105 / 140
第十三章 禁断の果実
(5)
しおりを挟む
身軽だからそういうのは得意なのだがどういうわけかばれた。
それも思いっきり。
しかもの夜は眠らせてもらえなかった。
その一度の失敗で懲りて一樹から逃げようという意思は捨てた。
さすがに二度も三度もそんな災難には遭いたくなかったので。
なんとなく受難の日々である。
たださりげなーくだが、一樹に慣らされている気がしないでもない。
その証拠に最近は軽く触れられるだけでも耐えられない。
勝手に声が出る。
そんなときの一樹はすごく優しい眼をしているが。
なんか思い返していると恥ずかしい。
もうやめよう。
「妥協案とか浮かばないのかい? 君ほどの者が」
「色々考えてはみてるんだけど、頭の中で想像しただけで認めないことがわかるからなあ」
「一樹も大変だ。わたしとしては憧れの方の実力のほどを見せてほしいところだが」
「やめろよ、アレス」
ムッとしたらしい一樹にアレスが笑う。
なんだか変だ。
アレスまで一樹が特別だみたいな言い方をしている。
そのアレスこそ炎と海の申し子だろうに。
「本心なのに。一樹には是非師事を仰ぎたいところだ」
「お断りだ。自分で覚えろ」
「冷たいな。憧れているのに」
「おまえが勝手に憧れてるだけだろうが」
あれえ?
頭が混乱してきた。
みんなの言い方を信じると一樹って実はすごく特別って気がするんだけど?
あれぇ?
なんか目が回る。
「亜様? おいっ。亜封っ!」
それが食事の席で聞いた最後の声だった。
「亜樹?」
優しい声がして誰かの手が横髪を怖く。
それを感じながらふと思う。
なんか寝ても覚めても一樹のことばかり考えてるなあ。
幻聴まで聞こえる。
「しっかりしろよ、亜樹っ!」
「え? 本物?」
「本物ってなんだよ、それ?」
寝台に横たわった亜樹の髪を梳きながら顔を覗き込んでいた一樹が、呆れたような顔をいる。
慣れたもので自分のベッドのように腰掛けていた。
まあほとんど毎晩この裏台で寝ているのだから当然かもしれないが。
「あれ? ここ、オレの部屋?」
「覚えてないのか? 食事の最中に倒れたんだ、お前」
「ああ。そういえばなんか目が回ったような気はする」
「おまえらょっと最近ちょくちょく倒れすぎたぞ? 大丈夫か? 身体が変化してからなんか、様子がおかしいぞ?」
「それ、自分のせいだって自覚ないのか?」
「あるわけないだろ。おれは倒れさせるほどの無茶はしてない」
「どんな判断基準だよ」
「でも、ほんとだからな。おまえが倒れるほど酷い真似はしてないんだ。ほんとに平気か?」
「なんか貸血みたいな感じはする。体からすっと力が抜けるっていうか。確かに一樹とは関係なさそうだけど」
だったら夜に気を失ってもよさそうだから。
あんまりにも行為が激しくて気を失うことはあるが、昼に倒れるときみたいに、ふうっと意識が遠のくような感じはない。
ほんとにどうしたんだろう?
でも、ほんとに一樹は無関係なのかな?
実は倒れたときを振り返ると、必ず一樹のことを考えてたりするんだよな。
さっきもそうだし。
「なに赤くなってるんだ、亜樹? 熱でもあるのか?」
「お前ってほんと鈍感」
「どういう意味だよ」
ムッとしたらしい一樹に、報復とばかりに教えないことにした。
倒れたときに考えているのは一樹のことだなんて。
「一樹は女の子と付き合ったこともなければ、多分好きになったこともない。違うか?」
「そうだよ。悪いか?」
「だから、鈍感だっていうんだよ」
「?」
わからないらしい一樹にクスッと笑った。
「とにかくすこし眠って安静にしてろ。お前がこんな調子だと、おれはよけいに困るんだ」
「一樹?」
「いいから眠れ。ついていてやるから」
なんだかごまかされた気はするけど仕方がないから目を閉じた。
「おやすみ」
軽く触れるだけのキスをした一樹に、気づかなかった振りをした。
「これはひとつの賭だけれどね、一樹」
夜にエルシアたちに呼ばれた一樹は、三人を前にして腕を組んでんでいた。
ここはエアの部屋である。
長の部屋だけあって一番立派だ。
小さいころはよく泊めてもらったが。
「亜樹に賭けてみるというのはどうだるう?」
「どういう意味だよ?」
「これはわたしの推測だけれどね。きみ亜樹に手を出しているだろう?」
なんでわかるんだと言いたげに一樹が引きつった顔になる。
「育ての親を舐めてはいけないよ、一樹。そのくらいすぐにわかる」
「この狸っ!」
「なんだいくたぬきって?」
「わからなかったらいいよっ!」
ぶつぶつ文句を言っている一樹に、エルシアが苦笑する。
「気づいたときはショックだったんだからね、これでも」
リオネスが怒っている。
いやな奴を敵に回したと一樹の顔には書いていた。
「それを現実として認めた上で、最近のね、亜樹の変調。あの理由を推測してみたわけだ
ど」
「?」
それも思いっきり。
しかもの夜は眠らせてもらえなかった。
その一度の失敗で懲りて一樹から逃げようという意思は捨てた。
さすがに二度も三度もそんな災難には遭いたくなかったので。
なんとなく受難の日々である。
たださりげなーくだが、一樹に慣らされている気がしないでもない。
その証拠に最近は軽く触れられるだけでも耐えられない。
勝手に声が出る。
そんなときの一樹はすごく優しい眼をしているが。
なんか思い返していると恥ずかしい。
もうやめよう。
「妥協案とか浮かばないのかい? 君ほどの者が」
「色々考えてはみてるんだけど、頭の中で想像しただけで認めないことがわかるからなあ」
「一樹も大変だ。わたしとしては憧れの方の実力のほどを見せてほしいところだが」
「やめろよ、アレス」
ムッとしたらしい一樹にアレスが笑う。
なんだか変だ。
アレスまで一樹が特別だみたいな言い方をしている。
そのアレスこそ炎と海の申し子だろうに。
「本心なのに。一樹には是非師事を仰ぎたいところだ」
「お断りだ。自分で覚えろ」
「冷たいな。憧れているのに」
「おまえが勝手に憧れてるだけだろうが」
あれえ?
頭が混乱してきた。
みんなの言い方を信じると一樹って実はすごく特別って気がするんだけど?
あれぇ?
なんか目が回る。
「亜様? おいっ。亜封っ!」
それが食事の席で聞いた最後の声だった。
「亜樹?」
優しい声がして誰かの手が横髪を怖く。
それを感じながらふと思う。
なんか寝ても覚めても一樹のことばかり考えてるなあ。
幻聴まで聞こえる。
「しっかりしろよ、亜樹っ!」
「え? 本物?」
「本物ってなんだよ、それ?」
寝台に横たわった亜樹の髪を梳きながら顔を覗き込んでいた一樹が、呆れたような顔をいる。
慣れたもので自分のベッドのように腰掛けていた。
まあほとんど毎晩この裏台で寝ているのだから当然かもしれないが。
「あれ? ここ、オレの部屋?」
「覚えてないのか? 食事の最中に倒れたんだ、お前」
「ああ。そういえばなんか目が回ったような気はする」
「おまえらょっと最近ちょくちょく倒れすぎたぞ? 大丈夫か? 身体が変化してからなんか、様子がおかしいぞ?」
「それ、自分のせいだって自覚ないのか?」
「あるわけないだろ。おれは倒れさせるほどの無茶はしてない」
「どんな判断基準だよ」
「でも、ほんとだからな。おまえが倒れるほど酷い真似はしてないんだ。ほんとに平気か?」
「なんか貸血みたいな感じはする。体からすっと力が抜けるっていうか。確かに一樹とは関係なさそうだけど」
だったら夜に気を失ってもよさそうだから。
あんまりにも行為が激しくて気を失うことはあるが、昼に倒れるときみたいに、ふうっと意識が遠のくような感じはない。
ほんとにどうしたんだろう?
でも、ほんとに一樹は無関係なのかな?
実は倒れたときを振り返ると、必ず一樹のことを考えてたりするんだよな。
さっきもそうだし。
「なに赤くなってるんだ、亜樹? 熱でもあるのか?」
「お前ってほんと鈍感」
「どういう意味だよ」
ムッとしたらしい一樹に、報復とばかりに教えないことにした。
倒れたときに考えているのは一樹のことだなんて。
「一樹は女の子と付き合ったこともなければ、多分好きになったこともない。違うか?」
「そうだよ。悪いか?」
「だから、鈍感だっていうんだよ」
「?」
わからないらしい一樹にクスッと笑った。
「とにかくすこし眠って安静にしてろ。お前がこんな調子だと、おれはよけいに困るんだ」
「一樹?」
「いいから眠れ。ついていてやるから」
なんだかごまかされた気はするけど仕方がないから目を閉じた。
「おやすみ」
軽く触れるだけのキスをした一樹に、気づかなかった振りをした。
「これはひとつの賭だけれどね、一樹」
夜にエルシアたちに呼ばれた一樹は、三人を前にして腕を組んでんでいた。
ここはエアの部屋である。
長の部屋だけあって一番立派だ。
小さいころはよく泊めてもらったが。
「亜樹に賭けてみるというのはどうだるう?」
「どういう意味だよ?」
「これはわたしの推測だけれどね。きみ亜樹に手を出しているだろう?」
なんでわかるんだと言いたげに一樹が引きつった顔になる。
「育ての親を舐めてはいけないよ、一樹。そのくらいすぐにわかる」
「この狸っ!」
「なんだいくたぬきって?」
「わからなかったらいいよっ!」
ぶつぶつ文句を言っている一樹に、エルシアが苦笑する。
「気づいたときはショックだったんだからね、これでも」
リオネスが怒っている。
いやな奴を敵に回したと一樹の顔には書いていた。
「それを現実として認めた上で、最近のね、亜樹の変調。あの理由を推測してみたわけだ
ど」
「?」
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる