104 / 138
第十三章 禁断の果実
(4)
しおりを挟む
「離せったらっ!」
「照れ隠しも程々にしないとまた襲うぞ、亜樹?」
冗談に思えないから怖い。
思わず抵抗をやめると、なにもなかったみたいに一樹が離れた。
こういう性格してたっけ?
一樹って。
なんか掴み所がなくて水みたい。変な形容詞だけど。
水といえば体温も低いよな、一樹ってなんか変わってる。
「一樹なんか変わった?」
上半身を起こして訊ねると、ベッドの近くで背中を向けていた一樹が顔だけで振り向いた。
「いや。別に? なんで?」
「なんとなく」
本当になんとなくだったから他に言いようがなかった。一樹は怪訝そうな顔をしてたけど。それとも変わったのは亜樹のほう?
身体だけじゃなくて心も?
わからない。
自分のことなのに。どうして一樹を拒まないのかさえ。
「別に昨夜、無理はさせてないはずだけど、具合でも悪いのか、亜樹?」
「バカッ!」
「わっ。なんだよ? 亜樹?」
「露骨なこと言うなよっ! デリカシーがないな、一樹はっ!」
「そりゃあ男だから出然だろ?」
はっきり言われて困ってしまった。やっぱり変わったのは亜樹のほう?
確かに男だったはずなのに、一樹の心がわからない。
どういう心理だとそういうことがしたくなるのかさえわからない。
なんだかいきなり生まれ変わったみたいで困る。
「なに困ってるんだ、亜樹? さっきからほんとに変だぞ?」
「わけわかんないんだよ、オレもっ!」
「ああ。いきなり性別が変わって、ついでに心理的なものも変わったから戸惑ってるんだ。ゆっくり慣れていくしかないな」
「おまえ‥‥‥ほんとに十六か、一樹? 時々、悩みたくなるよ、オレは」
「‥‥‥」
肉体年齢、十六でも実年齢不明の一樹は黙りこくるしかなかった。
「それで残すところ、後二日だけれど。どうするか決めたのかい、一樹?」
食事の後で突然、エルシアがそういった。
亜樹が変わったあの日から、毎朝、繰り返されている問いである。
意味は知らないが。
誰に訊いても教えてくれないので。
一樹とうやむやに終わった後で、亜樹の身体が変化したことについては、ある一定の力を持つ者(つまりエルシア、アストル、リオネス、アレスの四人)には、一目でバレてしまった。
今にも指摘しそうだったので、一樹に頼み込んで四人を引きずり込み、黙秘を頼んだ。
これにはみんな苦笑して頷いてくれたが。
その日の食事の後から必ずエルシアが一樹に問うのである。
昨日の言葉を持ち出すと「これで後残すところ三日だね。どうするか決まったかい?」だった。
多少の言い回しの違いはあるが、なにかの決断を一樹に求めている。
それもたぶん期限付き。
でなければ後何日とは言わないだろう。
なんだかこの件については、みんな亜樹には知られないようにしているのか、誰に話を聞いてもはぐらかされる。
それこそ杏樹や翔にまで。
置いていかれたみたいでちょっと寂しかった。
「それなあ。はっきりいって無理難題って奴だからな。おれの本音としては断りたい。というか、そもそもできないんだけど。あいつら認めないだろうなあ。なんか特別視されてるみたいだから、おれ」
頭を抱え込む一樹にリオネスが笑った。とても優雅に。
「仕方がないね。きみは特別だし伝説だから」と言ってお茶を飲む。
亜樹には意味不明なのだが、他の者には通じているようだった。
でも、前ならなにげなく見逃している姿なのに、性別が変わってから時々、リオネスに見惚れているときがある。
今もちょっと赤くなりそうだった。
あんまり絵になってたから。
でも、こういうときってすぐ一樹にばれるし。
視線を投げると案の定、一樹が睨んでいた。
これはまた今夜、なにかされるかも。
今の亜樹にとって恋愛対象に制限はない。
男でも女でもその対象になれる。
だからかもないが、あの日から一樹は亜樹が他の誰かに気を取られると、必ずその夜部屋にやってきて、状況に流されるままにうやむやなことになっている。
一応拒否はするのだが、実際に触れられると、なにひとつ抵抗らしいことはできない。
逃げようとする思考さえ浮かばない。
心を占めているのは一樹だけで、そのときだけは他の誰も浮かばない。
形だけの抵抗はしてみせるものの、亜樹が本当の意味で拒まないせいか一樹は一応、それで納得しているようだった。
正直なところ、一樹の独占欲の強さには驚いてる。
それを拒めない自分にはもっと驚いているが。
どうして彼の好きにさせているのかわからない。
もし恋愛感情を抱いているなら、それこそ他の誰かに気を取られる事態なんて起きないはずで。
はっきりいって今は自分で自分がわからない。
ただいつも、どんな場面でも一樹の視線を気にしているのは事実だった。
今、リオネスを気を取られたことで、一樹の機嫌を気にしたように。
なんだか流されているような気がしないでもないが。一樹の情熱に押されているのだろうか。
不明だ。
でも、最近そのせいか夜にノックの音がすると、条件反時的に逃げたくなる。
これを実行に移すと一樹がキレるので絶対にやらないが。
実は一度やったのだ。
そうそう好きなようにはならないぞと意思表示するだけのつもりで、焼き餅を焼いて訪ねてきた一樹から逃げ出そうとした。
窓から。
「照れ隠しも程々にしないとまた襲うぞ、亜樹?」
冗談に思えないから怖い。
思わず抵抗をやめると、なにもなかったみたいに一樹が離れた。
こういう性格してたっけ?
一樹って。
なんか掴み所がなくて水みたい。変な形容詞だけど。
水といえば体温も低いよな、一樹ってなんか変わってる。
「一樹なんか変わった?」
上半身を起こして訊ねると、ベッドの近くで背中を向けていた一樹が顔だけで振り向いた。
「いや。別に? なんで?」
「なんとなく」
本当になんとなくだったから他に言いようがなかった。一樹は怪訝そうな顔をしてたけど。それとも変わったのは亜樹のほう?
身体だけじゃなくて心も?
わからない。
自分のことなのに。どうして一樹を拒まないのかさえ。
「別に昨夜、無理はさせてないはずだけど、具合でも悪いのか、亜樹?」
「バカッ!」
「わっ。なんだよ? 亜樹?」
「露骨なこと言うなよっ! デリカシーがないな、一樹はっ!」
「そりゃあ男だから出然だろ?」
はっきり言われて困ってしまった。やっぱり変わったのは亜樹のほう?
確かに男だったはずなのに、一樹の心がわからない。
どういう心理だとそういうことがしたくなるのかさえわからない。
なんだかいきなり生まれ変わったみたいで困る。
「なに困ってるんだ、亜樹? さっきからほんとに変だぞ?」
「わけわかんないんだよ、オレもっ!」
「ああ。いきなり性別が変わって、ついでに心理的なものも変わったから戸惑ってるんだ。ゆっくり慣れていくしかないな」
「おまえ‥‥‥ほんとに十六か、一樹? 時々、悩みたくなるよ、オレは」
「‥‥‥」
肉体年齢、十六でも実年齢不明の一樹は黙りこくるしかなかった。
「それで残すところ、後二日だけれど。どうするか決めたのかい、一樹?」
食事の後で突然、エルシアがそういった。
亜樹が変わったあの日から、毎朝、繰り返されている問いである。
意味は知らないが。
誰に訊いても教えてくれないので。
一樹とうやむやに終わった後で、亜樹の身体が変化したことについては、ある一定の力を持つ者(つまりエルシア、アストル、リオネス、アレスの四人)には、一目でバレてしまった。
今にも指摘しそうだったので、一樹に頼み込んで四人を引きずり込み、黙秘を頼んだ。
これにはみんな苦笑して頷いてくれたが。
その日の食事の後から必ずエルシアが一樹に問うのである。
昨日の言葉を持ち出すと「これで後残すところ三日だね。どうするか決まったかい?」だった。
多少の言い回しの違いはあるが、なにかの決断を一樹に求めている。
それもたぶん期限付き。
でなければ後何日とは言わないだろう。
なんだかこの件については、みんな亜樹には知られないようにしているのか、誰に話を聞いてもはぐらかされる。
それこそ杏樹や翔にまで。
置いていかれたみたいでちょっと寂しかった。
「それなあ。はっきりいって無理難題って奴だからな。おれの本音としては断りたい。というか、そもそもできないんだけど。あいつら認めないだろうなあ。なんか特別視されてるみたいだから、おれ」
頭を抱え込む一樹にリオネスが笑った。とても優雅に。
「仕方がないね。きみは特別だし伝説だから」と言ってお茶を飲む。
亜樹には意味不明なのだが、他の者には通じているようだった。
でも、前ならなにげなく見逃している姿なのに、性別が変わってから時々、リオネスに見惚れているときがある。
今もちょっと赤くなりそうだった。
あんまり絵になってたから。
でも、こういうときってすぐ一樹にばれるし。
視線を投げると案の定、一樹が睨んでいた。
これはまた今夜、なにかされるかも。
今の亜樹にとって恋愛対象に制限はない。
男でも女でもその対象になれる。
だからかもないが、あの日から一樹は亜樹が他の誰かに気を取られると、必ずその夜部屋にやってきて、状況に流されるままにうやむやなことになっている。
一応拒否はするのだが、実際に触れられると、なにひとつ抵抗らしいことはできない。
逃げようとする思考さえ浮かばない。
心を占めているのは一樹だけで、そのときだけは他の誰も浮かばない。
形だけの抵抗はしてみせるものの、亜樹が本当の意味で拒まないせいか一樹は一応、それで納得しているようだった。
正直なところ、一樹の独占欲の強さには驚いてる。
それを拒めない自分にはもっと驚いているが。
どうして彼の好きにさせているのかわからない。
もし恋愛感情を抱いているなら、それこそ他の誰かに気を取られる事態なんて起きないはずで。
はっきりいって今は自分で自分がわからない。
ただいつも、どんな場面でも一樹の視線を気にしているのは事実だった。
今、リオネスを気を取られたことで、一樹の機嫌を気にしたように。
なんだか流されているような気がしないでもないが。一樹の情熱に押されているのだろうか。
不明だ。
でも、最近そのせいか夜にノックの音がすると、条件反時的に逃げたくなる。
これを実行に移すと一樹がキレるので絶対にやらないが。
実は一度やったのだ。
そうそう好きなようにはならないぞと意思表示するだけのつもりで、焼き餅を焼いて訪ねてきた一樹から逃げ出そうとした。
窓から。
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる