ」
「だから、エルシアやアレスが、一樹を特別扱いしてたんだ?」
気づいてたのかと笑うと、その位気づくよと亜樹が、ぷうと頬を膨らませた。
なんだが反応が女の子みたいだ。
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